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臙脂色の愛

"コウテイ解散"

金曜日の7時間目。日本史の授業は自習だった。

調べ物をするついでにTwitterを開いた私の目に飛び込んできた6文字は頭の中を白く染め何も考えさせてくれなくなった。嘘だと思った。嘘だと信じたかった。
自習課題の穴埋めプリントを進める私の心には穴が空いた。
自習の後半、課題が終わってコウテイの事しか考えていない頭で友達と話している私は必死に笑顔と声を作っていただろう。少しでも頭の中を整理したい自分がいた。

本当に解散してしまったのか…
そう実感はまだしていない
多分信じたくないからだろう。信じたらコウテイの終わりが見えてしまうと思っているからだろう。いわゆる現実逃避だ。嘘であって欲しいと思い続けている。


私がコウテイに出会ったのは2年前の今頃。
理由は忘れたが少し心を病んでいた時だった。何をしても心の底から笑える日が少なかったと思う。
そんなときネタパレに出演していたコウテイを見た。
全身臙脂色のマオカラースーツ。髪を立てた1人と八二分けの1人。インパクトのある見た目と芸風に私は一瞬で見入ってしまった。
久しぶりに笑顔になれた日だった。
その日から録画でコウテイのネタを何回も見返し気づいた頃にはネタを覚えていた。
心の傷をコウテイが癒してくれた。それがお笑いを好きになるきっかけでもあった。

コウテイに出会った日からもっとこの人達を知りたいと思う一心でYouTubeではネタを漁りWikipediaでプロフィールを調べTwitterをフォローしInstagramを調べた。
下ちゃんはInstagramをやってない。九条くんのSNSアカウントはどちらも鍵垢。なぜ鍵垢なのかを必死に調べた覚えがある。とりあえず自分の持っているアカウント全てでフォローリクエストを送った。まだ許可はされていない。

2人を知っていく段階で"コウテイ"と検索をかけると必ず【不仲】というワードが出てきた。不仲?あんなに楽しそうにネタをやっている人達が?あんなに顔を近づけてネタをやっている人達が?私には信じられなかったが調べる度に謎が出てくる2人に私はすっかり魅了されていた。
当時結成8年目だった彼らは過去に2回解散しているという。どちらも喧嘩やコンビ仲の悪化だというが芸風からは不仲を全く感じさせないあたりがプロだと思った。
コウテイを調べれば調べるほどもっとネタが見たいと思った。私の頭の中をコウテイが染めていく感覚があった。

お笑いは元々好きだったがお笑いに関する知識はほとんどなかった。劇場があること、お笑いライブが毎日のように行われていること、テレビ出演以外にもラジオやコラム、音楽など沢山の仕事をしていることを知った。まだ若手な彼らは劇場での仕事がほとんどだった。そんな中テレビに出たタイミングで私はコウテイに出会えて良かったと思う毎日だった。
授業が暇な時にはノートに何度も彼らの名前、似顔絵、ネタの台詞を書いて時間を潰した。頭の中では出囃子を流し彼らを登場させ漫才をさせた。
日が経つにつれて私の脳みそは臙脂色に染まっていった。
それが私の幸せだった。

お笑いの知識が増えていくとやはり思うのは生でネタを見たいということ。直にお笑いに触れたいということ。しかし私は地方住みの学生。1番近い劇場は東京。お笑いの本場大阪で一日中劇場をハシゴしてライブに行っている人を見ては羨ましいと呟く日々だった。なんで近くに劇場がないのか、なんで地元でのお笑いライブが少ないのか毎日のように嘆いていた。 



そんな中去年の春、兄の引越しのために家族で東京へ行くことになった。せっかく東京に来れた!私はダメ元でコウテイのライブの出演予定を調べてみた。
家に帰る予定の日。幕張イオンモール劇場の出演者一覧にコウテイの名前がある。

運命だと思った。

こんな機会次いつあるか分からない。絶対に行きたい。
生でコウテイのネタが見たい。親に懇願し前日にチケットを取った。前日からワクワクでなかなか寝付けなかった。当日は緊張で開場時間の30分前くらいに着いてしまってソワソワしていた。

会場が暗くなり流れ始めた出囃子は私が何十回も聞き覚えのある曲だった。ステージの真ん中に置いてあるサンパチマイクに向かって彼らが小走りで登場した。トップバッターで出てきた彼らはテレビや写真で見るまんま。会場をコウテイ色に染めていく。ネタ時間の10分が一瞬にして終わった。夢にみた時間を過ごした。他の芸人さんのネタを見終わり会場から出る時さえもまだ私の興奮は止まらなかった。
いち早く感想を伝えたくて気がついたら既読のつくわけない下ちゃんのDMにメッセージを送っていた(笑)

