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布ナプキン論②

 さて、「布ナプキン論」の続きである。日本には独自の月経に対する独自の見方が培われてきており、それにともなって月経と女性の関係はさまざまに議論されてきた。

 歴史的な月経の位置づけに注目してきたのは、主に民俗学、文化人類学の分野である。民俗学、や文化人類学では、伝統的な共同体が月経を不浄視し、祓い清める対象としてきた歴史を明らかにしてきた。具体的には、「赤不浄」の考えや、月経の際に女性を隔離する「忌屋」「月経小屋」を設ける慣習、食べ物、火といったものにまつわるタブーなどが取り上げられている。(瀬川1980; 成清 2003)

 そのなかでも白眉なのが、波平恵美子による「ケガレ」としての月経についての議論だろう。波平は文化人類学ではお馴染の、「ハレ・ケ・ケガレ」の「ケガレ」という観点に注目して、月経に対する不浄観が、「男性と女性の生理的相違を社会的・文化的相違にまで引き上げ、しかも、その対立相違する男女の対応関係、相互依存の関係を制度的に表現」(波平84: 222)したものでもあったと指摘している。具体的には、共同体の外側に月経の女性を置くことで、いわば月経時の女性を境界線上の存在と言える。

 余談だが、この月経小屋に関しては、1970年代という比較的最近まであったことを波平は紹介している。波平の著作に写真で紹介されている月経小屋は、海辺の小さな、寒そうで貧相な小屋である。近頃、月経小屋を「女性同士が共同性を培える部屋」として紹介する向きもあるが、それは無理な話としか言えない。

 他方で、生理用品についても盛んに研究、議論が行われてきた。具体的には、それまで手当に使われてきたボロ切れや綿に代わって、明治期にゴム引きの商品が登場したこと、1960年代から紙ナプキンが普及してきたことが取り上げられている(小野2000; 川村1994;田中2014)。布から専用の紙ナプキンが開発され、利便性が高まるにつれて、月経は女性が個人が個室で処理するもの/すべきものとなった。

 特に、社会学ではジェンダー/フェミニズムの観点から、近代における生理用品の発展と、女性の意識の変化が論じられてきた。天野正子、桜井厚は、生理用品の発展の背景として女性の社会進出などを指摘した上で、「女性たちが積極的に自分の生き方をみつけはじめる動きと、自分にあった生理用品を求め使おうとする動きとは、みごとに関連しあっていた」(天野・桜井1992)と述べている。

 結局のところ、伝統的社会では宗教に基づいた月経観によって、共同体は女性の身体性を管理してきたと言える。他方で近代以降、月経は女性が個人的に処理する対象となることと、そのための道具として生理用品は発展する動きが同時並行的に起こった。つまり、紙ナプキンの発展は、月経と女性の身体性の私事化、個人化を象徴している。言い換えるなら、月経は近代において世俗化していったのだと考えられる。

 月経や生理用品の時代の流れを整理すると、布ナプキンの特異な性格が見えてくる。すなわち、紙ナプキンの普及とは、月経の「世俗化」、あるいは女性の身体性の私事化・個人化という、近代化においては極めて自明的な変化を象徴しているのである。そして、紙ナプキンとは異なる不便な布ナプキンは、この変化に対していわば逆行している点において、特徴的だと言える。

 なぜいま「布ナプキン」なのか。しかもなぜ、「スピリチュアル市場」において人気を博したのか。その点を明らかにするには、近代において女性の身体性に起こった、世俗化・私事化・個人化の、その先に位置づけて検討する必要がある。

 余談だが、海外では布ナプキンの普及はそれほど一般的ではない。もともとタンポンの使用が一般的だった上に、最近はヴィーナスカップと呼ばれるシリコン製の生理用品が注目を集めている。友人によると、いわゆる「スピリチュアル」な人たちも月経には関心を持つが、ヴィーナスカップの使用者が多いという話だった。この違いは、海外の「子宮系」(spirituality of wombs)と日本との違いとも関連している。

他方で、生理用品が普及していないアフリカなどに、布ナプキンを広める取り組みがある。また、男子生徒にも作成させることで、性教育を兼ねているそうだ。

世界中で紙ナプキンを普段使っているのは、ごくわずか。日本は一般的に使用するのが当たり前な環境が、逆に特異な布ナプキンの広まりを産んだとも考えられる。こうした事象も含めて、実際の布ナプキンの広まりについては、次回に紹介したい。

(参考文献)                            天野正子・櫻井厚,1992,『「モノと女」の戦後史――身体性・家庭性・社会性』有信堂.                             川村邦光,1994,『オトメの身体―― 女の近代とセクシュアリティ』青弓社.波平恵美子,1984,『ケガレの構造』青土社.              小野清美,2006,『生理用品の45年の軌跡』ふくろう出版.       田中ひかる,2013,『生理用品の社会史――タブーから一大ビジネスへ』ミネルヴァ書房.                            瀬川清子,1980,『女の民俗誌――そのけがれと神秘』東京書籍.


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mizuho_h

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