J.S.ミル presents お笑いオールスター感謝祭②

前回は「母親との決裂」というきな臭い文言で締めてしまった。
別に大したことではない。
ただ、私の好きな芸人を母が理解してくれなくなったというだけのことだ。
でも、私にはとても歯痒かった。

母は太田のあのハチャメチャ具合がどうにも好きになれないらしい。
そこが良いのに。
何が起こるかわからない、あのハラハラドキドキを愛さないなんて。
では、母の好きなお笑いとはいったい何なのだろうか。

母の好きなお笑い、
それは
「テンポの良い磨き上げられた大阪漫才」
だった。
和牛や銀シャリに代表される、正統派漫才。
わかるよ、みんな大好きだもん。私も好きだよ。

もちろんそういった漫才は面白いし、銀シャリのネタでは私も腹を抱えて笑う。
ただ、私の一番ではないのだ。
これは本当に私の悪いところなのだが、
テンポの良すぎる漫才を見ると
「ああ、いっぱい練習したんだな。すごいなあ!」
と思ってしまう。
面白い!よりも、すごい!が勝ってしまうのである。

もちろん私の好きな芸人たちだってめちゃめちゃ劇場に立って、
同じネタをかけてブラッシュアップしている。
しかし、その練習量が見えないほど自然でスタイリッシュなのだ。
ネタ中は彼らの裏での練習量が透けて見えることなく、
純粋な面白さだけをこちらに届けてくれる。
こういう芸人が私のドストライクなのである。

私をこんな性癖にした張本人は
金属バットだった。

彼らの漫才を聞いたことがあるだろうか。
誇張なしに、大阪の兄ちゃんたちの立ち話そのものなのだ。
でもその内容は驚くほど面白い。
しかも言っちゃいけないことを必ず言っちゃう。
「家の外でこんな話したらダメだよ!」
って昔母親に言われたようなことを舞台上で話しちゃっている。

好きになるしかないじゃないか。

あまりにロックすぎる。

金属バットの漫才を聞いているときと
セックス・ピストルズの曲を聞いているとき、
私の心電図をとったらきっと同じグラフを描くはずだ。

高校1年で彼らと出会って、2年の夏に生で漫才を見た。
忘れもしない、2019年8月24日の沖縄花月。
彼らは期待を裏切らずに、ちゃんと言っちゃいけないこと言ってた。
思い描いていた通りの金属バットを届けてくれたのだ。

そのライブには当時まだ世間的に有名ではなかったミルクボーイも出ていた。
お馴染みのコーンフレークのネタを間近で見たが、もうその頃には素晴らしい完成度だった。
4ヶ月後、彼らはM-1で優勝した。
「嘘だろ!あの日見たあのネタで、歴代最高得点を出しやがった!」
今まで感じたことのない興奮を味わった。
こんな感情を味わってしまっては、M-1フリークになるのも無理はない。

ここから私は本格的にお笑いの沼にハマっていく。


一方の母親は、金属バットを心底嫌っていた。
「見た目が受け入れられない」
とのことらしい。
私が金属バットのグッズを買おうとすると、
「こんな汚い人たちにお小遣い使うんだったら返して!」
と言われたこともある。
さすがにアンチがすぎる。
金属バットより尖ってるだろ。


過去最高の大会と言われたM-1グランプリ2019が終わり
2020年が始まった。
21世紀の暗黒期、コロナウイルスの到来である。
一足早く春休みが始まり、友達にも会えずに家に篭る日々が続いた。
しかし、この最悪の春に出会ってしまった。

真空ジェシカに。

先日のM-1で友達から「よく彼らを見つけたね」と言われたとき、
私は
「彼らの面白さはずっと燦然と輝いてて私がそれに吸い寄せられただけです」
と答えた。
これは何か洒落たこと言ってやろうという意思は毛頭なく、
本当に何がきっかけで彼らを知ったのか思い出せないのだ。

気づいたら真空ジェシカのラジオ父ちゃんを初回から聞いていたし、
気づいたらサワムラーのネタでゲラゲラ笑っていた。

全然知らない芸人のラジオを初回から聞くほど、
あの頃の私は暇だったようだ。

ちなみに、母に真空ジェシカの画像を見せると
川北を指さして「この人汚い」
と言われ、そこで話が終わった。

それからというもの、東京のライブシーンで活躍する芸人のネタやネットラジオなんかを貪るように見たり聞いたりするようになった。

まんじゅう大帝国、フランスピアノ、大仰天、さすらいラビー、マカロン、……

名前を挙げ出したらキリが無い。

特にまんじゅう大帝国には自粛期間の大部分を費やし、
YouTubeにあるネタやネットラジオを一つ残らず閲覧した。
彼らが落研出身と聞けば、落語だって聴き始めた。
まんじゅう大帝国の話をするとなると、それだけで3回に分けてnoteを投稿しなければならなくなるのでまたの機会に。

自粛が明ける頃には
口を開けば芸人の話しかしない人間になっていた。

完全に現在の私が完成した。
そして迎えたM-1グランプリ2020

予定が入っていたため、残念ながら敗者復活戦をリアルタイムで見ることができなった。
決勝戦が始まる前に家に帰り、
買ってきたジンジャーエールと堅あげポテトブラックペッパー味をテーブルに用意していると、
「敗者復活戦全部見たけど面白かったー!」
母の声が聞こえてきた。
全部見たんかい、やっぱお笑い好きなんだなあ。
そう思って「投票した?」と聞くと
「うん、インディアンスと、キュウと、金属バット!」

は?

あんなに嫌いって言ってたじゃんかよ!

「金属バット、ちゃんと漫才見たらすごく面白かった!」

母は無邪気にそう言った。

「ほらな!!!!!!!!!!」

私は人生で2回だけこのバカでか「ほらな」を言ったことがあるが、
その1回目がこのときである。

歴史的和解だ。
我が家に平和が訪れた。

自分の大好きな芸人が身近な人間に認められるのって
こんなにも嬉しいものなのか。

さらに、金属バットに気を取られて最初気づかなかったが、
母がキュウに投票していることにも驚いた。
あの母がキュウの独特なテンポを理解できていることがとにかく嬉しかった。
キュウは爆笑問題と同じ事務所なので、今度事務所ライブに母を連れて行って爆笑問題も好きになってもらおうと計画している。

もう一つ嬉しかったのが、
母がちゃんと面白かった芸人に投票する人間だったことだ。
母はぺこぱの古参ファンだが決して贔屓目で見ずに
ちゃんと全てのネタを見て投票するコンビを決めていたことが誇らしかった。
私も見習うべき姿勢である。

M-1グランプリ2020は面白かっただけでなく、
母への尊敬と愛を再確認した思い出深い大会となった。


長くなったので一旦ここで切って、
次の投稿で熱狂のM-1グランプリ2021について書くことにする。

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