「大道芸を好きになる」についてのレポート

 わたしは大道芸が好きです。でも、周りで大道芸が好きだという人を見たことがありません。パフォーマンスを見て感じるすごい、おもしろい、たのしい、という感覚はシンプルかつ根源的なものであり、老若男女問わず、偏りなく満遍なくいろんな人に響きうると思っています。しかし、そこへたどり着くまでが遠いと感じています。そもそも好きか否かの土俵にあがる機会すら少ない。身近なようで身近じゃない。
 そこで「大道芸を好きになる」ということについて、自分が現場で感じたことや、連れて行った知人らの反応、ほかのお客さんのようすなどをもとに、当たり前のことと偏見と勝手な考察とを織り交ぜながら、文章や図解にしてみました。見る側の分際でここまで考え込んでる人はあんまりいない気がするので、誰かの何かしらの共感や気づきをくすぐれたらいいなと思います。

1.大道芸に対する行動レベル

 大道芸を見ているお客さんは、基本的に通りすがりの初見か、リピーターかのどちらかだと思います。後者は、界隈では珍しくありませんが、外のひとたちから見ると不思議に感じられるようです。実際、普段の生活で「大道芸が好き」と、言うとびっくりされるし、言われたらびっくりします。「大道芸で同じ人を何度も見に行く」というのは、スポーツ観戦や映画鑑賞やライブ参戦なんかと比べると、あまりメジャーな行為ではありません。たとえ、道で面白い!すごい!と感じても、その人のことを調べよう、もう一度見に行こう、とはなりにくいようです。

 上の図は、大道芸に対する、一般人(非パフォーマーといういみ)の行動レベルについて表したものです。下から上へ段階を踏みながら、【大道芸?なにそれ?】という状態から【大道芸に自ら足を運ぶ(=好き、リピーター)】という状態へとレベルアップしていきます。わたしはこれまで、10人くらい、大道芸に足を止めたことがないひと(【知っている】層)を、大道芸の現場に連れていきました。はじめのうちは、「大道芸を見に行くってどういうこと?投げ銭ってどうしたらいいの?」と戸惑いますが、最終的にはみんな満足して「この人が一番良かった!」なんて語ってくれたりします。そしてほぼ100%の確率で、「もし誘われなかったら自分から見ようとは思わなかった」と言います。 

2.日常生活における大道芸との接点


 上図に、大道芸を目撃しうる場所と、大道芸に関心のある人・ない人それぞれの出没範囲等を独断で分類しました。【大道芸を目撃しうる場所】は、駅前、公園、商業施設、大道芸フェスティバル、ライブハウス・バーなどがあり、左から右へゆくにつれて狭く深く濃い世界になります※。【大道芸が好きな人が出没しうる範囲」はそのすべてを網羅しますが、【大道芸に関心のない人が大道芸に遭遇しうる範囲】は、まず自分から足を運ぶことはありえないので、駅前から公園、商業施設までなど左に寄ると考えます。対して、ベテランや、人気と集客力のあるパフォーマーさんの登場頻度は、個人差はあれどなんとなく右の方に偏ってきます。そうした方々はやはり熟達されているので、お客さんに「また見たい」と思わせたり、「この人のことをもっと知りたい」という気持ちにさせるのがうまいと感じます。つまり、固定ファンをつくるためのパワーがつよい。しかし、【大道芸に関心のない人】がつよめのパフォーマーさんに遭遇する機会は多くありません。これが、「この人の大道芸をもう一度見たい」という行動につながりづらい、イコール、リピーターが生まれにくい一因になりうるのではないかと考えています。
(※追記:優劣を示す意図はありません。)

 もちろん、一部の大道芸人さんにしか固定ファンをつくるパワーがないと言うつもりではないことを明言しておきます。わたしが大道芸を好きになったきっかけは駅前です(その人に出会うまで大道芸はスルーしてました)。好きになるか否かは相性やタイミングにもよると思うので、もちろんすべての大道芸人さんに固定ファンがつく可能性があります。しかし、やはりパフォーマーさんによって打率には差があると思われます。(だからこそパワーのあるパフォーマーさんがイベントに呼ばれたり、イベントを企画したり、右寄りの活動をすることができる)

