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『ハウス・オブ・カード』セクハラ降板のケビン・スペイシーの重力場に降伏した物語の末路

by キミシマフミタカ

このnoteの共同執筆者である輪津直美さんが、シーズン6の第1話の途中で挫折したという「ハウス・オブ・カード」。「だって、つまんなくなったんだもん」と言う彼女から、シーズン6を見届けるようにと命じられたので、仕方なくシーズン6の最後まで見届け、ここにその報告をすることになった。情報によると、おそらくシーズン7はなさそうだ。

 シーズン5終了後、ケビン・スペイシーのセクハラ降板があり、物語はいきなり主人公を失ってしまった。役の上では、突然死んだことになっている。その死因をめぐる謎がシーズン6の根底に流れているのだが、重要なのはもちろんそんなことではない。彼を亡くしたクレアが、物語を背負って立つことになったのだ。その任に耐えられるのか?

 結論から言えば、やはり耐えられなかった。というか、なんの物語なのかよくわからなくなった。絶好調だったシーズン1〜3の頃、アメリカ合衆国は確かに2億人の国民がいる国のように見えた。だがシーズン5で500人くらいの国になり、シーズン6で5〜6人の国になってしまった。とにかく室内で、5〜6人が言い争っているだけなのだ。

 ここで量子論を持ち出すのは気が引けるが、この物語はブラックホールに似ている。ケビン・スペイシーという存在が、あまりに重過ぎたため、物語の粒子がその重力に負けて後戻りしてしまったのだ。だから、世界はどんどん狭く、小さくなっていった。すべてはケビン・スペイシーという重力場に吸い寄せられ、見えなくなってしまったのだ。

 シーズン6では、新たな登場人物として、あのダイアン・レインが登場する。もう50を過ぎた彼女だが、相変わらず美しい。コッポラの名作『ランブルフィッシュ』で、マット・ディロンやミッキー・ロークと共演していた頃は女子高生役だった。ちょっと高慢な感じが、今も続いている。小さな町の生意気だった少女が、クレアの好敵手という役柄。

 だが、そのダイアン・レインの力を持ってしても、ケビン・スペイシーの重力には逆らえなかったようだ。真相に近づいていた記者も暗闇に消え去り、もはや登場人物たちは陽炎のように揺れ動くだけで、実体のない存在になり果てた。あえて見所といえば、クレアの狂気なのだろうか? もしかしてその狂気は、トランプ政権への警鐘なのかもしれないが、それにしてもあまりにも唖然とするラストシーンを見届けて、言葉を失った。

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