二次元に行けないオタクが、三次元をサバイブするために-4巻.zip(ひがしやしき)に寄せて-

自虐と美少女に求める救い

前作までのひがしやしきは、自虐と美少女への逃避的な偏愛をひたすら往復していたように思う。
「こじらせオタク、死にかけの一手」という曲すらあるぐらいなのだから、「美少女」とは二次元美少女を指しているように思えるが、2ndアルバム「のあくま」収録の「mASHIro」は突然去ってしまった女性に対する未練が情けないほどに綴られており、対象は二次元に限ったものではないのではないかと感じている。

ただ共通しているのは、情けない自分への救いを美少女に求める点であり、そしてその思いがあまりに一方通行である点だ。

「君にお金も貸して欲しいし飲み過ぎたら家でも送って欲しい いつまで続けてるの既読無視」(mASHIro)「君じゃなくて僕が望む永遠」(君が永遠でとても嬉しかった)

しかし、ともすれば現実逃避に見えるような一方的な思いこそが、「オタクにかかった永遠ののろいが 今日も僕を生かしてく 何度救われたかわかんない これ以上何も求めちゃいない」(君が永遠でとても嬉しかった)というリリックのように、一人のオタクの中で自己完結し、ジメジメとした現実から目をそらすという方法で生き延びる手段になっていたのだ。

「4巻.zip」に見られた、現実に向き合う覚悟

しかし、4thアルバム「4巻.zip」では、オタクが現実に向かう決意表明のようなアルバムに聴こえるのだ。

アルバムの幕開けである「ノンフィクションなんてもうしまい」では、サビ前に「破りたい 二次元の壁 ダウンコンバート」と謳われる。一見二次元への逃避のように思えるこのリリックも、「文句のつけようもないくらいのフィクションそのものになって死ぬ」という結びによって、「理想=フィクション」に向かってリアルを生きていく覚悟に聴こえるのだ。
中でも印象的なのが「真剣で私を頃しなさいっ!」の「死に損ないを殺さないと進めないどの道 今日もだれかの介錯を待ちわびていた」というフレーズで、現状打破への渇望を感じる。ラストで繰り返される「その日本刀で殺してくれ」は、歌詞カードでは「その日本刀で救出してくれ」と表記されている。自虐と美少女への逃避という手段が行き詰まりを迎え、現実に立ち向かなければならないことを悟った瞬間を描いた曲なのではないだろうか?
だからこそ、「職場ではうまくやってる 秋葉原にも最近降りれない」(さよなら!にゃんぱすライフ)というリリックにこもる、自分のアイデンティティ=オタクが欠落した瞬間の物悲しさは切実さをもって響く。
それに続く「talking病気がちガールを夏」は、以前のひがしやしきが描いていたような美少女像に揺り戻され、強烈なノスタルジーに襲われる。この曲がアルバムのラストから2曲目にあることの意義は大きい。
そこからラストの「ドットジップ」につながるのだが、「つまらない世界も やり方次第と やっていくだけ 想いをzip」「失踪し迷走し抜け出す馬群 いつか起こせる人生のバグ」と、再び現状の変革を志向するリリックへと戻る。このラスト2曲の流れがあるからこそ、「失ったものに対する拭いきれない寂しさ」を抱えながらそれでも前に進んでいくという、泥臭いリアルを感じることができるのである。

いくら二次元に行きたいと願っても、オタクは三次元から出られない。このアルバムは、オタクにとって三次元を生き延びていくための道標になる作品である。

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