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嘘日記 3/11「洗濯機」

かなり幸いなことに、人生で痴漢に遭ったことがない。ただ痴漢なのかよくわからないけど、電車で手を繋がれるというか触られることが時折あって、ゲロ臭い金曜夜の電車の中で、スベスベとした細い冷たい指が私の手をなぞった。顔は知らないが、黒い服を着ているのが少しだけ見えた。こんな手で触る人は私の人生にはいなかった。いらないからいなかった。




手は3駅くらいで離れた。

あれからだいたい1年になる。やりとりを見返したら、なんかもう完膚なきまでに脈がなかった。


最近靴下が立て続けになくなるので明らかにおかしいなと思い、洗濯機が食べてる?と思って調べたら、洗濯槽とモーターの間は空洞なのでそこに落ちることがあるらしい。どうしようと思って調べると、洗濯しているうちに振動で洗濯機の下に落ちてくることがあるため、それを拾えば良い。

「洗濯機の下の洗濯物を取る際は、大人2人で作業してください」とあった。



元気?という問いかけには既読もついていない。そのラインに覆い被せるように「友だちになってもらえないか」という懇願を送るか悩んだが、3回朝を迎えたら絶対やめたほうがいいことに3回とも気づいたので送っていない。

車の運転の練習をした。運転のコツ?心得?などを運転ができる人に聞いているが、そもそもそれ以前にまだ「運転する人」の体になっていない感じがして、練習というよりはまずはそこに慣らしている。

別の人の体になったら、友だちに戻れるのだろうかと思った。懇願を断られたらさらにそう言って懇願しようかとも思ったが、なぜそうまでして惨めに生きたいのかもわからない。


柴田聡子と谷川俊太郎のユリイカを買った。ユリイカってあんまり読めない(字がとてもたくさんある)けど、2人とも好きだから読む。


そういう話をする間柄になりたいだけだけど、そんな簡単なことも叶わなくなって、一年になる。


他人のことはあまりよくわからないけど、それにしてもつくづくいらない手だった。汗ばんでいて、厚くて、柔らかい手が好きだった。



だんだんと暖かくなり始めた。今年はどんな映画を観るんだろう。


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