【2010年代のベストアルバム100枚】Adele"21" (2011)

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概要

"21"は、イギリスのシンガーソングライターAdeleのセカンド・スタジオアルバム。彼女が今作を制作中だったときの年齢がアルバムのタイトルとなっており、Adele自身がRick Rubin、Paul Epworth、Ryan Tedder、Jim Abbiss、Dan Wilsonといったソングライター達と共作を行いました。今作はインディー・レーベルであるXL Recordingsにとって破格の商業的成功をおさめ、2011年と2012年の2年連続で世界で最大のセールスを記録したアルバムとなり、イギリスでは通算23週、アメリカでも通算24週連続で1位を記録しました。全世界での総売り上げは3000万枚と推定されています。

”大人”を意味する21という数字

"19"に続いて数字をタイトルに冠した今作について、「元々はそうするつもりじゃなかった」と彼女は語っています。「ファーストアルバムでインタビューを受けたとき、みんなっていうか特にアメリカ人が『あなたのセカンドアルバムは"21"になるんですか?』って訊ねてくるから、違うわ、失せろ!もっと想像力を働かせることができるから!って思ってたの」

「この作品が出来上がりつつあったとき、"Rolling in the Deep"ってタイトルにしようと思ったんだけど、言いにくいしヨーロッパ人は完全に面食らうだろうと思って。私だってそんなタイトル困惑するしね。それに私は変化して、ファーストアルバムから今の私になるまで本当に成長した。キャリアだけじゃなくて私生活においてもね。もちろんアメリカで21歳は法廷年齢だけど、私にとっては終了、これからは自分で頑張りましょうって感じなわけ。21歳ってティーンエイジャーを卒業して、一人前の大人になる年齢だから」

初めての真剣交際から破局、ドラマクイーンの誕生

2009年4月、10歳年上の男性と初めての真剣な交際を始めたAdeleは、その音楽性と相まって「オールドソウル」とメディアからレッテルを貼られたこともあり、当初アップテンポな楽曲の制作を開始します。しかし難航したスタジオセッションから生み出されたのは、前作と同じピアノバラードな"Take It All"でした。交際が難局を迎えていた時期に生み出されたこの曲を当時のボーイフレンドに聴かせると、二人は破局。このことがきっかけで、彼女は自身の失恋を音楽へと昇華させていきます。

破局直前、プロデューサーPaul Epworthに連絡をした彼女は、もっとアグレッシブなサウンドを目指すべきという彼の助言の元、"Rolling in the Deep"の制作に取り掛かります。「『Paul、私の心臓の鼓動を感じな!』って感じでやってたわ。この曲のビートは私の心臓の鼓動だったから。それに私ったらとんでもないドラマ・クイーンで。すんごく怒ってたし、それが積み重なって積み重なっていって...」

「"rolling in the deep"って私なりのスラングで、UKでは"roll deep"っていう中傷表現があるんだけど、誰かに頼ってたり、いつもバックで誰かが守ってたりして一人では決して行動できないことを意味する言葉なのね。困った状況に陥ってもいつも戦いに来てくれたりしてくれるような人がいるってこと。まさに恋愛していた時に私が感じていたことで、それがアルバムのテーマなんだけど、"Rolling in the Deep"が特にそうね。そういう風に感じてた。まさに私はそういうものを手に入れようとしてると思ってたんだけど、結局そういうものではなかったの」

怒りの感情を吐き出した後に生まれた代表曲"Someone Like You"

自分のアルバムを聴いて、「みんなが私を躁鬱状態みたいだと考える」ことを想定してAdeleは次のように発言しています。「たまにはみんな、ちょっと不機嫌になったり憂鬱な気分になったりするでしょ。私は自分のそういう感情について書いたわけで、それが拡張されていったの。他の21や22歳の女子と同じように、誰かが自分の元を去るくらいで私は鬱になったりしないからね」

一方で、"Someone Like You"は彼女の弱い一面を見せる曲となりました。「あのね、"Rolling in the Deep"や"Rumour Has It"みたいなとんでもないビッチになることに疲れたからあの曲を書いたの。彼の描き方にうんざりしてしまったのね。かなりほろ苦い気持ちだったし、後悔してる部分もあったし、何より彼は私のこれまでの人生で最も大切な人だったから。それで"Someone Like You"を書いて自分は大丈夫だって言い聞かせて、彼と過ごした2年間は価値があったって思いたかったの」

カントリー・ミュージックからの影響

アップビートな"Rolling in the Deep"からもわかるように、今作で彼女は”ソウル”と称される自身の音楽性をさらに推し進めます。特にカントリーから受けた影響を彼女は語っていますが、それが今作のアメリカでの大成功に寄与しているとの見方を示している人もいます。2010年の北米ツアー中、Adeleは友人に聴くよう勧められたカントリー界のレジェンドWanda Jacksonに「中毒状態になっている」と語っていました。「彼女ってすごく生意気でいやらしいの。女性版Elvisみたいにね、気恥ずかしくなるのを恐れないっていうか」

