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宛先を失ったつつじ協奏曲

誰よりも
そばで見ていたからわかるんだ
君が恋に落ちた瞬間を
まるで横にいる僕の存在が
どこかに飛んでいったように
フェードアウト
行き先を失った君に宛てた言葉は
シャボン玉と一緒に飛んで消えていった

同じ空の下にいるはずなのに 
僕がみつめる先の君の横顔は
別の人を追いかけていて
想定外の出会いに ままならい春は
凍った氷を解かすことができず
木が芽吹くころには 
見たことのない君の顔 いくつも見た
さよならの言葉はもう少しだけ待って欲しい

行く当てもなく
自転車で街のなかをかけ抜けて
真っ赤なつつじが
目に映っては消えて
離れていくのに
掴めないのに
それでもずっと
雲を追いかけ走り続けた

いっそのこと
頭を打って記憶喪失にでもなればいい
今年の春も 同じ日が続いて
君は僕の横で笑っていると信じていた
さえない秋と冬を返上して
新しい春をやり直せるなら
真っ赤なつつじが咲くころには
生まれたての僕で君に会いに行こう

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友人が恋に落ちた瞬間に立ち会ったことがあります。
その友人のことは好きでもなんでもなかったのですが、人ってこうやって恋に落ちるんだ!ほ~と思って、眺めていたので、とても印象に残っています。友人が彼女をみたときのスローモーションを、なぜか本人でもない私が察知してしまったんですよね。たぶん、私が、人と話すときにかなり相手の目をみながら話してしまうからだと思います。いや、好きな人を目にすると、人の目の瞳孔って本当に開くんですよね。そして彼の目線の照準がパシッと彼女に当てはまって止まったのを覚えています。横で話していて「えっ?」て思いましたもん。

その後しばらくして、友人から彼女と付き合うことになったという報告を受けたときに、その話をすると、かなり照れておられました。さすがに、私もそのときは確信にまでは至っていませんでした。ですが、あとで、あのときの、私の「えっ?」の瞬間が、まさに彼が恋に落ちた瞬間だったのだと考えると、感慨深かったです。なんてたって、自分の質量が秒速で0になりましたからね。おーーーい、私ここにいるよぉって感覚でしょうか。

忘れられない、爽やかな風吹きぬける5月の大学構内での出来事でした。






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