【Paradise】アヅマについて考える

・作中の描写やキャラの心境を反芻しながら深読みと妄想をしているだけの記事
・特典SS等全てのコンテンツを網羅しているわけではない
・虐待、暴行の被害者の心理について専門的な知識がない人間の考察
・無印マツアヅ時空ベース



アヅマがあの島で誰よりもマツダを選ぶに至った心理をずっと考えている。
マツダが元々は善人であったという点を差し置いても、アヅマがマツダへの好意を維持できるのはやっぱりかなり異常だ。
そもそもマツダが善性の欠片もない悪人であったなら、アヅマが抱く好意の理由をわざわざ考えなかった気もする。主人公が極悪人を好きになるストーリーはそれだけでなんだかファンタジー感があるからだ。
「あいつは悪いこともするけど、本当はいい奴なんだ」と評される人間だからこそ、ただの「いい奴」なら他にもいるのに何故マツダを選ぶのか?という疑問が湧く。
そういった疑問を考える上で、アヅマのキャラクター性を考える。アヅマの行動や言動を何でもかんでも幼少期に受けた虐待に結びつけてしまうのは浅慮かもしれないけど、作中であれだけ虐待の過去が強調されているのでまあやっぱり関係あるだろう。
とりあえずこれ以降は、プレーヤーがアヅマに対して感じる価値観や行動のズレは過去の虐待に起因するものとして考えてみることにする。


ちなみに結ではアヅマが自分の幼少期の経験(弟の殺害)からマツダへの共感が生まれているような描写があって、マツダへの好意を後押しした要因ってこの共感もかなりデカいのでは?という感じで答えが出ていると思うけど、今回は無印および結で明確には描写されていない部分から考えてみたい。


Paradiseを初めてプレイしてから3月ほど経ち、感想記事を書いた以降もずっと考えていたことについて改めて書き記してみようと思う。



1.被害者意識の薄さ


貯蔵庫で暴行を受けた後のアヅマの独白を読むと、不快感や疲労感はあれど加害者のマツダへの恐怖感があまりにも薄過ぎるのではないか?と思ってしまう(肩に触れられそうになって反射的に身を竦ませる描写はあった)。
暴力を振るわれた後のアヅマの諸々の行動を見ると、どうしても暴行を受けることに慣れてしまっているように思える。慣れている、というのは暴行を受けることに恐れがないとかそういうことではなくて、どこか諦念のような感情がある。
「全ての幕引き」でマツダが言っていた「(アヅマは)殴られるようにできている」は随分と意地の悪い言い方ではあるが、もしかしたらこれのことを指しているのかもしれない。
死んでもいいとまでは思っていないし、理不尽な扱いに抵抗はするけど、自己肯定感が低いために「自分がこんな目にあっていい筈がない」という意識が薄いように感じた。
自分が受けた暴力を他人の受けた暴力と同じくらいの重さで受け止めているというか、当事者意識がないというか。被害者意識が薄い。
誰よりもアヅマ自身が、自分の受けた被害を軽んじているからこそ「マツダを信頼したい」という気持ちと「自分の受けた酷い仕打ち」を天秤にかけた時、前者を選ぶに至ったのかもしれない。



2.生きることへの執着


島に来たばかりのアヅマは暗い過去を持った自分と本土での日常との乖離を感じていたが、島での非現実的な出来事、陰惨な殺人や飢えや暴力を経験してそれはますます加速したのではないかと思う。
記憶は消えても経験は消えない。時間が解決する部分もあるかもしれないが、心理的に不可逆な部分がある。恐ろしい体験をした人間がそれを体験する前と後で全く同じ人間ではいられない。
アヅマはそれを幼い頃に身をもって知っているし、マツダも実際に本性を引きずり出されている。
極限状態で追い詰められて倫理を外れた行いをすることは現実でもままあることだが、本当の意味でその行いを責めることができるのは実際に同じ状況にあった人間だけだろう。だからマツダを責められるのも許せるのもアヅマだけ。
それはそれとして、マツダを許すことでアヅマは何を得るのか?


アヅマというキャラクターの魅力は、厭世的であっても生きるという意思が揺らがないところだ。その生への執着は人間の本能という以上にアヅマの幼少期の「弟を殺してまで生き延びた」経験に由来する部分が大きいだろうと思う。
それを踏まえて、虐待経験のある男が自分の置かれた環境で一番力を持つ男に従順であろうとするばかりに、加害される前まで抱いていた好意を維持しようとしたと考えるとさして矛盾を感じない。アヅマ自身が加害者におもねることを意識しているか否かに関わらず。
実際、マツダからの好感度があるにも関わらずアヅマが死んでしまう「一人ぼっちの王様」ENDへの分岐はアヅマからマツダへの好感度がより低い選択肢を選ぶと分岐する。
どうやらアヅマの生存にはアヅマがマツダを選んだ、という要素が必要らしい。アヅマ自身に生存のためにマツダを選ぶという意志がなくても、マツダを選ぶことが生存に繋がっている。
これは本当にこじつけだと自分でも思うが、アヅマの境遇を考えるとそういう心理になってもおかしくないとも思う。



