my urbanism-topia-place-ある都市の歩行、思想

私はそこに降り立つ。家を出て、ここに立っている。
部屋から、ここまで、ドアを開けてから30分。30分前、私は家にいた。
あなたは立つ。あなたはいま、これを読んでいる地点に立っている。家から出て、あるいは家の中で、これを読んでいる。

都市を目指す。目指す?30分の間に私は都市に入った。あなたは?入っている。入ろうとしている。
都市に入る?何をまたいで都市に入ったのだろう、30分の間に、「ここから都市です」と書かれた標識をあなたは見ただろうか?少なくとも私はみていない。しかし立っている。都市に。都市と言われる場所に入っている。気づいたら、私は、都市だった。

広告の光線、行き交う人、人たちの匂い、視線が交錯する。地面からビルまで跳ね返って、人に当たる音。全てが、マーブル模様のように混ざり合っている。
ここを都市だと私に感じさせる。そのうちのひとつにあなたがいる。あなたは何をしているのだろう。そして、あなたにとって、私はあなただ。都市のひとつ。私は、あなたの、都市のひとつとなっている。隠れてもいない。目立ってもいない。ただ、あなたに都市を感じさせるものとして、私はいる。私もあなたを感じない。しかしあなたは都市にいる。お互いに、アーバン・スケープとなっている。

さっきまで私は立っていた。まだ30分前のまま。都市に入って、降り立ったままの姿。アーバン・スケープに包まれているまま。
歩こうと思う。イヤホンを耳にねじ込む。ジミ・ヘンドリクスのウッドストックのライブ音源を流す。ジミヘンの、歌詞の無いギターが、The Star Spangled Bannerを歌う。1969年に鳴らされた音が、いま、ここの、私の鼓膜を震わせて、脳に入ってくる。
しかしここはウッドストックではない。都市だ。そして1969年ではない。かつて1969年だった地点だ。
アーバン・スケープから音が消える。歪んだストラトキャスターの音が私と都市を分断する。
歩行を開始する。スニーカーの靴底が、都市を踏む。あなたはまだ立っているか。だとしたら、歩け。都市を歩け。
私が踏んでいる都市の大地は、誰かが踏んだ都市の大地だ。数メートルも掘れば地下には都市が広がる。大地の上にまた新しい表面を作り、その表面は何層にも積み重なり、ついには200メートルを超えた高さへと成長しつつあるメトロポリスのビルたち。

しかしそれらは歩行には関係ない。あなたは迷い始めた頃だろうか。その感覚はおそらく正しい。迷うのが嫌ならば、都市を拒絶すればいい。私は、都市のゼロ・ポイントを踏み続ける。地表のゼロ・ポイント。1969年にも、その前にも、そしていま、これからも存在した/する、都市のゼロ・ポイントを歩行する。迷う。アーバン・スケープに溶け込みながら、都市を迷う。
目的地は無い。なにかが起こるかもしれない。交錯する視線のうちの1つが私に強くぶつかるかもしれない。目指すべきところはない。漂流する。自分の歩行が、都市が、私をどこへ連れて行くのかはわからない。

都市において、私は自由である。歩き出すと、私は都市の波に従いながらも、抗うことができる。見えない道が、角を曲がれば曲がるほど生まれてくる。ゼロ・ポイントをたかだか数百メートル上に押し上げた「地表」から都市を見たとしても、この生々しさは感じられない。自由は感じられない。私は都市において、迷う、見えないものを見ようとし続ける点において、自由である。

あなたはどうだろう。今、すれ違ったのはあなただろうか。スターバックスのテラス席から私を見ているのか。既に、都市になった私をあなたは見ているのか。さっきから感じる視線は、既に都市になったあなたのものなのだろうか。
ガードレールにボムされたタグはあなたの名前なのだろうか。駐車場の縁石、スケートボードがノーズ・スライドをした後に残るワックスの跡は、あなたがつけたのだろうか。あるいは、あなたは私を動かしているのだろうか。都市において、歩行するという点において。

都市が、私の身体と空間を溶かしては接合する。
私が踏んだ大地はすぐさま再び誰かに踏まれる。それがずっと続いている。インターロッキングだろうが、アスファフトだろうが、焼け跡だろうが、私が今立っているところは既に誰かに踏まれ、そしてこれからも踏まれ続ける。
あなたはそれを聞いて、途方も無いと思っただろうか。そうだ、都市は途方も無い。都市は、人間の、国家の、歴史の、政治のスケールを超えて存在している。私たちはいま、そこに名前をつけ、イメージを与えて、そのイメージの中に入って戯れているだけに過ぎないのかもしれない。
しかし、いま、私は、あなたは、都市を歩いている。都市が、都市であったということは消えない。私たちに歩かれたという事実は消えない。それは都市と、私たちの身体だけが知っている。アーバン・スケープはゼロ・ポイントの都市の大地に吸い込まれ続け、そこを歩く人を動かす。あるいは、遠ざける。

疲れた。

帰る。帰り道は簡単だ。地図をなぞるのではない。脚が知っている。あるいは、都市が教えてくれる。今は都市から出る。再び都市へと入る準備をするために。これは終わりではない。都市のすべての始まりである。都市はどこにもない、あなたがいるところが都市である。あなたが行くところが都市である。私は都市だ。あなたは、どうだろうか。

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