さらにアメリカ南部でのツアーをきっかけに、彼女はAlison KraussやLady Antebellumなどアメリカのカントリー音楽全般に興味を広げ始めます。その中で、Dixie Chicksなどカントリースターも手掛けてきたプロデューサーRick Rubinと出会います。ずっとファンだった彼との出会いについて「始めはとても怖かった」と振り返っています。一方で、Rick Rubinが自身のライブに来た際に「君はライブだと全然違うね。自分のアルバムでもそのライブを表現したほうがいい」と言われた際には、「『Rick、あなたがそれをやりたいわけ?』って思ったけど、『Rick Rubinにそんなこと言えない』ってなったの」と語っています。「精神的に、種を蒔いとこうとはしたけどね」という言葉通り、今作でRick Rubinは数曲のプロデュースを手掛けることとなり、大きな役割を果たしました。

彼女の経験した失恋が、結果的に大いに反映された今作について、次のように語っています。「時々、何がそうさせるのかわからなくなるの。だってアルバムって写真みたいなものだから永遠に残ってしまうしね。自分のアルバムを振り返って、人間として成長したことが分かればいいことかもしれないけど。それに年を取って子供や孫ができて、私が19歳で経験してたような苦悩に満ちた10代のステージを経験しているときに、『これを聴きな!これが19歳の時に婆ちゃんが経験してたことなんだよ!』って言えるから」

参照

リリース時の評価

2011年のベストアルバム・リストで、『Billboard』『TIME』『Rolling Stone』が1位に、『American Songwriter』が3位、『Pop Matters』が12位に選出した他、多くのメディアがトップ50以内に今作を選出しています。

『Rolling Stone』は"21"について、「イギリスの若者の個人的な悲しみ、つまり18ヶ月に及ぶ交際の崩壊を、1300万枚の売り上げへと変容させ、国境や海を越えて、ティーンの女子からベイビーブーマー、ヒップホップ・ヘッズまでを一つにした」とその功績を称えています。「今作の本質はその歌声にある。豪快でクラシックな趣き、そして年不相応すぎる将来有望な感情的な深みを兼ね備えている」

14位に選出した『Paste』は、今作について「彼女はデビューアルバムで散りばめられたムーディーさをいくらか犠牲にし、ノックアウトが散りばめられながらも、より一貫性があり、即座に一つのまとまった形になった」と指摘しています。「Adeleはよく手入れされた曲の塊を持って現れ、重構造の音楽性への関心を披露しながらも、出番が回ってくるたびにそのままポップチャートを邁進した。それこそが、まさに彼女が狙うべきところなのだ」

2010年代における評価

2010年代のベストアルバム・リストで、『Rolling Stone』が8位、『Billboard』が10位、『Consequence of Sound』が19位、『The Independent』が24位、『Paste』が55位に選出しています。

『Billboard』は今作の破格の成功を「ブロックバスター。記念碑的。歴史的偉業」と絶賛しています。Billboard 200史上最も成功したアルバムに君臨し、「通算24週の1位を獲得」し、「グラミー賞で6部門受賞」を果たした一方で、全米1位を獲得した3つのシングル"Rolling in the Deep""Set Fire to the Rain""Someone Like You"が「バラードのチャート回帰の前触れになった」とも指摘しています。

『Consequence of Sound』は、「恋愛とそれに続く終焉」という定型化されたこのテーマに「新たな生命を吹き込んだ」と指摘しています。「ある誰かと物事が望んでいたように進まなかったときに、取り乱し、悲しみに沈み、怒り狂い、完全にブルーになったとしても大丈夫だと、Adeleは私たち全員に保証してくれている。彼女の赤裸々なリリックを通して、人生の試練に立ち向かうことのカタルシスをAdeleは作り上げた」

かみーゆ的まとめ

2010年代の音楽シーンの方向性を大きく変えた最重要アルバム"21"。流行のポップミュージック的では全くないのに、どのポップミュージックよりもヒットしたという矛盾。Amy Winehouse、Lily AllenやDuffyなどUKのソウルミュージック志向のアーティストに混じって、ひと際地味に登場したのに、結果的に地球規模の存在へと変貌した驚き。そのアメリカでの成功の大きな要因ともなったカントリー音楽との奇跡的な出会い。女性ポップミュージシャンはこうあるべきという従来の価値観の破壊。インディーファン、ヒップホップ・ヘッズ、コンテンポラリーな音楽を好む人々といった様々な音楽ファンを老若男女人種関係なく惹きつけた、彼女の音楽の核にある歌声。大スターでありながら誰からも嫌われないバランス感覚。彼女の歴史的成功の要因は、多くのレイヤーが存在しており、奇跡的という感じすらします。

ソウルとディスコとポップとが絶妙なバランスで融合した"Rolling in the Deep"を除けば、"21"には音楽的に大きな驚きがあるわけではありません。コンテンポラリーすぎる感が否めない部分もあります。しかし、ソングライティングは"19"のそれより明らかに洗練されており、自身の経験した失恋を赤裸々にさらけ出したリリックは、メインストリームにおけるありきたりな恋愛ソングの様相を一変させました。何よりそこにAdeleのヴォーカルがある。それだけで、他のアーティストとは一線を画す音楽となってるのです。

トラックリストとミュージックビデオ

01. Rolling in the Deep

02. Rumour Has It

03. Turning Tables

04. Don't You Remember

05. Set Fire to the Rain

06. He Won't Go

07. Take It All

08. I'll Be Waiting

09. One and Only

10. Lovesong

11. Someone like You


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