3.信頼


前項で述べた説は流石に(BL的にも)どうかなと思うので、もっとアヅマの心境に沿った考え方をしてみる。
マツダは本編中で信頼されることに終始こだわっていたが、暴力を受けるまでのアヅマはマツダに対して全幅の信頼を置いていた。
その生い立ちゆえに人を避けてきたアヅマが他人を信頼する、ということの重みがどれほどかと考える。日々命を脅かされる幼少期を送ってきたアヅマが、恐らくは自分を守るために他人を避けてきたアヅマが他人を信頼するというのは、命を委ねるに等しいことなのではないかと思う。
連絡の途絶した無人島で飢えや不審死によって追い詰められている状況ではなおさら。
にもかかわらず、参加者たちと食糧を盗った盗らないの争いをしている時のアヅマは、マツダを信じたいあまり公平性や客観性がない。根拠なく無実を信じている。マツダを信じたいからマツダを信じるぜ!という感じだ。もうこの時点で何を差し置いても信頼している。
その信頼はアヅマ自身が暴力を受けた後も持続する。自分が受けた暴力行為を非難しつつ、それでも善い部分に目を向け続ける。
この一連の流れはプレーヤー視点だとかなり異様だが、思うにアヅマはこの時には既にマツダにオールインしてしまっているのだ。好意も信頼も、自分の持てる全てをマツダに賭けてしまったから、たとえマツダが暴力的な男であっても目の前の男に縋るしかない。
身体的、精神的虐待の被害者が加害者を庇う心理状態に陥っている。自分の心を守るために必死になってマツダを庇って、この男はまだ信頼に足る人物なのだと思い込もうとしている。
例え暴力を振るわれようと、この男が自分に向けた好意は嘘ではないのだと。


マツダは自分が正しいと思って取った行動が原因で参加者たちからの信頼を失い、その反動でアヅマからの信頼を踏み躙るために暴力を振るった。幼稚な試し行為だ。
マツダはアヅマの幼少期の被虐体験を知るべくもないが、まさにその体験があったからこそ、マツダはアヅマに許されたように思う。
ハピエンの展開は、プレーヤーから見ると一見「自らも被害に遭いながら、追い詰められて暴力を振るうマツダを許し、受け入れる献身的な男」という構図になっているように思えるが、その実アヅマにはマツダに島での暴力行為を省みることを促すような気持ちは一切ない。
まあそれがマツダを真に受け入れるということなんだろうが。
アヅマにとっては、マツダが縋りやすい形で居てくれればそれでいいのかもしれない。



4.普段の振る舞いに見る違和感


アヅマがマツダとハピエンを迎える展開についての考察は前項までで述べた通りだが、アヅマの普段の振る舞いから伺える違和感について面白いなと思った点を挙げておきたい。

アヅマは他のどの参加者から見ても「イケメン」と評されるほど容姿が整っているにも関わらず、アヅマ本人には全く自覚がない。
容姿を褒められるのは初めてではないだろうに、本人は全くピンときていない様子なのは少し不自然に思える。自覚がなかったとしても、何度も誉めそやされればそのうち少しは意識しそうなものなのに少しもそんな様子がない。
しかしそれはそれとして写真を取るときに格好つけようとする。
「他人から見た自分の容姿の評価」と「格好つける行為」が関連付いていないのが面白い。主観が強すぎて自分のことを客観視できていない印象を受ける。
自分の容姿の良さに自覚がないのは、自分が本当に褒められるような顔をしているなら親にも愛されたはずだ、と頭の片隅で思っているからなのかもしれない。


Paradiseの発売年は2017年、今から約7年前だがその当時の感覚からしてもアヅマのチャラムーブが微妙に古く感じるのは私だけだろうか?
その理由はクラスメイトと多少なり交遊があった高校生の頃までに知った流行りが、それ以降アップデートされなかった結果なのではないかと思った。
それは今まで他人との交流を避けてきたことの証左でもあると思うが、アヅマの中にある人間のサンプルってめちゃくちゃ少なさそうだ。
島の反対側を探索に行くシーンでも、足場の悪い場所で手を差し伸べられただけで「こんなこと今までされたことがない」という感想が出てくる。
そんな小さな親切さえ受けてこなかったアヅマが初めて深く関わった人間がマツダであったことに同情を禁じ得ない。



5.まとめ


Paradiseマツダ√を初めてプレイした当初はマツダの異常性ばかり目についてアヅマは単なる被害者なのだと思っていたけど、マツダ√、それだけでは違和感の拭えない展開が多すぎる。
プレイ中にアヅマに対して感じた違和感をひとつずつ考え、周回して台詞を読み込むうちにアヅマの繊細なキャラクター造形に気付いた。
アヅマは複雑な人間すぎて、とても私には彼の意識と無意識の行動を考察し切れないけど、一度自分なりに答えが出せたかなと思う。
今回書き並べたことが全て正しいとは思わないし、これからも真剣にアヅマのことを考えていきたい所存。



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