【2010年代のベストアルバム100枚】Britney Spears "Femme Fatale" (2011)

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概要

"Femme Fatale"は、アメリカのシンガーBritney Spearsの通算7作目のスタジオアルバム。ダブステップやテクノの要素を取り入れたダンスポップサウンドであるこの作品には、Max Martin、Dr. Luke、Fraser T Smith、will.i.am、Stargateなど様々なプロデューサーが参加しています。全米アルバムチャートで初週に276,000枚を売り上げ、彼女にとって6作目となる首位を獲得しました。

自分が大好きだと思える曲しかレコーディングしない

2009年ごろからプロデューサーのDanjaやMax Martinなどとの楽曲制作が噂されていたBritney Spearsは、実際に今作の「レコーディングには2年近くかかった」と語っています。「これまでのアルバムすべての制作に、ちゃんと関与してきた」と語る彼女は、「レコーディングに関してはすごく頑固で、自分が大好きだと思える曲しかレコーディングしない」ために「アルバム制作に時間がかかってしまった」としています。

「レコーディングする前に、何かピンとこなければいけないし、私の中で何か輝くものが感じられなければいけないの。そういう曲ってほんの少しだけ。良いやり方だと思ってる。だって自分の曲は全部大好きだから。自分がレコーディングした曲が実は嫌いだったってアーティストってたくさんいるでしょ。私はそんな風に思わない」とBritney Spearsは語っています。

いま流行っているようなものとは違うサウンド

そんな「私の曲はすべて、本当に素晴らしい」と語るBritney Spearsが「これまで制作した中で最高傑作」と豪語したのがこの"Femme Fatale"です。今作のサウンドについて「クラブで流れるようなフレッシュなサウンド」を目指しながらも「いま流行っているようなものとは違うサウンドにしたかった」と彼女は説明しています。

「大好きないろんなタイプの音楽も実験的に取り入れたかったの。だからアルバム全体を通じて、ポップやヒップホップ、そしてダンスの音楽がミクスチャーされたものが聴けるでしょ。それに私の声で遊んでもみたかったし、いろいろ私の声を変化させたかったの」

これまでで最もアップビートで成熟したアルバム

さらに大好きなアーティストにThe Black Eyed PeasとDeadmau5を挙げ、AdeleやRobynが最近のお気に入りと語る彼女は「ほとんどの人が知らないようなアーティストを発見するのが大好き」とその音楽通っぷりを説明しています。「友人とか私の周りの人たちが、お気に入りの新人をいつも教えてくれて、それでSabiのことは知ったの。最終的に"(Drop Dead) Beautiful"を一緒に制作することになった」

「これまでで最もアップビートで成熟したアルバム」となった今作についてBritney Spearsは「何も語ることはない。音楽が私の代わりに語ってくれるから」と語っています。「どんな時でも自分らしさにこだわり続け、他人に対して私の何かを変えるよう言わせないってことを学んできた。そのことに気づくのには時間がかかったけど、本当に大切な学びだった」

参照

リリース時の評価

2011年のベストアルバム・リストで、『A.V. Club』が23位、『SPIN』が50位にそれぞれ選出しました。

『A.V. Club』は、Britneyの音楽への貢献度がどれほどのものなのかは「議論の余地がある」としながら、彼女の魅力はそのような関心事を「常に超越している」と称賛しています。「Spearsのヴォーカルとデジタル処理は、恍惚としたフックだらけの"Femme Fatale"に良い感じの複雑さをもたらしている」

『SPIN』は、Britneyが「最高の自分を発揮できる領域」である「エリート・プロダクション軍団によって作られた、気分が上がる、両手を思わずあげたくなるシンセポップ」を「さらにヒールでで掘り下げている」と称しています。「結果的にSpearsの7作目にしくじりはほとんど見当たらない」

かみーゆ的まとめ

Britney Spearsの7作目"Femme Fatale"は彼女のディスコグラフィーにおいて唯一と言ってもいい「リリース時に音楽批評家から一定の評価を得たアルバム」でした。今作のプロダクションに対する高い評価は、”加工しすぎなくらい”にデジタル処理されたヴォーカルをすでに実践済みだった"Blackout"の音楽的な再評価にもつながっていきました。また流行のダンスミュージックであるにも関わらず、その後も続いたEDMムーブメントなどとは一線を画すサウンドは2010年代全体においても大きな影響力を与え続け、Charli XCXもBritneyの存在の大きさを言及するほどでした。

また、これまで「作られた商業的アイドル」の象徴的存在だったBritney Spearsが『Rolling Stone』のインタビューで「音楽制作において、いかに自身が大きな役割を果たしているか」強調しているのも印象的です。実際、高い評価をつけたレビューであっても「Britney Spearsが制作にどれほど関与しているのかは疑問」といった内容の批判が当時は目立っています。一方で、Ryan Tedderは『Hollywod Reporter』とのインタビューでそういったBritneyに対する批判を一蹴していました。「彼女は別にそういう風になろうともしてないんだよ。Sinatraだって曲は書かなかった。Garth Brooksはほとんど曲を書かないし、George Straitには51曲ナンバー1ヒットがあるのに、曲を書いたことがない」と指摘しており、「自分で音楽制作をしない」という批判がいかに女性ポップアーティストばかりに向けられてきたものかを仄めかしていました。

どれだけ素晴らしい作品を出しても「自分で(もしくは自分一人で)曲を書いてない」と批判されてきた女性ポップスターに対する見方もこの10年間で大きく変わってきたと感じます。大きな成功を収めてきたポップスターは誰であっても自分なりのビジョンを持ち、「何をレコーディングすべきか」という判断を自身が担い、メインストリームの景色を一変させてきました。Britney Spearsがこの"Femme Fatale"で成し遂げたことはまさにそれであり、人々が彼女のような女性ポップスターを見る目を変える大きな契機となった重要な作品なのではないかと個人的に思います。

トラックリストとミュージックビデオ

01. Till the World Ends

02. Hold It Against Me

03. Inside Out

04. I Wanna Go

05. How I Roll

06. (Drop Dead) Beautiful feat. Sabi

07. Steal It with a Kiss

08. Big Fat Bass feat. will.i.am

09. Trouble for Me

10. Trip to Your Heart

11. Gasoline

12. Criminal


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