見出し画像

ラフシモンズが「カルバン・クライン」を統括するという実験のこと

2016年8月、「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」のチーフ・クリエイティブ・オフィサーにラフ・シモンズが就任した。就任後ロゴ刷新に着手し、全世界的なリブランディングを目指した。マスな(商業的な)ファッションブランドであるカルバン・クラインに独創性、先鋭性を持たせブランドイメージを変革するというのがシモンズのビジョンだっただろう。

しかし、志半ばで、シモンズはカルバン・クラインを去る。ブランドが、彼のビジョンとは異なる計画を示したことによるもののようだ。この退任に伴い、「カルバン・クライン」は、2019年2月のニューヨークでのコレクションをスキップする。

何故、シモンズがブランドを去ることになったのか。「カルバン・クライン」陣営の言葉から抜粋する。

「カルバン・クライン」擁するPVHのCEOはシモンズによるブランド刷新が「メーン顧客層にとってファッション的に先鋭的すぎ、価格帯も高すぎた」とし、「現在そうした間違いの修正に取り組んでいる。19年からは、『カルバン・クライン ジーンズ』でより商業的かつ顧客に合った製品を提供したい。今後はブランドのDNAを重視し、『カルバン・クライン』らしさを取り戻す。19年の春季で調整し、秋季には完全に再生させる」と述べている。シモンズによる「カルバン・クライン」は「CALVIN KLEIN 205W39NYC」という名を冠したコレクションラインはもちろんのこと「カルバン・クライン ジーンズ」と言ったマス向けラインも以前より高価格になり、アンディーウォーホルのプリントを載せるなどシモンズらしいアートコンシャスで、メインな顧客であるマス層から見るとアヴァンギャルドなラインナップとなっていた。

ラフシモンズによる「カルバン・クライン」

話は逸れるが、シモンズのライバルとして頻繁に挙げられるのが、現在「セリーヌ(CELINE)」デザイナーで過去に「サンローラン(SAINT LAURENT)」や「ディオール・オム(DIOR HOMME)」のデザイナーを歴任していたエディ・スリマン(Hedi Slimane)だ。多少の変化があるとはいえ、彼のデザインはコンパクトなジャケットにスキニーパンツ、ロックスターを思わせるようなアイテムが中心で「ディオール オム」の頃から良くも悪くもブレないのだ。彼の変わらないデザインは多くの非難を浴びる一方、熱狂的なファンが多く、"売れる"のだ。今回「セリーヌ」にスリマンが抜擢されたのも、売上高のほぼ倍に当たる年商20億ユーロ(約2600億円)を目指すためだ。

そして今回語るべきシモンズのビジネスだが、彼はあくまで"先鋭的"で"イメージ作り"の上手いデザイナーであり、ビジネスという側面で秀でた人物ではないのではないか。定かではないが、2010年頃、シモンズ自身のブランド「ラフ・シモンズ」も存続の危機に陥ったこともある。ましてや、これまで第一線で活躍するデザイナーが誰も経験してこなかったであろうマスに対するビジネスである。

※シグネチャーブランドや過去彼が携わったブランドのビジネスに関して仔細なデータを発見出来なかったので、数字を見つけ次第、追記したい。

そして、 シモンズがどのように"先鋭的"なのかというところに関しても加えておく。2018年ファッションにおけるビッグトレンドの1つとして"ダッドシューズ(DADSHOES)がある。その名の通り、父親が履いているような不格好な靴な。日本でいうならば、イオンに投げ売りされているスポルディングやダンロップのスニーカーを思い浮かべればよいだろう。昨年、一昨年などに火が付いたダッドシューズのブームだが、そのパイオニアともいえるラフシモンズとアディダスのコラボモデル、オズウィーゴ(OZWEEGO)は2013年リリースだ。

「ラフ・シモンズ」×「アディダス」のダッドシューズ、オズウィーゴ

また、エディ・スリマンの「ディオール オム」がデビューし、ロックスターの様なスキニーシルエットがトレンドになるより前の1995年のコレクションでは恐らくメンズのプレタポルテ史上初の極端にタイトなシルエットなコレクションを発表した。
画像は98年のSEX PISTOLSをモチーフにしたコレクション。

「ラフ・シモンズ」の1998スプリングコレクション

さらに、カニエ・ウエストやエイサップロッキーら海外のセレブリティが着用したこともあり、過去の「ラフシモンズ」のアイテムの価格が高騰している。今、世界で注目を集めるファッショニスタが「ラフシモンズ」のアーカイブを着用しているところを鑑みても「ラフシモンズ」は先駆的だったと言えるのではないだろうか。「ラフシモンズ」は過去のコレクションから"ユースカルチャー"に大きく傾倒しており、現代的な"カルチャー"の感覚とハマるの言わずもがな。だ。

ここで、「カルバン・クライン」の話に戻る。ここまでシモンズが如何に先鋭的で評価されるデザイナーかということを書いたが、彼はこれまでも業界ではかなりの評価を得ていたが、良く言えば時代を先取りし過ぎたデザインでマスには受け入れられてこなかった。

以下、SSENSEのシモンズによる「カルバン・クライン」のファーストコレクションレビューを一部抜粋する。
https://www.ssense.com/ja-jp/editorial/fashion-ja/raf-simons-young-americans
Calvin Kleinでやりにくいのは、マーケティングの面で、ファッション メーカーであるよりブランドのほうがはるかに重要だったことだ。Calvin Kleinと聞いて頭に浮かぶのはブルック・シールズ(Brooke Shields)、ブルース・ウェバー(Bruce Weber)のカメラを通してギリシャの神の化身となった下着姿のトム・ヒントナウス(Tom Hintnaus)、ケイト・モス(Kate Moss)とマーキー・マーク・ウォールバーグ (“Marky” Mark Wahlberg)。要するに、ホットパンツを履いたティーンエージャーだ。タブー的キャンペーンと、下着と、商業的なインパクトのない空疎なコレクションの足し算という定式は、シモンズの野望と一致しない。何と言っても、Christian Diorで仕事をしたシモンズだ。議論の余地はあるにせよ、ファッションから独創性と商業の関連が失われて久しいが、その復活の必要性を、いかにして社内と社外の人間に納得させるか。明らかに、これがシモンズの課題だろう。

とある。ファーストコレクションの際に書かれた、上記の文章に タブー的キャンペーンと、下着と、商業的なインパクトのない空疎なコレクションの足し算という定式は、シモンズの野望と一致しない。とあるが、結果、退任までの間にシモンズが「カルバン・クライン」のイメージを覆すことは出来なかったのだ。改めてマスとファッションデザインの距離の遠さを感じさせる出来事だった。しかし、モードの世界に「カルバン・クライン」の名前が刻まれたのはファッションの世界にとって大きな一歩なのかもしれない。また、このマスマーケットど真ん中ブランドの統括を最も評価されているファッションデザイナーの1人、ラフシモンズが手がけるという大きな実験は、今後ファッションの世界で大きな意味を持っていくだろう。

#ファッション #fashion #ラフシモンズ #rafsimons #カルバンクライン #calvinklein #コラム #ファッションビジネス #デザイン

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

8

Mabhi

25歳。ファッション、旅、音楽、デジタルあたりに関心がある人の雑記です。ファッションに関わる仕事をしています。ファッションの未来に興味があります。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。