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それもこれも運命のスクリプト

 半日、うんうん、悩んでヘトヘトになりながら手に入れたのは、2枚のチケットで、1枚はアガサクリスティーの戯曲でロングランしている"The Mousetrap"の夜公演だった。
 出発前に父の友人との会食時、「向こうは舞台の台本(スクリプト)が売ってるから、そうゆう文化で、それを公演前までに読んでから行くんや」と言っていた。それがなんだかとってもかっこよく感じられて、私もそれがしたい!と思って、ロンドンに渡ったところもあるから、本屋を探した。先の会食時、「どうゆうところに売ってるんですか?」と質問すると、「どこでも普通の本屋さんに売ってんねや、向こうはそうゆう文化なんやな」との回答だったので、アルバートアンドヴィクトリア美術館からの帰り道、2軒ほどの本屋さんに入ってみた。けれど、あぁ、見当たらない。店員さんに聞いても反応は良くなくて、おっと、どうする?と思って、最後にウエストエンド近くの本屋さんへ寄ることにした。
 恐る恐る店員さんに尋ねると、「オッケー!」と連れて行ってくれたところには「70周年記念!」で発刊されていた、"The Mousetrap"の題字が赤いメタリックで印刷された立派なハードカバーのシックな特別装丁版スクリプト(脚本)。よく見ると書店の3か所くらいにどのスクリプトよりもかっこよく明らかに売り出し中で目立つように面陳列までされている。これが運命なのか?!これを買った方がいいのか?と思いつつも、量も、予算も完全にオーバーしている。忙しそうな店員さんに嫌な顔をされることにビクビクしながら一応聞いてみた。
「もっと普通のスクリプトだけのありますか?」
私が手に持っている特別装丁版を見て、
「うん?それじゃないの?」
そうなるよなぁと思いながらも
「はい、もっとシンプルな、スクリプトだけのものが欲しいんです。」
と眉毛を出来るだけ八の字にして申し訳なさそうに粘ってみると、一緒に本棚まで来てくれて、棚の高いところから一冊残った厚さ5ミリ程のシンプルなソフトカバーの本を出してくれた。
これこれ!!!

あの時は初めてみるウエストエンドのプレイ(ミュージカルではないお芝居)の舞台の記念すべき70周年の特別装丁版が運命なのか?!とも考えたけれどあの中で唯一並んでいたシンプルな通常装丁版も運命の1冊だったんでは、と思ったりする。

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