3.行動レベルと3つの壁


 大道芸に対する行動レベルがあがっていく過程には、3つの壁があると仮定します。

 第一の壁は、足を止めるか否か。途中で立ち去るのではなくそもそも足を止めることをしない場合、要因はそれぞれです。たとえば興味がないとか急いでいるとかで大道芸を見ることが選択肢がない人、「たかが路上」という見くびっている人、お金を要求されることをよく思わない人…親が子供に、「見たらお金を払わなくちゃいけないから足を止めないで」と言っているのを聞いたこともあります。お客さんが少ないと止まりづらいということもあるかもしれません。少人数だと、拍手を求められたときになんとなくプレッシャーになったりします。ほかにも、パフォーマーさんに絡まれるのがこわいとか、途中で抜けたときにいじられるのがいやだからそもそも止まらない、というような警戒心も感じられます。
 第二の壁は、投げ銭を入れるか否か。日本人にはチップや投げ銭の文化がないとか、最近は昔に比べて浸透してきてるとか、いろんな視点での論争があると思います。よく大道芸を見に行く1人としては、投げ銭をいれることに戸惑ったり抵抗感があったりする人は少なくないと感じています。大道芸人さんが投げ銭トークをしたあとによく「お客さんの笑顔が消えました」「空気が重くなりました」と話されるのを聞きます。観客が慣れていればお馴染みの口上ですが、大道芸慣れしてない人たちばかりだと本当に場が盛り下がっているな、と感じられることもあります。(もちろん、しらけさせないテクニックをお持ちの方もたくさんいらっしゃいます。)路上パフォーマンスを見ながら財布を取り出すと、連れに「えっ、お金払うの?」と驚かれたことがあります。また、周りを見ていても、すごく楽しそうだったにも関わらず、投げ銭をいれたがる子供に「いれなくていい」と諭している親を見たことがありますし、「これだけ?」という子供に10円玉を1枚握らせているパターンもありました。これも大道芸の口上で耳にしますが「みんなが払っているからいいや」という考えの人もいるでしょうし、路上でやっている=無料だと捉えている人もいるでしょう。
 第三の壁は、すすんで見に行くか否か。これは好みのパフォーマーさんに巡り合えるかどうかが大きいかもしれません。先にも書きましたが、特定のパフォーマーさんを好きになるかは、相性とタイミング…演る側の調子や、見る側の事情や気分も影響すると思います。ですので、これを読んでいるあなたにもし好きなパフォーマーさんがいるのであれば、それはめちゃくちゃ幸せなことだと思います。おめでとうございます(?)
 さて、これらの3つの壁は、どう対処したらよいのでしょうか。みなさまお気づきのことと思いますが、見る側が壊そうと意識して壊すものではないですよね。大道芸人さんたちがこれらの壁をぶち壊すべく武器を磨かれております。なので「がんばってみんなの壁を壊したってください!」という気持ちと、「わたしのぶんの壁を壊してくれてありがとう!」という気持ちで生きていきましょう(???)

4.好きループの形成

 大道芸人さんたちは、大道芸とひとくくりにするにはもったいないくらい、みなさん多種多様なパフォーマンスをされています。それらにランダムに出会えるチャンスがいっぱいあるので、見に行く機会さえあれば誰かしらの何かしらが引っかかるはずです。そして、もし特定のパフォーマーさんを好きになっても、自然とほかの人を目にする機会がたくさんあります。同じポイントで順番に演ってた違う人、タイムテーブルを組んだ隙間でたまたま見かけた人、夜会で目立ってた人、イベントで共演してた人、パンフレットの写真を見て気になった人…こうして好きの対象はどんどん広がっていきます。

