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布ナプキン論③

 では、布ナプキン論の続き。注意しておきたいのは、布ナプキンは特別に「スピリチュアル」な商品ではないということだ。スピリチュアルな意味や価値づけをまったく意識しないで、使用している女性も多くいる。

 他方で、「スピリチュアル市場」で布ナプキンが人気なのも、また事実と言えるだろう。布ナプキンはわたしが「すぴこん」のフィールドワークをしはじめたころに、ぼちぼちと売りに出す店があったので、2010年代前半からはすでに注目されていた。今では、「癒しフェア」や「アースデイ」ではごく当たり前のように販売されているし、大手だとオーガニックコットンの専門店、「メイド・イン・アース」が有名である。「メイド・イン・アース」は5月に「布ナプキンフェスタ」という、布ナプキンに特化したイベントも開いている。(写真は筆者撮影)

 ただ、布ナプキンは紙ナプキンより使用の仕方が難しく、使い方に手順がある。そのなかで、ただの生理用品が「スピリチュアル」な価値や意味を帯びていく。布ナプキンというモノがどのような意味を与えられているのか検討するために、布ナプキンの使い方や作り方を説明する本について調べてみた。

角張光子,2004,「ひろがれひろがれ エコ・ナプキン」地湧社.     クレヨンハウス編,2007,「『いいね』vol.25 いいこといっぱい布ナプキン」クレヨンハウス.                        仁平美香,2012,「ブルーデーがハッピーに変わる! 魔法のヨガ&布ナプキン ムーンデーヨガ」マガジンハウス. 田上玲子,2015,「布ナプキンのすべてがわかる本」地球丸.                       ユーゴ,2012,「布ナプキン―-こころ、からだ、軽くなる」タバブックス.山浦 麻子 ,2012,「布ナプキンはじめてBook――生理をここちよく」泉書房. 

 以上、6冊が布ナプキンの専門書籍になる。布ナプキンは雑誌、「妊活」や「子宮系」の書籍などでも紹介されているが、それらは除外している。、これらの書籍では、おおまかに分けると布ナプキンについて以下3つの説明が紹介されている。

①.「布ナプキン」の使用方法
 まず基本的なところとして、「布ナプキン」の選び方、使い方が説明される。紙ナプキンもそうだが、ナプキンは経血によって使い分けたり、夜用、昼用など体の動きにあわせて選択しなくてはならない。布ナプキンも同様に、選び方が説明されている。

 さらに興味深いのは、布ナプキンを自作することも勧められていることだ。書籍には、布ナプキンを作る手順が紹介されていたり、型紙がつけられていることもある。自分の家にある布で生理用ナプキンを作ることが、月経と向き合うプロセスとして設定されているのである。「手作り」は、「スピリチュアル市場」の形成を検討する鍵であるが、布ナプキンもまた「手作り」が人気の理由の一つと言えるだろう。

 「メイド・イン・アース」の「布ナプキンフェスタ」でも、実際に布ナプキンを作ってみるワークショップが開催されていた。インストラクターの指示にしたがって布ナプキンを縫いながら、隣りの女性たちは布ナプキンの使用感や月経の悩みをインストラクターに相談していた。

 また、洗濯の仕方も紹介されている。経血は血液のなかでも比較的落としやすい。しかし、布ナプキンの場合は、繰り返し使うために、重曹を主とした天然洗剤での洗濯が推奨されている。書籍によっては、月経を洗い落とすのに手洗いを推奨したり、「満月の晩に洗濯する」「太陽/月光にあてる」といったことも書かれている。こうしたところに、「スピリチュアル」な色彩が見いだされるのである。

②布ナプキンを効果的に使う方法

 布ナプキンは、布ナプキンそれだけがモノとして紹介されているのではなく、布に切り替えることをきっかけに、「女性としての体」をケアすることが推奨されている。そのため、布ナプキンの多くはヨガと組み合わせて紹介されることが多い。また、アロマテラピーの使い方や、漢方を取り入れた月経不順の改善なども紹介されている。


③「布ナプキン」の利点

 そしてより多くのページ数を割いて説明されているのが、「布ナプキン」のメリットである。最も強調されているのが、布ナプキンは肌への負担を減らすという特徴である。蒸れによる痒みや、皮膚の炎症は月経時の女性にとって悩みでもある。人によっては、布ナプキンはこうした皮膚のかゆみを軽減してくれる。こうした現実的な長所が、まず最初に強調されていることを、改めて指摘しておきたい。

 また、布ナプキンが「子宮」や体を温めるという特徴も紹介されている。これは主に、著者や使用者の感想として書かれている。布は紙に比べて、当たるところが温かくて気持ちがいいという主張である。

 しかし、書籍によっては、紙ナプキンの欠点として、紙ナプキンは水分を吸収する高分子ポリマーが、水分を吸って保持することで子宮を「冷やす」という主張が書かれている。熱を下げる保冷剤、「冷えピタ」からの連想だろう。実際にそのような説明がされることもある。ただし、紙ナプキンに使われている高分子ポリマーと、冷えピタはまったく素材も目的も異なっている。この点は、紙ナプキンの欠点を指摘し、布ナプキンの利点を強調するあまりの、先走った論理の飛躍と言えそうだ。

 さらに、紙ナプキンには「経皮毒」のリスクが高いという記載もある。この「経皮毒」とは、文字通り皮膚を通して人体が毒素を吸収してしまう現象のことを指す。紙ナプキンは表面に化学薬品がついていて、それが子宮に対して毒を送り込み、その結果、月経不順や不妊を引き起こすという主張だ。実際に、粘膜は他の皮膚より毒素を吸収しやすい。

 しかしお気づきかと思うが、この説にも無理がある。紙ナプキンは子宮や膣などに直接触れるわけではなく、ほとんど性器との接点がない。では、なぜこのような説が出てしまったのか。以下、私見だが解説しておきたい。

 タンポンが引き起こす、トキシンショックシンドローム(TSS)をご存知だろうか。これは、長時間タンポンを使用することで、膣にブドウ球菌が増えて感染し、最悪の場合は死に至る細菌感染のことを指す。

 田中ひかるによると、1970年代の後半にアメリカでこのTSSによる数十人の死者が出た。原因は、P&G社が出したタンポンだと言われている。日本におけるタンポンの使用率が低いのも、紙ナプキンの快適さのほかに、この事件による影響が考えられると指摘している(田中 2013:150‐151)。

 タンポンは紙ナプキンに比べて、粘膜との接点が広い。ここからTSSが「経皮毒」のイメージになり、そのまま紙ナプキンに転用された可能性はある。

 だが繰り返しになるが、「経皮毒」という考え自体が無理があり、さらに性器や子宮と直接触れ合うのではない紙ナプキンが、子宮に毒素を吸収させるということは考えにくいのではないだろうか。しかし、「布ナプキン」が「冷え」を取り、経皮毒を防止するという考えは、月経不順に効くというだけでなく、さらに美と健康の獲得、不妊やセックスレスの改善へとつながることが強調されているのである。

 ただし、こうした「効果」を全て荒唐無稽というのも、また無理がある。それは、布ナプキンの別の長所とも関係している。その点については、次回にまわしたい。


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mizuho_h

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