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独断と偏見でガストバーナーのMAGICを解体してみる


ガストバーナーというバンドを知っているだろうか。
コロナ禍の2020年に突如姿を現した名古屋発自他共に認める危険なヤツら。
今年結成3年目に突入し、先日3枚目のミニアルバムMAGICを世に送り出した。
ガストバーナーのメンバーは、社会人として働きながらバンド活動を続けている。
なのでライブはほぼ土日祝だし、リハーサルもレコーディングも土日祝を全て注ぎ込んでいる。
社畜伝家の宝刀有給休暇やリモートワークを駆使しながら、社畜としての休みはほぼ全てバンドに使っている恐ろしくバイタリティのあるメンバーだ。

書くにあたり、とりあえずメンバーの名前だけは書いておく。

vocal,guitar デストロイはるきち
guitar 加納靖識
bass,chorus 辻斬りっちゃん
drums 16ビートはやお

ちなみに誰ひとりまともな人がいないのはメンバー自身も認めているので、客が言ったところで批判されることは多分無い。
そこがバンドの面白いところでもあると思う。

さて、わたしもいち社畜だし、やりたいことはあるけど休みを注ぎ込むまでやろうと思えない。
休みたいしとにかく休みたい、休みの日こそ怠惰であれと思ってる節があるし基本的に引きこもり体質なので、ガストバーナーのメンバーを本当に尊敬している。

わたしたちと同じように働き、わたしのような社畜を目の前にライブハウスで破滅的なライブをやってのけて月並みな言葉だが元気をくれるのだ。
こんな人たちヒーローとしか思えないだろう。
わたしはずっと彼らのことをヒーローだとそこここで言いふらしている。
目の前では恥ずかしすぎて言えないのだが。
そういえばつい最近告白してしまった。
なんでいってしまったんだろう、思い出して今恥ずかしくなってる。

そんな週末社畜ヒーロー、ガストバーナーの新譜MAGICについて、独断と偏見でバラバラにしてみる。
エピソードは、サカエスプリング後に行われた先行試聴会で聴いたものや、本人発信のライナーノーツ、ツイート、インタビュー記事などを織り交ぜながらああでもないこうでもないとこねくりまわしてみた。
ギターは挫折、バンド経験無し、リスナー歴20数年、ライブハウス歴10数年のわたしが書くので音楽的知識は皆無だし感覚的なものでしかないけど、培った自分の感覚は大事にしたいし何よりとても良いアルバムだと思ってるからこそこうして残しておきたいと思ったのだった。

(とてつもなく分かりやすいメンバーからの自己紹介及び他己紹介の記事をどうぞ)

まず但し書きをしておくと、このアルバムははるきちさんの人生の一部を切り取ったものである、ということ。
人生がアルバムになるなんてそうそう無いと思うから、はるきちさんは本当にすごい人だとわたしは思っている。

1 Knife
サビが歪んだ刃、と来る時点で厨二の匂いがしまくってる。大人の厨二は得てして面倒だが、かく言うわたしも同じ穴の狢なのである。
大人の厨二、結構楽しい。
はるきちさんが新しい職に就き、「いっちょやったるぞ!」の気持ちが入ってる曲、ということでナイフという切れ味鋭そうで寄せ付けない印象がタイトルから滲み出てるけど、中身はおのれを守ることに必死でもがきまくる姿しか見えない。
のっけから社会の生きにくさについて感じざるを得なくて、叫び出したくなる。
その叫びは、全てギター、ベース、ドラムに委ねられている気がする。
気のせいではなく、何せガストバーナー史上、最も速いBPM232なのだ。
もっと速く!もっと速く!とやったらこうなったらしい。おかしすぎる。
ガストバーナーの演奏を破滅的、とよくメンバーは表現するが、衝動や叫びと同等のものなのかもしれない。
アルバム一曲目にしては攻撃性が高すぎて、釘バットをぶん回してるようなもんだと思った。えっ、それ、しぬじゃん。