そこから2回夏休み中と12月の初め、千葉の祖母の家に行く予定がある度にコウテイも東京での仕事があった。

本当に運命だと思った。

夏は急遽ルミネと有楽町シアターをハシゴすることになった。Twitterで譲ってもらったB列のセンターブロックの席から見たコウテイは春よりも輝きを増していたと思う。いや、増していた。
有楽町でのトークライブも終わり家に帰った後、ライブで2人が話してた内容を忘れたくなくて、いつでも楽しかった時間を思い出せるようにしたくてメモに思い出せる限りの2人のやり取りを書いていた。気がついたら何スクロールもできるほどの凄い文字数になっていて自分でもどれだけ忘れたくないんだよと笑ってしまった。

冬に見た時、聞き覚えのある出囃子に心を躍らされた私はM-1目前の2人を一瞬も見逃すまいと瞬きを忘れるくらいまで目を開き続けネタを脳裏に焼き付けた。2人は本当に楽しんで漫才をしていることを改めて実感した。

M-1グランプリの敗者復活の日。私はバイトの休みを取り朝から出番順を決めるYouTubeでの生配信を待っていた。始まった。コウテイの姿が見当たらなかった。まだカメラに写っていないだけだろう。違った。
NONSTYLEの石田さんからコウテイの欠場が知らされた。聞き間違えだと思いダブルタップをし10秒時を戻した。しかしそれは事実だった。コンビ名のフリップを貼るボードの右下には既にコウテイの名前があった。急いでTwitterに飛ぶ。

トレンド1位
"コウテイ欠場"

私の目に飛び込んできた6文字は頭の中を白く染め何も考えさせてくれなくなった。嘘だと思った。嘘だと信じたかった。

理由は体調不良。確かにM-1直前のライブも休演が多かった。M-1前の調整だと思っていたけれど違ったんだ、来年こそはとしか思うことが出来なかった。

しかしその直後の九条くんの休養発表。尋常じゃなくストイックな彼は自分をどれだけ追い詰めていたのだろう。私には到底想像がつかない。彼が壊れてしまう前に公式から発表されたことに安堵を覚えた。下ちゃんも前向きなコメントをしていて私は九条くんの復帰を首を長くして待っていた。

今年に入りピンでの活動がメインとなった下ちゃんは家族も支えながら1人でコウテイを背負っていて私達が思っている何十倍も多忙だったと思う。それもあってか年が明けてすぐ下ちゃんからコロナ陽性の報告。どうかチョココロネであって欲しいという思いは2021年のM-1グランプリの時にも感じた。取り敢えずゆっくり休んで元気になってまたあの輝く笑顔と芸能界最強の変顔を見せて欲しいと思っていた。

下ちゃんが戻ってきてから1週間後の今日、コウテイの解散が発表された。

正直私はコウテイは必ず体調万全の状態で九条くんが戻ってきて今年こそM-1の決勝にストレートで行くためにまた2人で頑張っていくものだと思っていた。今年こそは大阪に行きコウテイの出番を何回も見ようと思っていた。単独も復活してくれると思っていた。KTIお笑いグランプリだって見たかった。大阪に行くこと、コウテイを沢山見ることを目標にバイトも始めた。コウテイの世界にもっともっと触れてみたかった、感じたかった。

なんで?どうして?という感情しか今はない。
何度も衝突を繰り返してきた2人だけど最近は分かり合えていたものだと思っていた。何度も話し合いを重ね、うまく分かち合えたはずだと思っていた。けれど実は違ったのかもしれない。本当の事は2人にしか分からないからなにも言えないけれど私の心が落ち着くのにはしばらく時間がかかるだろう。解散の事実を受け入れられるかどうかは分からない。多分ずっと引きずっているだろう。

あの2人だからこそ表現出来るネタ、伝えられることがあると思う。私はもう一度見たいと願っている。可能性はもしかしたら限りなく低いかもしれないけれど"コウテイ再結成"のニュースが見たい。トレンド1位"コウテイ再結成"の文字が見たい。Twitterで下ちゃんが"コウテイ再結成します!!!しまってこーーー!!!"とツイートする日をいつまでも待っています。なによりM-1グランプリの決勝の舞台で臙脂色のマオカラースーツを着た2人がせり上がってくる姿が見たい。その姿を見た私は涙が滲んだ目でネタをまともに見ることは出来ないだろうけれど。

取り敢えず今は完全なるコウテイロス。
私は元気の源を失った気分だ。今ネタを見たり2人の姿を見たら100%涙を零してしまうだろう。見なくても考えるだけで涙腺が緩み、鼻の奥がツーンとする。
解散がいかに辛いか、コンビという関係がいかに儚くて脆くて繊細なのかを実感した一日でした。
コウテイのファンを辞めるつもりは一切ありません。これからコウテイという存在が無くなってしまったとしても応援し続けます。2人がまた出会う日まで。

まだ可能性を信じさせて。
臙脂色の愛をありがとう。

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