2023年5月16日﹣毎日散歩計画18日目

5月16日。毎日散歩計画18日目、晴れ。
今日は旅の日。俳人・松尾芭蕉が江戸を出て東北「奥の細道」へ旅立った日なんだそうだ。

夫とお散歩をすると、いろいろな遊びを提案してくれる。どっちが先に猫を見つけるか、とか、看板の文字で自分の名前を完成させる、とか、通り過ぎた車のナンバーを計算する、とか。どれだけ歩きなれている道でも、普段は気にもとめないような路地の隅々まで見まわしながら歩く。

今日は日が暮れてからひとりで買い物に出掛けた。その道すがら「おくのほそ道」の文字採集をすることにした。近くのアパートの入居者募集ののぼりや、パーキングの注意表示、小学校前の標語や横断幕、飲食店の看板。文字はあらゆるところに溢れている。

「お」「く」「の」は簡単に見つけることができた。あっちの看板にもこっちの看板にも書いてある。「そ」もなんとか見つけた。「道」はどこかにあるだろうと楽観視していたけれど、工事現場前の看板を隈なく探してどうにか採集に成功した。あとは「ほ」だけ。なのに「ほ」がない。どこにもない。

このままでは家に帰れない。「ほ」がなければ「おくのそ道」になってしまう。そんな心許ない道、芭蕉も安心して旅立てないのではないか。どうしよう。工事現場前のSDGsの取り組みも全て読んだのに、やっぱり「ほ」は見つからない。

最終手段だ、と夜道に煌々と光る自動販売機の前に立った。灯りに集まる小さな虫が、何の躊躇いもなく顔面にぶつかってくる。せめて少しはスピードを落としてほしい。マスクをしていなかったら口に入ってる。自販機の右上から順番に、ただ「ほ」の文字だけに集中する。缶コーヒーに書かれた文字を読みながら、なんで芳醇をひらがなで書いてくれないんだと訳の分からない怒りを覚える。1段目、2段目、3段目まできたところで、見つけた。ほうじ茶。あった。「ほ」があった。

芭蕉が「おくのほそ道」へ旅立ったという5月16日。道中の水分補給は、ほうじ茶だったに違いない。

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