魔女ハンヨジン
ドラマ『秘密の森』の二次創作です。
「ハンヨジン警部シリーズ」に含まれる話です。
「朝日の当たる家」(1)~(12)、「大統領候補の演説」(1)~(5)は、2022年の話ですが、その前の2021年の話です。
ハンヨジンは、まだ、警部補という設定です。
2021年10月31日は日曜日だった。
ねらいすましたように、ハンヨジンが子供の時から通っている教会のハロウィーン=パーティの魔女役が、今年は彼女に回ってきた。
その日は、まだ明るいうちに、幼稚園や小学校低学年の子供が、小さい魔女やお化けになって、"Trick or treat!"と言いながら、信者の家を、おどかしてまわる。
どの家も扉を開けて、おおげさに悲鳴を挙げて、お菓子を差し出す。
なかに、どうしても、扉を開けない家がある。すると、小さい魔女が、今夜、この家に大きな魔女がやってくるぞ! と叫んで、みんなで囃し立てて、通り過ぎていく。
魔女の呪いをかけられた家は、かぼちゃちょうちんだらけになって、すっかり、日が暮れてから、扉を開け放つ。
そこに、11歳以上18歳未満の少年少女が、小振りの箒の柄を飾り付けたのを持って、集まってくるのだ。
箒の柄を飾り付けるのは、それに跨って飛ぶことがない、すなわち、魔女ではない、という印である。
魔女ではないが、幽霊である。だから、白い大きな布を被ってくる。無論、両目のところに穴が開いていて、指が隠れる長袖が付いている。
幽霊たちが、この世の人の姿になってパーティをしているところに、魔女があらわれるのだ。
そして、魔女は、幽霊が元の幽霊の姿に戻れなくなる魔法をかけて、去っていくのだった。
この魔女迎えというのは、ハンヨジンの実家が信仰している教会の信者たちの、独特のハロウィーンの祝い方である。実際のところ、一部の裕福な信者たちの持ち回りで、ハロウィーン=パーティをしているのであった。ハンヨジンの実家も、魔女迎えの家になったことがあった。当番は順が決まっているわけではなく、今年は病人がいるとか、今年は息子が外国の大学に行って部屋が空いたとか、それぞれの家の不都合や好都合を考慮して決めている。だから、なかには、何度も魔女を迎えている家もあった。
去年は、ウィルス感染症対策の外出規制が厳しく、ハロゥイーン=パーティは開かれなかった。
今年は、マスク着用とアルコール消毒と換気を徹底しつつ、去年の当番と今年の当番の二箇所に分けて、パーティを開催することになった。パンデミックが始まってから、教会の幼稚園保育園が閉鎖されて、自宅を小規模保育所に提供している家が複数あり、そういう家は、魔女迎えの家にならなかった。
そして、今年は、満18歳の人も出席できることにした。その人たちは、去年なら18歳未満で出席できるはずだったパーティが開かれなかったのだから。
魔女役は、通常、魔女迎えの家とは別の家の信者が担当する。
去年、出番がなかった魔女と、今年の魔女とが、それぞれを迎えてくれる家に、化けて出ることになった。
2021年10月31日の午後、丘の上の家をめざして、小さい魔女やお化けたちが、わいわい、がやがや、さわぎながら、のぼっていった。
家の裏に小川が流れている。漢江の南岸の支流に注ぐ川である。家に比べて、庭の方が、ずっと広くて、二階建ての母屋から、川岸の四阿まで、長い長い曲がりくねった廻廊がある。屋根はあるが壁のない吹き抜けの、庭を見るための廻廊である。夏の庭は、鬱蒼とした森のようになる。秋には、半分がた、落葉する。
小さい魔女やお化けたちは、丘の上の、門を開け放った庭に入って行き、両側に欅が植えられている石畳を歩いて、母屋の玄関先まで来て、"Trick or treat!"と、口々に、わめいた。
"Trick or treat!"
小さい魔女が、杖を振りまわす。
"Trick or treat!"
お化けたちが、飛び跳ねる。
玄関の両側の花壇では、薔薇が秋の花を咲かせている。
"Trick or treat! Trick or treat! Trick or treat!"
