『ジプシー』 ナオミ・ワッツが好きならば見る価値はあるのか?
by キミシマフミタカ
フリートウッドマックのスティーヴィー・ニクスの歌う「ジプシー」がタイトル曲として流れる。彼女は『アメリカン・ホラー・ストーリー』でもある種のイコン、歌姫として登場していた。なぜいまフリートウッドマック? 製作者世代の憧れなのだろうか?
その「ジプシー」の発表は1982年だが、そのバージョンではなくドラマのためにアレンジされたオリジナルのようだ。スティーヴィー・ニックスの声質は変わらない。ちょっとスローになって、とてもいい感じだ。タイトルバックの映像もきれいで、素晴らしい。
その時点で、つまりオープニングにおけるスティーヴィー・ニックスの歌と映像の時点で、このドラマの品質がある程度、担保されていると感じられる。なのに…。
主人公を演じるのはナオミ・ワッツ。彼女で思いだすのは、奇才ミヒャエル・ハネケの問題作『ファニーゲームU.S.A』への出演だ。少年たちに家族が拉致され、救いようの無い結末に向かって突き進む作品だが、その主婦役として迫真の演義を見せていた。
今回のドラマの役どころは、心に闇を抱える心理カウンセラー。夫と一人娘がいて、一見セレブな生活を送っているが、カフェで知り合った若い女性に興味を惹かれ、カウンセリングを利用して恋敵である彼女の元カレを追い込んでゆく。共感しにくい役柄で、戸惑う。
テーマはキャリアを持つ中年女性の自分探し? そう言ってしまえば身も蓋もないが、このドラマがいまいち盛り上がらないのは、彼女の心の闇がわりと凡庸なことにある。心の闇は相手との葛藤の中で深まるものだが、その相手の若い女性の行動も凡庸なのだ。
そういうわけで、期待していたわりに案外な内容なのだが、ナオミ・ワッツのファンならば、彼女独特のどことなく儚い感じの幸福感というべき表情に癒されるかもしれない。
ちなみに、ナオミ・ワッツの夫役を演じているのはビリー・クラダップ、『エイリアン・コヴェナント』で船長役として登場していた。エイリアンの新作も期待していたわりに案外な映画だったので、共演者ともどもいまいちな感じが拭えない印象のドラマになってしまった。と思っていたら、シーズン1で打ち切りの報道が。やっぱり…。
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