 好きな人はずっと好きだし、新しい好きも生まれ続けます。いろんな人がいすぎているので、大道芸に飽きる瞬間が来づらいのです。

5.大道芸が好きな人を増やすには

 冒頭でもお伝えしましたが、パフォーマンスを見て感じるすごい、おもしろい、たのしい、という感覚はシンプルかつ根源的なものであり、老若男女問わず、偏りなく満遍なくいろんな人に響きうると思っています。なので、一度パフォーマンスを受け入れる価値観が整備されてしまえば、あとは好きのループに入っていけるものと信じています。そのためには、先述した3つの壁を壊しておきたいところです。足を止めるか否か、投げ銭を入れるか否か、すすんで見に行くかの壁です。こちらも重ねてになりますが、これら3つの壁は大道芸人さんがぶち壊そうとされているものです。大道芸人さんたちは、単なる技やテクニックだけでなく、そうした話術やコミュニケーションを磨いていらっしゃるのですから素晴らしい。尊敬。大好き。
 では、わたしたちは何もせずその大道芸人さんの努力を享受し、楽しんでいるだけでよいのでしょうか。答えは簡単です。楽しんでいるだけでいいです。見て、楽しんで、お金をはらう、が基本形だと思います。しかし、「いろんなひとに大道芸を好きになってほしい」「一緒に見に行くひとをつくりたい」という方もいらっしゃるかもしれません。
 ここで、【大道芸に対する行動レベル】の図を再掲します。

 大道芸を好きになってほしい対象の行動レベルがどれくらいなのかによって、巻き込むためのアプローチが変わってくる可能性があります。みなさんなら、それぞれの段階にいる人に対して、どのように大道芸との接点をつくられますでしょうか。
 以下に、わたしなりの見解をご紹介します。


 とりあえず大道芸フェスティバルに誘う。
 それが一番いいと思いました。関心がない人が接触しうる範囲外に、パワフルなパフォーマーさんが集うのですから、そこへ連れていきます。そして、あとの壁ぶち壊し作業はパフォーマーさんにゆだねます。わたしが10人巻き込んで一番打率が良かったのは大道芸フェスティバルです。あくまで、「特定の人を勧めたい」ではなく「大道芸を好きになってほしい」場合です。

 関心のない人を大道芸フェスティバルへ連れていくメリットは、おおきく2つあると考えます。
 まずひとつめに、目的として受け入れやすいこと。「大道芸は自分から見に行くものではない」という認識の人が多いです。なので「大道芸を見に代々木公園へ行こう」とか「〇〇さんっていう人がくるからイクスピアリに行こう」とか言うと、「どうして???」と違和感をあたえてしまう可能性があります。ですが、大道芸フェスティバルであれば、屋台や出店などが充実していたり、イベントやお祭りとして受け入れやすいです。
 ふたつめは、軽い気持ちでいろんな人がみれること。いきなりイベントやライブハウスに連れて行くのは、お連れさまの嗜好や関係性にもよりますが、多少リスクがあります。ネタが常連さん向けだったり、ファンだらけの空間に委縮してしまったり、パフォーマンスそのものに集中できないとか、お連れさまが温度差を感じて冷静になってしまうとか、そんなことがあってはもったいないです。でも、大道芸フェスティバルなら大丈夫です。いわばビュッフェとかバイキングみたいなものです。パンフレットやタイムテーブルから好きなパフォーマンスを好きな順番で、自由にスケジュール組むことができるのです。いろいろな人をバランスよくたくさん見ることができ、もし合わなければ最悪途中で見るのを辞めることもできます。また、イベントとは違い投げ銭制なので、未知のものへの先払いによるプレッシャーを感じさせません。

(おまけ)タイムテーブルを組む際のちゅうい

 ご新規のお連れさまを大道芸フェスティバルへ連行するにあたって、気を付けたほうがいいポイントも補足しておきます。それは、「無茶なタイムテーブルを組まない」ことです。自身の反省も含まれております。大道芸が好きであれば、ポイントの端から端まで移動するとか、空腹や尿意に耐えることは慣れているでしょうが、お連れさまはそうではないかもしれません。また、みなさん普段からされていることと思いますが、事前に、たくさん歩いたり地面に座ったりする可能性があることを伝えておくと親切ですよね。というわけで、大道芸フェスティバルのスケジュールを組むときのポイントもまとめました。ぜひ楽しい週末をお過ごしください。


さいごに
 いろいろ書きました。大道芸は、誰かの迷惑になったり、身を滅ぼしたりすることもなく、プラスにしか作用しない文化だと思っています。わたしは、人類みな大道芸を好きになれ!なんてことは考えておりません。そうではなくて、パフォーマンスに出会うべき人がひとりでも多く、はやく、パフォーマンスに出会うことができたらいいと思います。で、いろんな人にとって、大道芸が今より身近なものになったらいいなと思います。おこがましい願いですが、今回書いたものが、そのきっかけのひとつになれたらいいなと思います。

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