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田中樹のセリーヌ・ディオンに度肝抜かれた話

タイトルからしてふざけているように見えるかもしれないが、大真面目にこのnoteを書いている。

U-NEXTで、問題のその場面だけ繰り返し50回は見た。
それほど衝撃的だったのだ、セリーヌ・ディオンを歌ったSixTONES田中樹が。

事件が起きたのは、2023年12月29日に放送されたテレビ番組「オオカミ少年」の、「ハマダ歌謡祭 紅白歌合戦3時間SP」だった。

出演者がメドレーを歌いつなぐコーナー。誰かが歌えないと即終了もしくは相手チームに横取りされてしまう人気の企画だ。

田中樹と武田真治を残し、あと2曲歌えばパーフェクト、という場面で流れたイントロが、誰もが知るセリーヌ・ディオンの名曲「My Heart Will Go On」だった。

一瞬で「やばい」という顔をする樹。
相手チームでは絶対に歌えるであろうクリスタル・ケイが横取りチャンスを狙っている。

誰もが「無理だ、横取りされるな」と思った瞬間。

樹は動いた。
マイクを掴んだ。

どよめく中、ここで、私は正直「小杉るな」と思った。※小杉る…歌おうとチャレンジするものの失敗すること。

そうか樹、バラエティに振ったか。思い切り小杉ってウケてくれ。

そう思った次の瞬間。

“You’re here, there’s nothing I fear――”

は??????


とんでもない美声が響き渡った。

予想外すぎて理解が追いつかない。冗談抜きに、開いた口がふさがらなかった。

浜ちゃんが「発音どうでもええから!」と励ます中、地声とファルセット(裏声)を混ぜてそのままラスサビのフレーズを完璧に歌いきった樹。

きっと現場で聴いていた人たちも驚いたのだろう、大盛り上がりだったが、私は見終わってからしばらくその余韻から抜け出せなかった(なんなら今も抜け出せていない)。

誰もが知っている大ヒット曲ではあるが、発売は1997年だ。中学生だった私はもちろんリアルタイムで知っているが、その当時樹はまだ2歳。

あれだけのヒット曲だから、もちろん樹も曲自体は知っていただろう。
しかし女性ボーカルだし、過去にまともに歌ったことがあったことがあったかは疑問だ。もしかしたらあの時初めて歌ったのかもしれない。

私が真面目に考察した、樹のセリーヌ・ディオンがすごかったポイントは3つだ。

1.出だしの音完璧すぎ

番組を見たことがある人は分かると思うが、あのコーナーは「曲のどこのサビが来るか分からない」というのが難しい。

まずイントロが流れ、その後に来るサビだけを歌うのだが、その時によって1番のサビだったりなぜか2番のサビだったり、いわゆる曲終わりのラスサビが来たりする。イントロの時点ではそれが分からない。

「My Heart Will Go On」は、イントロの時点ではホ長調(#4つ)で始まり、セリーヌ・ディオンにしてはキーが低い。
けれど、ラスサビ前の一瞬で、一気に変イ長調(♭4つ)に転調し、バン!とキーが上がる。
(最初の方にリンクを貼った動画だと、3:14辺りから)

私もこの曲はカラオケの十八番なので何度も歌ったことがあるが、この転調が難しくもあり、気持ち良くもある。
しかも、よくある半音上がるだけのシンプルな転調ではないからなおさらだ。聴き手の心をぐっと掴むかっこいい聴かせどころなのだ。

50回は見た問題の「ハマダ歌謡祭」の映像。

腹を括った樹が「行きましょう」と言ってマイクを掴んだ瞬間はまだ転調前。周りの驚きの表情が映った次の瞬間、

転調。

1ミリもブレず響き渡る、ど正確なピッチ、鳴りの良すぎる声量。

100点…!!!!!!

この時の樹の気持ちを切実に聴きたい。あまりにも迷いのない出だし。完璧な音の掴み。しかも、驚きを倍にしたのが次のこれだ。

2.原キーで歌ってる……!?

女性のキーなのだから、オクターブ下げて歌うのがまあ普通のはずだ。それなのに、原キーで歌いだした樹。

咄嗟のことでついそうなってしまったのか?でもそれにしては迷いのない出だしだったし、別の回で他の女性ボーカル曲を歌っていた時、途中で「無理か」と判断して1オクターブキーを下げた樹も見ている。なのに、最後まで原キーで歌いきった。

私の夫は、カラオケで原キーでしか歌えない人だ。耳で聴いて覚えている音源どおりのキーじゃないと、音が分からなくなって歌えないと言う。
私は、別に調が違うだけで音階は一緒なんだから、高くて出ないんだったら半音下げればと言ってみるのだが、頑なに拒まれる。そして、一定数こういう人はいる。

けれど、樹は違うと思う。

某他番組のハモリ我慢でこそ周りの音につられまくっているが、基本的には耳のいい人なので、音響が悪い歌番組でもまず滅多に音を外すことがない。
まして、今回のセリーヌ・ディオンは音源通りだったので、単にオクターブ下げればいいだけの話だ。でも、それをしなかった。

なぜだ。
この音域ならいけると思ったのからなのかどうなのか、SixTONESANNで解説してほしかった……。

3.地声とファルセットの使い分け上手すぎ

過去のnoteでも書いたことがあるが、樹は自分の声をよく知り抜いている人だと思う。

曲によって使い分ける声の色にしてもそうだし、出せる音域についてもだ。
SixTONESの音域については、非常にわかりやすくまとめてくださっている生肉さん(勝手に心友!)がいらっしゃるのでこちらのブログを参考にしていただきたい。

「My Heart Will Go On」の最高音は、“there’s nothing”部分のオクターブ跳躍。キーでいうとmid2ミ♭からhiミ♭に飛ぶ。ファルセットだが、生肉さん調べによる最高音を軽々と更新した。

今回、樹の技量が際立った点。

跳躍した上の音は上手く地声とファルセットをミックスし、多分最初のワンフレーズで音の幅を掴んだのか、同じ音階を繰り返す“We’ll stay~”からは高音部分のファルセットを多めにして、地声との違いがより際立つようになっている。

まさしく、自分の声をよく知っている人の歌い方だった。

私は20年以上の合唱人生で本当に様々な曲を歌ってきたが、歌うことを長年やっている人は、大体自分の声域と、どこからがファルセットと地声の変わり目なのかを分かっている。

自分だと大体mid2ラが変わり目。そこから上のキーはミックスボイスになり、hiレがまた変わり目になってそれ以上は完全にファルセットになる(変わり目の音は不安定になりがちで、つまり私の場合は実音のラとレのピッチがいつも定まらない)。

樹のあの歌い方は、完全に「こっからはファルセット、ここまでは実音でいける」が分かっていた。だから、驚きの前半と安定感のある後半で、見ている人たちの度肝を抜いたのだ。

どこまでポテンシャルが高いんだ田中樹。侮れないハマダ歌謡祭。


……こんな、バラエティでの一幕を深読み考察する必要ないのだろうが、本当に本当に本当に素晴らしかったので書かざるを得なかった。
シンプルに歌だけを楽しむだけのことができない、合唱人の性だ。

これからもレギュラーで出させてもらっていることを最大限活かして、樹とジェシーの歌声の可能性を、もっともっと聴かせてもらえたらと思う。

……いやぁ、本当にすごかった(感動スタオベ)。