2 アンダーワールド
この曲はわたしが初めてガストバーナーを観た1stミニアルバムHappyを引っ提げてのツアーでは既に存在していた。
結成してまもなくからあるのでガストバーナーの歴史からしても古い曲だが、アレンジ等々で悩んでいたらしい。
ただ、なかなか煮え切らず時間を置いてはこねくり回してるとは思わないくらい、ど頭のりっちゃんのベースからまた頭をぶん殴られてしまう。
それに、「打ち勝っていこうぜ うだつのあがらない日々に」という言葉から始まる時点で、大体の社畜は泣いている。
毎朝聴いてどうにかやってる社畜が多分殆ど。
サビの「Do you know?」というフレーズがかなり印象的だが、はるきちさん曰くこのフレーズは言葉と共に降りたもの、らしい。
わたしは天才だと思った。わたしが、好きなので、そこ。
最後のギターもめちゃくちゃかっこいい。
スパン、と演奏が終わるのもかっこいい。自分を鼓舞するにふさわしすぎて、大分救われている。

3 ブラックホール
アンダーワールド同様、Happyツアーでは既にお披露目されていたいわばライブ定番曲に近い。
個人的にりっちゃんのベースラインと、加納さんのギターソロをとても推したい。
かわいい、と言うと聞こえはポップすぎるが、ガストバーナー史上今この時点でポップだと個人的に思っている。
はるきちさんは別の曲で加納さんのリフを天才、と言っていたがこの曲でもその天才振りが聴けると思っている。
ところで、はるきちさんが「りっちゃんのコーラスがとても良い!」と太鼓判を押すサビの上ハモはわたしも、そうですよね!とハイタッチしたくなるほど好きだ。
そうですよね、というより本人が言っているので当たり前に良いのだが。
さらに、Bメロのオクターブ上のハモリもめちゃくちゃ良いと思ってる。ガストバーナーの曲は基本的にはるきちさんのキーが高いため必然的にりっちゃんは下になるところが、ブラックホールのメインのキーは全体的に低いためりっちゃんの歌声がとても活かされていると思う。
ベースとギター推してるのにめちゃくちゃコーラスを推しているではないか。
ただここも、ブラックホールのポップさの一翼だと個人的に思っている。

4 KORECOLE
突如現れた宇宙、それこそがコレコーレである。
名古屋にある物々交換コレコーレという雑貨店から着想を得ているように見えて、メンバーは誰一人その中に入ったことが無い。
はるきちさん曰く、無いことばかりを歌っているとのことなので、聖地巡礼におすすめ。
わたしは悪夢と言ったり別の人間は熱にうなされて観る夢と言ったり散々なのだが、初披露からずっと客はKORECOLEが好きだと思う、調べてないけど。
歌詞も結構バグってる。
サビは英詞で「コレコーレへようこそ!」と叫びながらある場所のコーラスで「もう二度と行きたくない!」と喚いてる。
そのバグり加減が曲にも反映されていて、ライブハウスでKORECOLEを聴くと容易にフロアもステージも混沌と化す。
Knifeやアンダーワールドが社畜世界の現実だとしたらKOLECOREはもはや幻想妄想に近い。
そんな幻想妄想に囚われていないと社会はやってけないのかもしれないから、中盤に入ってきたのは納得できる。

5 Fake
偽ってる自分を演じ続けるのは疲れるし本当の自分を曝け出せたらどんなに楽なんだ、というまさにFake=偽物、を現している。
次のBlue Mondayも結構くるけど、これも結構精神的に来そう。
ただ、仮タイトルが「歌謡曲」なだけあり薄暗い歌詞もどこか煌びやかになってしまう不思議さがある。
歌謡曲、という仮タイトルではあるけと仮なのでそれっぽさみたいなものは実はあまり感じない。
さっきの煌びやかさはどこいったんだ、と思われるけど。
はるきちさんが最近ずっと「この4人ならなんでもガストバーナーになる」という言葉の意味をこの曲ではっきりと理解することができる。
言葉で表すとなるとそこには音楽的知識などが不可欠になってきそうなので、聴いてみた方が話は早い。
聴き込めばするほどにガストバーナーだなあと思う。

