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刺股(さすまた)の使い方〜膂力や状況により正解が異なる〜

お手柄事案として今後も語り継がれるであろう大ニュースがあったので、刺股(さすまた)について、の知識と実態、取り巻く環境などを警備のプロとして記事にしておきたいと思います。
(例によって値段設定はしておきますが、無料で全文読める投げ銭方式です。)

実を言うとX(Twitter)の相互さんから「ひょっとして鈴木さんですか?」と聞かれて内容をこのニュースを知ったのですが、確かにどことなく私に似てる気はしますね。

https://youtu.be/Nv8zCaISk7E?si=UOm9iJNLRHvabijV

ただタッパ含めてもう一周り彼の方が大きいし別人ですが、機動隊員以外で私より刺股が似合う人は初めて見た気がします。

三国志時代の猛将の様な膂力を誇示する事による複数の相手に対する威嚇効果だけでなく、強盗犯の逃走手段であるバイクを叩き倒して、使用を諦めさせる冷静さなど、手放しで尊敬出来る大活躍だと言えましょう。

キチンと訓練を受けた警備員(ガードマン)と言う説が大半ですが警備会社名も出ていませんし、店長クラスの従業員の可能性も十分にあります。何にしても私人逮捕YouTuberなどと違い、知名度でお金を稼ごうと言う輩ではないと思いますし、必要以上の詮索は良く無いと釘を差しておきますが。


しかし、この映像が公開されるや絶賛だけでなく『この人の刺股の使い方は正しくない、専門家もこう言っている』と言った批判をする様なツイート等も目に付くようになって来ました。

なので、私も実践含めて経験豊富な警備のプロとして思う所を書いておきます。

ただし上の記事の専門家も別におかしな事を言っている訳では有りません。

あくまで【『彼の恵まれたガタイ含めて様々な条件を考慮して導き出された正解』をそうした条件を無視して真似するのは問題だ、素人や膂力に乏しい人はセオリー通りの使い方を無理のない範囲でして欲しい】と言うだけのお話ですね。

もちろん、今回の専門家は刺股メーカーの人と言う事で『複数本をお店に売り込みたい』と言う点も否定は出来ない部分ですが、そもそもメーカーによって強度は違いますので、強度が低めの物であれば『叩く』使い方は事故や破損の原因になると言う面もあるだろう。

ちなみに公共施設や貴金属店などに警備保険と絡めた仕様書などで配備基準が定められる場合は、叩く使い方にも当然耐える性能の物が選ばれるでしょう。(勿論、刺股であれば何でも良いとそこまで指定しないお客様もいますが…)

当然お値段も数万〜10万ほどしますし、動画の彼の様な選ばれし体躯を持つ人以外は『訓練した上で2人で使う事が推奨される』と言う融通の効かない代物だったりします。

勿論、効果や頑丈さよりも、女性や年配者などでも取り回しが出来ることを優先した軽量、値段も安めで数千円の物もありますが、値段相応の強度な事が多いので、あくまでそうした膂力に乏しい方が多い職場で『暴漢や凶器と、自分の身体の間に構えて防御重視で使用する』物だと考えるのが良いと思います。

また、最近少しずつ知名度を上げている刺股オプションパーツの『ケルベロス』ですが、実際の使用感として『一発きりだが効果的な捕縛機能が付加される』と言う代物なので、予算に余裕があれば是非、対応の刺股とセットで揃えて欲しい代物ではあります。

ただ、難点として、ケルベロスをセットした刺股を取り出しやすい形で配備しておく事が現実的には難しく、建物や少なくとも内装の決定時点での計画性が望まれる所はあります。



次に銃刀法に限らず多くの護身具などが、取り締まりの対象であり、世界的にも厳しいルールを徹底している日本で、『刺股(さすまた)』は何故、防犯目的で施設等に備え付ける事が社会的に容認されているのか?と言う話をしておきます。

勿論、木刀やスタンガン等をカウンター等に忍ばせていると言った客商売のお店などもあるとは思いますが、はっきり言って裁判等ではかなり不利な扱いとなるので、社会的には容認されていないと考えるのが良いでしょう。

刺股は『運搬に不向きで隠し持つにも嵩張り、刺突などによる致命傷を負わせる可能性が他の道具よりはマシだから』と言う微妙なバランスによって各施設への配備が推奨されている例外的な存在なのです。

突き詰めると『暴漢を撃退する』と言うだけの目的であれば、もっと鈍器や長物の方が運び易かったり、使い易い面もあります。

ですが、同時にそれを使って犯罪が行われる、特に施設から持ち出されて他の場所で悪用されるとなると用意した施設等の管理責任まで問われる事態になるわけです。

割と大人の都合ですが、刺股を悪用した強盗はあまり聞きませんよね。船などで見かけるような『レスキュー用の斧』などが悪用された事例なんかは普通にありますからね。無難な調整だと私は思っています。

暴漢のほうが持っていそうな刃物を中心にした法律周りなどの記事は以前こちらに書きましたので、参考にどうぞ。

ようやく使い方の話に移りますが、刺股の使い方として今回の彼の使い方は、専門家も言う様に決して、教科書的な使い方ではありません。

最初に触れましたが、あくまで
①膂力に恵まれた達人である彼が、
②複数の強盗犯を相手に、
③屋外で、また逃走手段であるバイクの前で、
と言う色々な条件を鑑みた上での最適解であり、お手柄と正確に評価すべきです。

そうでない場合はやはり、複数人で複数の刺股を構え、遠巻きに犯人の施設への接近を防ぐ様な使い方が理想と言える訳です。

③屋外でないのに彼の様に刺股を振り回したら…訓練などで刺股を触った事がある方の決して少なくない方に、壁や什器、照明などを破損させてしまった経験があるのです。

逆に言うと彼は余程恵まれた環境で訓練をしたり、実践を積んてきたのかも知れません、底恐ろしいですね。本当に戦国武将の生まれ変わりかも知れません。

②複数人相手の時点で、本来のメインとなる突きは、そのまま繰り出している状態が他の相手にとっての隙になってしまいます。
彼の様に大きく振りかぶる長物としての使い方は実に理に叶っています。

①の使い手の膂力の問題が実は一番大きいです。


②や③で環境要因の話をしましたが、そもそも『刺股を用いた一番効果的な使用法』として

『悪魔の持つ大きなフォークの如く、暴漢の胴や袈裟に対して突きを繰り出した威力をそのままに海老反らせつつ壁や、掬い上げてそのまま2mの弧を描きながら床に、叩き付けて相手を半殺しにする』


があります。

あえてもう一度言いますよ

『相手を半殺しにする』


ですからね。

当たり処が悪ければ即死します。

でもご安心ください、そんな使い方は腕力だけで無く支えて振り回す側の体重も必要なので、それこそ100kg超えの達人にしか出来ない訳です。

ただ、そうした膂力にが必要になる様な場面が実際、起きていると言う話です。

日本の犯罪自体は減少傾向にあり、体感だけが悪くなっていると言うのが最近の治安状況ですが確かに今後も安全神話が続くと考えるのは流石に楽観が過ぎます、私の会社も多くの中小警備会社と同じく、隊員のメインは体力よりも経験と言う熟年層がメインです。

無理をしないのは当然ですが、彼のお手柄によって、これからは警備員も選ばれた体躯を持つ人が高給でスカウトされたり、大手の様に、週1で訓練の業務が広まったり、ジム等の福利厚生などが充実して行くと警備業界の先行きも明るくなるかなと思っています。

そう、刺股とセットで巨漢の使い手を配備するべきなんですよ。

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