玄関の扉は、ぴったり、閉じたままである。
ついに、小さい魔女が、宣言した。「今夜、この家に大きな魔女がやってくるぞ!」
そして、わああ、わああ、と、小さい魔女と、お化けたちは、大はしゃぎしながら、庭の門の外まで、駆けもどっていった。
魔女の呪いをかけられた家の中には、ハロウィーン=パーティを準備する人々が集まっていた。そのなかには、ファンシモクとハンヨジンと二人の養子のキジョンもいた。
台所で料理を手伝っていたハンヨジンは、外の小さい魔女の声を聞いて、みんなと笑った。
他の部屋では、ファンシモクがキジョンに手伝わせて、箒を飛び回らせる仕掛けを拵えていた。
ファンシモクが、以前、ハンヨジンに話したことがある。15歳のとき、脳の手術をしてくれた医者が、僕に、こう言いました。医学的には、もう、できることは何もない。だから、わたしの得意の手品を教えてあげよう。いつか、誰かに、手品を見せて笑わせたい、と君が思う日が来ることを願って。
手伝いの少年少女たちは、一番、背の低い子の丈を、メジャーで測って、それと同じ距離を空けて、廻廊に、かぼちゃちょうちんを置いていった。夜になれば、右足の先にも左足の先にも、無気味な笑顔が見えるだろう。廻廊の周りはもちろん、庭の小道や、門から母屋までの道の周りも、かぼちゃちょうちんを、木の枝から吊り下げたり、根元に置いたりした。母屋の窓や戸口にも、所狭しと、かぼちゃちょうちんを置き並べると、これでよし、と、少年少女たちは、引き揚げていった。
玄関のかぼちゃちょうちんたちは、にたにたと、少年少女たちの姿が門の外に消えていくのを見済ましてから、花壇の薔薇たちに笑いかけた。
日が暮れて、丘の上の家の、窓や扉など、およそ外との出入り口のすべてに置かれた、かぼちゃちょうちんと、庭じゅうのかぼちゃちょうちんに、灯が入った。
(つまり、豆電球が一斉に点灯した)
家の中の電灯は、反対に、全部、消えた。
母屋の玄関の扉が開け放たれた。
門から入ってきた幽霊たちが、白い長い手(袖)をゆらゆらさせて、小箒を振りかざして、踊るように、石畳を歩いた。
玄関の外でも中でも、無気味な笑顔のかぼちゃちょうちんたちが、歓迎の光を投げてきた。
母屋の玄関には、二階がない。
奥の部屋への扉が開いていて、豆電球をいっぱい付けた、大きな鉢植えの木が見える。クリスマスツリーと同じである。豆電球以外のオーナメントが無いだけである。
ハロウィーンツリーを目当てに、開いている扉を通り抜けると、二階まで吹き抜けの広い居間に出た。
居間のまんなかにハロウィーンツリーがあった。ツリーの向こうににテラスが見えている。テラスのガラス扉の向こうに、外のかぼちゃちょうちんも見えていた。
右手前の端に階段がある。階段を上がり切ったところの廊下の常夜灯の小さな明かりが点いていた。
左手の端は、玄関の横の花壇に面した壁である。昼間なら、窓の向こうに薔薇の花が見える。今は、かぼちゃちょうちんの灯りが射していた。
幽霊たちが、ツリーの周りに、飾り立てた箒を置いていった。
箒が10本並ぶと、ばん! と大きな音を立てて、玄関の扉が閉められた。
幽霊たちが、ばあ! と言って白い布を脱ぎ捨てた。
天井の電灯が点いて居間全体が明るくなった。
ようこそ! と、おとなたちが、二階の廊下から居間を見下ろして、挨拶した。ハンヨジンも、にこにこ笑って、そのなかにいたが、ファンシモクの姿は見えなかった。
魔女迎えの家の主人のキムおばさんが、あの世からの客への歓迎の挨拶を述べた。それから、プログラムを発表した。最初は箒の柄のコンテスト、続いて、「小麦粉切り」「りんご食い競争」「ダンス」「晩餐」「スナップ=ドラゴン」、最後が表彰式である。賞品もある。幽霊全員が参加できるが、今夜は、どのゲームにも全員参加というわけではなく、「小麦粉切り」は4組、「りんご食い競争」は2組、と決められていた。
そして、最初と最後との間のどこかで、プログラムに入っていないことが起こるのだ。
二階の廊下のおとなたちも、居間の少年少女たちも、キムおばさんを見ている間に、何か白い布を被ったものが床を這って、脱ぎ捨てられた白い幽霊の皮を集めていた。そいつだけ、さっき、玄関の扉が、ばん! と閉められたとき、白い幽霊の皮を被ったままで、床に倒れたらしい。白い布の塊のようになったそいつは、テラスに出て行った。
