【2010年代のベストアルバム100枚】Bon Iver "Bon Iver, Bon Iver" (2011)

画像1

概要

"Bon Iver, Bon Iver"は、アメリカのバンドBon Iverのセカンド・スタジオアルバム。今作は商業的にも成功を収め、全米では初週に10万4000枚を売り上げて、アルバムチャートで初登場2位を記録しました。2012年のグラミー賞でBest Alternative Music Albumを受賞した他、収録曲"Holocene"はその年のSong of the YearとRecord of the Yearにノミネートされました。

Heath Ledgerを悼む"Perth"から始まった作品

2008年にJustin Vernonが購入した、ウィスコンシン州にある動物病院を改装したレコーディングスタジオで、今作のレコーディングは行われます。その場所は彼の生まれ育った家から3マイルほどしか離れておらず、両親が出会ったバーから10分のところにある場所であることを彼は明かしています。

今作のために最初にレコーディングしたという曲"Perth"について、「このリフと最初のメロディー」が最初に取り組んだものだったと明かしています。「2008年上旬のことだった。すぐにタイトルが決まったのには理由があるんだ。そんなに良く知らない男性と一緒にいてね、語り始めると長くなるんだけど、3日間僕らは一緒に過ごしてた。彼はミュージックビデオの制作者なんだけど、その3日間の中で彼の親友(Heath Ledger)が亡くなって、彼はパースの出身だったんだ。それがこの作品の始まりみたいなものになった。"Parth"は疎外感があるけどbirthとも韻を踏んでいて、すべての曲が最終的に出来上がると、そのテーマに対して知らぬ間に反抗している感じで、それぞれの曲にいろんな場所が結びついていて、どんな場所かどんな場所ではないのかとかを説明しようとしてる感じだったんだ」

”曲ではなくサウンド”を創り上げたかった

Bon IverのJustin Vernonはデビュー作の成功と、6曲で参加したKanye Westとのコラボレーションを経た今作の制作について、「ギターで曲を作るということがもうできなくなってしまった」と明かしており、”曲ではなくサウンド”を創り上げたかったと説明しています。「自分の声を変えてくれる人、それは歌声ではなくて、このバンド、プロジェクトにおける著者という自分の役割を変えてくれるような人をたくさん招いた」と語っており、その中には有名なバスサクソフォン・プレイヤーのColin Stetsonやペダルスチール・ギタリストのGreg Leiszなどが含まれていました。「自分でこの作品を創り上げたわけだけど、そうやっていろんな人を招くことでその全体像が変わることを良しとしていたんだ」

Justin Vernonは今作に収録された「10曲しか」今回は曲を書かなかったことを明かしており、「どれも、すごく時間をかけて書いたんだ」と語っています。「だけどある意味、自分がこれまでやってきたどのやり方よりも自分らしいやり方だと思えたんだよね。この13、14年間はJohn Prineからの影響とかそういうものを吐き出そうとしていた感じだったから。でも今は、ちゃんと自分のゾーンに入っているって思える」

「今回のソングライティングは、潜在意識の中でぶらぶら歩きながら新しい音楽空間を見つけ出そうとしている感じだった。完全に高慢な芸術家気取りのような感じを出さずに言うにはどうすればいいかわからないけど。異なる楽器や、それを使った違うレコーディングの仕方で新しい音楽世界みたいなのを探求したり、そうやって何を生み出すことができるかを知りたかったんだ」

Bon Iverとは何かを探求した作品

また歌詞に関しても、これまでは「時間をかけて言葉を生み出す」方法で曲作りをしていたにも関わらず、今作ではそのような作り方ができなかったと彼は語っています。「ただ座って、サウンドを歌って、メロディーを歌って、どんな音楽になろうとちゃんと形になって聞こえるようになるまでやるのを重視した。文章の意味が通らなかったとしてもね。それで何週間、何ヶ月と聞いて、どういうサウンドになるのかをメモするようにしてる。で、全部タイプしてちゃんと意味が通るかや何が言いたいのかを理解するようにしてるんだ」

「このプロジェクトを通してBon Iverが自分にとってどういう意味を持つのかを探求したくてたまらなかった。前に進みたかった。自分が作った一つの作品という物以上になるってわかってたからね。殻を破るいい機会だった。自分の夢を実現する作品を作る素晴らしい機会に恵まれたわけだからね」

