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『LAW & ORDER 性犯罪特捜班』 究極のサステナビリティ刑事ドラマ

by キミシマフミタカ

 Netflixでの配信が、いきなりシーズン15から始まったので、途中から見ることになった。本家である「LAW & ORDER」の方も見たことがなく、完全に“にわか”である。ニューヨーク市警“性犯罪特捜班”の活躍を1話完結で描くこのドラマ、スピンオフにもかかわらず、現在米テレビ史上最長となる前人未到のシーズン21に突入しているらしい。

 シリーズの総体が巨大なので、まるで巨大なクジラの切り身を少しずつ食べているような気分になる。それにしても、なんという安定感だろう。どの回も期待を裏切らず、脂が乗っている。途中から見始めたのにもかかわらず、3話目くらいから早くも常連のような気分だ。でも、なぜこんなに安心して見ることができるのか? ちょっと考えてみた。

 そもそも、一話一話が“面白すぎない”のがキモなのだと思う。どのエピソードも、当世風の社会現象を捉えて、ストーリもよく練られているが、すごく面白いというわけではない。そこそこ面白い、というのがキーポイントなのだろう。面白すぎると、肩に力が入って疲れるし、次回に期待して肩すかしをくらう恐れもある。ほどよい緊張感と、ほどよい問題意識、ときどきあるドンデン返し、友情と愛情のささやかなやり取り。
 
 登場するキャラクターたちも、美男美女ばかりというわけではなく、どこにでもいそうな容姿だし、クセが強過ぎもせず、立ち振る舞いも常識的だ。情に溺れず、かといって正義にも溺れない。水戸黄門的な印籠や、桜吹雪の彫り物が登場するわけではないが、事件は毎回、無理なく自然に、滞りなく解決に至る。ほんの少し余韻を残しながら。

 主人公の女性刑事オリビア・ベンソンを演じる、強面のマリシュカ・ハージティの魅力も大きいのだろう。その魅力とはもちろん、妖艶な魅力などではなく、限りなく平凡な女性刑事を演じることができるという魅力である。強さもあれば、弱さもある。怒ることもあれば、泣くこともある。優しい気持ちになるときもあれば、辛辣になるときもある。いうなれば、オリビア・ベンソンは、私たち自身なのだ。

 この番組は米NBCの人気シリーズで、途中で打ち切りになることが多いNetflixのドラマとは違って、制作の姿勢が根本的に違うのかもしれない。優れているドラマがすべからく持続可能だとは言わないが、持続可能なドラマが優れたドラマであることは確かだ。チームには、破壊力のあるホームランバッターも必要だが、コンスタントに打率の良いベテラン選手も必要だ。Netflixの他の強烈なドラマが終了し、心にぽっかり穴が空いたとき、ここに戻って来ると、いつもの仲間たちがいるという安心感は、何ものにも代え難い。
 
 

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