居間のガラス戸が開け放たれて、テラスに出て行けるようになっていた。テラスは、六角形を半分に切った形で、三方のガラス扉を全部閉めると温室になる。一方が廻廊に続いている。母屋から廻廊への出口は台所にもあって、そっちから伸びてきた廊下と、テラスから伸びて行く廊下とが、母屋から少し離れたところで合わさって一つになる。
今夜は、テラスから廻廊に続く扉は、初めから、開いていた。「小麦粉切り」はテラスで、「りんご食い競争」は四阿でやることとされた。
「小麦粉切り」というけれど、テラスに用意されているのは、ジェンガである。二つのテーブルに一つずつ、ジェンガが載っていた。
ジェンガというおもちゃが、まだ、なくて、6ペンスという単位の硬貨があった時代のゲームの、「見立て」である。
りんご食い競争をやると、そこらじゅう、ずぶぬれになるので、居間でやらないのはわかるが。
「まさか、川にりんごを浮かべて競争するんじゃないでしょうね」と、誰かが言った。
だいじょうぶ、四阿に大きな金属の盥が置いてあるから、と誰かが教えた。それも、ウィルス感染防止のために、二つ、置いて、別々に、顔を突っ込むようにしてあるから。一組めの対戦が終わったら、水を入れ替えて、二組めが対戦するようにしてあるから。
川の水じゃないでしょうね。
だいじょうぶ、水道の水をタンクに入れて運んできてあるから。
だけど、ジェンガを居間でやって、りんご食い競争をテラスでやってもいいじゃないか、なんで、寒い廊下を歩いて寒い四阿まで行かなくちゃいけないんだ、と誰かが言った。
できるだけ、たくさんの、ジャックを見るためよ、と誰かが答えた。
かぼちゃちょうちんは、ジャック=オ=ランタンと呼ばれるが、ジャックの笑顔がえんえんと続く廊下を歩いていって、りんごを浮かべた水に、ジャックそっくりに口を開けて、突っ込んで、がぶりと、りんごに歯を立てて、顔ごと持ち上げるため、らしい。
なんやかんやと言ってるうちに、箒の柄のコンテストが始まった。
みんなで、ツリーの周りを巡りながら、拍手と歓声の大きさで、一等から三等まで選ぶのだが、奇抜さで一番すごいのと、可愛らしさと華やかさとで一番ほほえましいのと、これは、ほんものじゃないかと、誰もが言う、とても古そうな箒とが、best3に並んだ。古い箒の柄には、これも古そうな布が巻いてあった。
箒には名まえを書いていないし、みんなで幽霊の白い皮を脱ぐ前に、ツリーの周りに置いたので、どの箒が誰のものなのか、本人以外には、わからない。
best3内での順位の発表は最後の表彰式にまわして、「小麦粉切り」こと、ジェンガに移った。
前半は、二つのグループに分かれてリーグ戦、後半は、前半の勝者同士のくじ引きで相手を決めて、一つのジェンガで、トーナメント戦をおこなう。
ジェンガは、熱戦になった。
決勝戦は、18歳と12歳との対決になった。
12歳の選手は、キジョンだった。果てしなく息詰まる展開が続いた。
キジョンが、ふと、テラスのガラス扉の方を見て、それから、タワーに手を伸ばしたが、うまくパーツを引き出せず、とうとう、倒してしまった。
18歳が優勝者となった。優勝者が、さっき、何を見たの、とキジョンにきいた。何か、わからないけど、外にいました、とキジョンは答えた。
みんなは、「りんご食い競争」をやるために、テラスの外に出て行った。廻廊は、曲がりくねっているうえに、先の方が、暗くて見えない。おまけに、庭木の影が、なかなか、無気味である。
廻廊を歩きながら、ジャック、と言って笑ったり、ちょっと、なんか、いるよ、と言ったり、指差して、ほら、とか、あ、白いのがいる、などと言ったり、悲鳴を挙げたり、し合った。こういうのは用意してなかったはずだ、などと言う者もいた。ちょっと、みんな、そろってる? 10人、いる? などと言う者もいた。
四阿に行くまでに、あそこにもいた、あっちにもいた、と、何人もが幽霊を見た。スマホに撮った猛者もいた。確かに、白いものが写っていた。きゃあー、と悲鳴が挙がった。