6 Blue Monday
社畜がこの世で一番嫌いな曜日、月曜日。
ひたすら月曜日が嫌だ!土日休み楽しかった!楽しいことなんかあっという間に過ぎてもう月曜日だ!嫌だ!という曲。
共感が高過ぎて闇堕ちしそうになるけど、ライブハウスで聴くと一番楽しい。
楽しいことは一瞬、それは魔法のようである、MAGICというアルバムタイトルはそこからきているのかもしれない。
シンデレラのかぼちゃの馬車や白いドレスのように楽しくて眩しい時間はまさに魔法のように解けていく。
それでもガラスの靴だけ残っているあの話のように、楽しい時間はほんの少しわたしたちの掌に残ってるのだ。全く消えるわけではない。
思い出して仕事を頑張ったりして、どうにか生きていたりする。
ちなみに歌が終わってからの長尺ギターソロは、土日イメージだそう。
はちゃめちゃにかっこいい土日だけど、リズム隊たちは「加納さん!もっとダサくしてください!」とオーダー。何故。
でもライブハウスで聴くと悔しいくらいにめちゃくちゃかっこいいので、ライブハウスでもCDでも聴いてほしい。

7 GOODBYE
1st2ndミニアルバムのプロデューサーであり、影のメンバー、5人目のガストバーナーだったex.みそっかすのマイケルさんはこの曲のデモを出して以降、自然と離れ連絡が取れなくなったそう。
メンバーたちはある種のメッセージであると捉え、はるきちさんは友との別れとして置き土産のデモをGOODBYEとして書き上げた。
悲しい別れや喧嘩別れではない、違う道を歩むための前向きな別れ、それでも共に走った人が居なくなることは寂しい。
寂しさを爆音に昇華させ、さようならを閉じ込めたGOODBYEは涙も淋しさも熱さで蒸発して消えるような曲になったのではないかと思う。
言い得ない感情をギターに閉じ込めてくれる加納さんのギターソロがめちゃくちゃかっこいい。
難しい感情も全部音に詰められる人はわたしはあまり居ないと思っていて、加納さんはそれができる一人だと思っている。

8 春来
Burgandy(ex.或る感覚)の立花ロンさんとの共作とされているが、元々立花さんがガストバーナーのために書いた曲を、ガストバーナーがすぐに魔改造したもの。
元のBPMより速くなっていたり歌詞も殆ど変わったり元曲で残っていたのはメロディと一行の歌詞。
残っている歌詞は一番最初のみ、なのだがそこから「味のない日常を 酒に混ぜてく」というはるきちさんの言葉に繋がる。
はるきちさんは元々あまりお酒を飲む方ではなかったそうだが、社畜生活の中で仕事終わりにコンビニで缶酎ハイ1つを買い、家で飲んで倒れるように寝るということを毎日繰り返していたそう。
そもそも、お酒が好きで仕事後の晩酌をする人からこの歌詞は出てこない、寧ろ飲めなかった人が飲むようになってこそこの歌詞が出てきたのかと思うとなかなか堪えるし、わたしが個人的に一番好きなフレーズでもある。
時期的に、仕事を辞めることを決めた時に書いているそうなので明るい兆しが見えそうな曲だが個人的にはそう思えるしそうも思えない。
不安定さの垣間見れるものだからこそ、共感ができるし共鳴するのかもしれない。


ここまでお付き合いいただき、誠にお疲れ様でございました。
実は、ガストバーナー現在ツアー中です。
ツアーも残り3公演です。
本当はツアー始まる前に完成する予定でした、どうしてこうなった。
それでもちゃんと書き切った自分を褒めたいと思います。
MAGICが大切なアルバムのひとつになりました。


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