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幻肢痛

引き続き元々の人格の一部を失っているが、失われた一部は失われるべきだったという気もする。それは夜遅く眠れなくなって考えることであったり、友人と関わっていてザラつくあの感触だったりで、つまり失ってもあまり困らない。強いていえば失ったことそのものに少し切なさがあるくらい。


会社の近くのお店に行ったら隣に会社の人が来た。あんまり話したことがない人なので、お疲れ様ですと言い合ったあとは特に関わらないで、代わりに私は目の前のごはんと向き合った。

向こうは2人で食事をしている。

「昔からよく食べるの?」

「いやあんまりっすね。でも中学生のときは近所にあるパン屋さんに行ったり」

「えーいいね」

「ココア揚げパンとか。こんなあるんすよ」

「私、給食とかなくて、揚げパンも食べたことないんだよね。中に何か入ってるの?」

「いや、何も」


私は先に店を出た。



確かに…

揚げパンを食べたことがない人は、中に何かあるの?と思うよね…


なんか、やけに感動した。

仕事が終わらない、また明日も定時では帰れない、私は忙しさにつられてどんどん感動と感傷を失い、つまらないけど明るい人間として落ち着いていく。私はそれを止められない。止まらないなかでたまに立ち止まったように、こんな感動に出会うんだろうか。


そしてなんとなく思い立って、前の会社にいた大好きな上司に連絡した。

私は今も昔も、社交辞令が言えない。その気がないなら言えない。だから、私は本当に好きなその人にだけ連絡先を聞いたのだった。

「お久しぶりです!突然すみません。だいぶ仕事に慣れてきたのと、来月あたり仕事が落ち着きそうなので、良かったらそっちのほうでごはん行きませんか?」


返事は翌日来た。

「ありがとう!すごく楽しみ!ぜひ行きたい!実は来月から産休に入るので、こっちのほうだとすごく助かるな!」


えっ


お子さんが…


やさしく、静かで、でもよく笑い、聡明で、落ち着いている


あの人の血を分けた、人間が…


その人が、人を産み、育てるという決断を…



そしてそれ以上に、そんな大変な時期なのに、「ぜひ」と嘘でもなく言ってくれたことが嬉しかった。


体調が読めないので、来月細かく予定を立てることになった。


私はその人と働いていたときと違って、髪を切ったし、最悪なことがたくさんあって、最悪なこともたくさんして、そして、何かが失われた。





たとえば、それを隠してあなたに会おうとするような、




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