四阿も暗くて見えなかったが、先頭が一歩、踏み込んだ途端、ぱっと、電灯が点いた。わあ、と笑い声が挙がった。
(センサー付きの四阿である)
四阿は、四方八方吹き抜けなので、換気は充分すぎるほどである。
片隅に、空のバケツと、水で満タンのポリタンクと、りんごを盛った籠が、二つずつがある。
二つの金盥に、水を張って、りんごを、いっぱい、浮かべてある。盥の横に笊が置いてある。
二人が、それぞれの盥の前に膝をついて、よーい、どん! で、同時に顔を突っ込んだ。
一個、齧って、歯で掬い取り、横の笊に入れて、また、盥に首を突っ込む。
まわりで応援する方も、取り囲んで首を突き出して、跳んでくる飛沫を、ものともせず、声を挙げ続けた。
5分間で、ゲーム終了。どっちがたくさんのりんごを取れたか、数えた。
残った、りんごと水を、バケツに空けて、ポリタンクの水を盥に入れて、籠のりんごも入れて、次の二組の対戦が始まった。
明るい四阿にいる間、誰も、10人、揃っているかなんて、きかなかったし、数えもしなかった。
りんご食い競争は熱気に溢れていたが、二回の対戦が終わって、廻廊を歩いて居間に戻るときは、みんな、寒くなってきて、急ぎ足だったので、幽霊を見る暇もなかった。
テラスは明るく、中に、テーブルと、飲み物が用意されているのが、廻廊からも見えた。居間は電灯が消えて、ツリーのイルミネーションだけが見えている。
廻廊からテラスに入ると、飲み物から湯気が立っているのがわかった。みんな、喜んで、コップを手に取った。一同、飲み終わって、コップをテーブルに戻した。
一個だけ、飲み物が減っていないのが見えた瞬間、テラスの電灯が消えた。
わっと、みんな、豆電球の灯るツリーの周りに集まった。ツリーの他には、階段の上の常夜灯が点いているが、上から二段めまでしか、光が届いていない。
二階から、フォーッフォッフォッフォッという笑い声と、すごい勢いで、箒が横っ飛びに飛んできた。フォッフォッフォッと笑いながら、箒がみんなの頭の上を飛び回った。箒の上で、マントがひらひらしているように見える。箒がツリーのそばまで降りてきたり、飛び上がったりを、繰り返す。みんなは、自分の箒をつかんで振り回した。それで、頭の上に来る箒を、追い払うか、叩き落とすか、しようというのである。
テラスから、アッハッハッハッハッハッと、笑い声がして、みんなが振り向くと、とんがり帽子の魔女の、黒い影法師が立っていた。外からのわずかな明かりで、マントを着ているのと、箒を逆さに持って杖のように床に立てているのとが、わかった。
ツリーの周りにいる皆の頭の上を飛び回るものは、なくなっていた。
魔女は、テーブルのコップに向けて、箒を、ちょいと傾けてから、言った。「おまえたち。あれを飲んだね。もう、戻れないよ。おまえたちの、この世の運命を、占ってやろう」
魔女は、背中に手を回して、マントの陰から何かを出した。それをテーブルに置くと、ぼうっと丸いものが見えたと思うと、透き通って、縁が、きらりと光った。水晶玉だった。
魔女は、ツリーの方に箒の穂先を向けて、言った。「さあ、さあ、なまえを呼んだら、箒を置いて、ここまでおいで」
魔女は、箒の穂で、テーブルから少し離れたところに、円を描いた。床に光の輪ができた。
魔女が呼んだ。「ミニョン」
ミニョンは、箒をツリーの下に置いて、一歩、二歩、三歩、と歩いて、光の輪の中に入った。
魔女「さあ、ミニョン。よーく、見るんだよ」
ミニョンは、引き込まれるように、水晶玉を見つめた。やがて、淡い色の霧が、透き通った球のなかに広がるのが、ツリーの周りに立っている少年少女たちからも、見えた。
ミニョンは、夢中になって見つめていた。ついに、「あ……」と、つぶやいた。途端に、水晶玉は、元の透明な球に戻った。
魔女「さあ、ミニョン、ツリーのそばに、お戻り」
ミニョンは、うっすら、ほほえみながら、ツリーのそばまで、戻った。
魔女が呼んだ。「ユジン」
ユジンも、水晶玉のなかに、自分の未来を見て、ツリーのそばに戻った。
魔女が呼んだ。「スヒョン」
魔女が呼んだ。「ジヌ」
魔女が呼んだ。「ドギョン」
魔女が呼んだ。「ウニョン」
魔女が呼んだ。「ミンギュ」
魔女が呼んだ。「チャノ」
魔女が呼んだ。「セジョン」