Justin Vernonは自身の一風変わった音楽が広く受け入れられたことについての驚きを次のように語っています。「昔からの友人からある朝、『何もかもおめでとう。本当に嬉しいし、世界が理解したってことに変な感じがしつつも、素晴らしい驚きだよ』って言われたんだ。自分も『本当にそうだろ』って思ったよ」

参照

リリース時の評価

2011年のベストアルバム・リストで、『Paste』と『Pitchfork』が1位に、『Consequence of Sound』『Billboard』『PopMatters』が2位に選出しているほか、多くのメディアが10位以内に今作を選出しています。

『Pitchfork』は、前作『For Emma, Forever Ago』と違い、今作が「物珍しく、広大で、身に染みる」アルバムになっていることを指摘しています。また、トレードマークとなっているJustin Vernonのファルセットについて「彼はその歌声を緊迫感のある高みにまで推し進め、ゴージャスであると同時にでしゃばらないような方法で操っている」と絶賛しています。

『Paste』は、『For Emma, Forever Ago』での美しいメランコリーさを残しつつ、「より多層的で、多様で、興味を引き付けられる」作品になっていると絶賛しています。「コラボレーション相手の最高を引き出しながら、彼のサウンドやヴィジョンは一切犠牲にしていない。道に迷うことなく、新しい音楽的方向性へと足を踏み入れている」

2010年代における評価

2010年代におけるベストアルバム・リストで、『NME』が20位、『Stereogum』が22位、『The Young Folks』が24位、『Treble』が25位、『Paste』が28位に選出している他、多くのメディアが今作を選出しています。

『NME』は、Justin Vernonの2010年代における影響力についてThe Japanese Houseの「万華鏡のように多層的なヴォーカル」、The 1975やJames Blakeのプロダクション、「彼にとってゲームチェンジ的だったKanye Westとの作品」や「キャビンの中で生活するJustin Timberlake」に至るまで、「否定することができない」ものであることを指摘しています。

『Treble』は、今作を「敗北と絶望のムードボード」と称しています。さらに、「非常に緻密な楽器の数々と細部へのこだわり」によって「斬新な」サウンドを実現していることを指摘しています。「"Bon Iver"を特別なものにしているのは、急いで良くならなければというプレッシャーを感じさせないところである」

かみーゆ的まとめ

Kanye West"My Beautiful Dark Twisted Fantasy"に参加した際に、Justin VernonはKanyeのことを「地に足の着いた」人物などと絶賛していたので、その影響も今作では大きいのかと思いましたが、実際には今作を2008年頃から作り始めていたとのことなので、自然とこのような実験的なサウンドになっていったというところでしょうか。

今作の特徴としては、メロディーや歌詞とを別に考えるという一般的な曲作りから離れて、「一つのサウンドを創り上げる」ことに重きが置かれていることを語るJustinの言葉がすべてを物語っているという感じがします。サウンドは重層的かつ広大で、彼のトレードマークであるファルセットも、その声がいくつも重なり合うことで、より特別な響きがもたらされています。歌詞も難解なイメージはありますが、後付けで意味が通じるかを考えていると本人も言ってるので、”雰囲気やニュアンスで感じ取る”べきものという感じがします。Bon Iverの今に至るまでの音楽的探究の始まりでありながら、フォークな雰囲気を携えていわゆる”心に染みる”作品なのが、この"Bon Iver, Bon Iver"でしょうか。

ポストロックやアンビエント、エレクトロなサウンドにフォークを融合させた温かくも冷ややかなサウンドは唯一無事でもあります。NMEはあんなことを言ってますが、Bon Iverの音楽が2010年代のインディーのトレンドっぽくなったのかは実際のところ疑問です。そもそも真似しようにも、ここまで重厚で緻密なものは簡単に真似できないという感じがしますが。むしろこういうスタンスのアーティストが、Kanye West、Eminem、Vince StaplesなどのHIP-HOPアーティストから愛され、コラボレーションまで行ったというのは2010年代の重大な出来事の一つだったかなと思います。つまるところ、Bon Iverのメロディーには耳に残るポップさもあって、巷のポストロックと違って「嫌な感じがしない」というバランス感覚がここまで幅広く受け入れられた理由なのだろうなとは思います。

トラックリストとミュージックビデオ

01. Perth

02. Minnesota, WI

03. Holocene

04. Towers

05. Michicant

06. Hinnom, TX

07. Wash.

08. Calgary

09. Lisbon, OH

10. Beth/Rest


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?