魔女が、10人めを呼ぼうとした時、ツリーのそばから、小さな箒が飛び出した。あの、柄に古い布を巻き付けた、古い箒である。古い小箒は、魔女をめがけて、ぴゅーっと、飛んでいった。魔女は大きな箒をかざして、小さな箒を迎え撃った。
かーん! と、ものすごく甲高い音がして、ものすごい稲妻が走った。ツリーの周りの少年少女たちは、皆、頭を覆って上半身を折り曲げたり、床に伏せたりした。
居間の天井の照明が点いた。少年少女たちは、顔を上げた。床に伏せていた者は、立ち上がった。
魔女は、いなくなっていた。
テラスのテーブルの向こう側に、キジョンが立っていた。一つだけ飲み物が残っていたコップを持ち上げて、「冷めちゃってる」と言った。廻廊から、ハンヨジンが入ってきて、「台所であたためなおしてきてあげる」と言って、コップを受け取った。そして、ツリーの周りのみんなを見て、にこっと笑って、廻廊に出て行った。
ツリーの周りのみんなは、歓声を挙げて、拍手をした。キジョンが、御辞儀をした。
居間の二階から、手を叩く音と、キムおばさんの声がした。「さあ、皆さん、次は、ダンスですよ」
そう言った途端、コロブチカの音楽が掛かった。みんなは、ツリーの周りに広がり、キジョンも加わって、踊り始めた。
キジョンは、ジェンガの決勝戦の相手と組んで踊った。キジョンよりも、ずっと背の高い、18歳である。
曲がだんだん速くなるにつれ、みんな、盛り上がって、大はしゃぎになった。
おまけに、アップテンポの電子楽器の演奏に変わると、もはや、だれも、フォークダンスなどせず、めいめい、テトリスのダンスを始めた。
キジョンは、みんなから離れて、部屋の端の方に行った。ハンヨジンが、飲み物を持って、にこにこしながら、立っていた。
ハンヨジン「また、ちょっと、冷めちゃったけど」
キジョン「ちょうどいいです」
ダンスが終わり、次は、晩餐、ということで、すっかり空腹になった十代の若者たちが、食堂へ、なだれこんでいった。
キジョンは、まだ、ハンヨジンのそばに残っていた。ファンシモクが、二階から降りてきた。
ハンヨジン「あの、二階から箒を飛ばしたときの、フォーッフォッフォッていう声、すごかったわ。あんな声が出せるなんて、ファン検事さんが」
ファンシモク「まさか、僕じゃありません。ハン警部補さんが、あんな声を出せるとは思わなかったから、僕は度肝を抜かれてしまいました」
ハンヨジン「まさか、それこそ、まさか、わたしじゃありません。ファン検事さん、からかわないでください」
ファンシモク「僕には、あんな声は出せません」
ハンヨジン「まさか、キジョン?」
キジョン「僕には、無理です」
ハンヨジン「そうよね」
ファンシモク「僕にも、無理です」
ハンヨジン「わたしにも、無理ですよ」
3人は、顔を見合わせた。一瞬、天井の照明が瞬いて、「フォッフォッ」という、短い笑い声が聞こえた。
元通り、明るくなった居間。
食堂から、18歳のセジョンが呼びに来た。「キジョナ。全員揃わないと、晩餐が始まらないから、早く来て」
キジョンは、ハンヨジンにコップを返して、急いで、食堂に行った。
*参照
『ハロウィーン・パーティ』(アガサ・クリスティー著、中村能三訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、1977年初版、1985年22刷)
"Hallowe'en Party", Agatha Christie, Agatha Christie Limited.1969.
ハロウィーン・パーティ (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫)
著者 アガサ・クリスティー (著),中村 能三 (訳)
https://honto.jp/netstore/pd-book_02381944.html
発売日:2003/11/01
出版社: 早川書房
レーベル: クリスティー文庫
サイズ:16cm/431p
利用対象:一般
ISBN:4-15-130031-7
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