ゆっくりゆっくり

パン屋さんで買ったピーナッツバターを、食パンに塗って食べたくて、山切の三枚入りの食パンを買った。つい30分くらい前の出来事。

普段は山切なんて買わないし、ましてや三枚入りなんて、コスパが悪いと思って買わない。でも近所のドラッグストアで30%引のシールが貼っていたから買った。うん、いい買い物。勝手に得意げになる。

帰宅。

手洗いうがい。トースターにパンを入れる。

いつも焦がして、あーあ、って思いながら食べるから、絶対焦がしたくないから、きっかり2分。

2分間待つのがもったいないから、その間にできることをする。コートとマフラーを脱いで、荷物を片付ける。よし、時間節約。ノルマ達成。

…チン!

トースターから食パンを取り出す。

あれっ、裏面、焼けてない。しまった、片面の設定で焼いてしまった。確認すりゃよかった。

仕方がないからもう一度。トースターの中に戻す。今度は1分くらいでちょうどいいかなあ。

焼いている最中、今度はすることがなくて、きつねに色づいていく山切りのパンを眺めていた。

早く食べたいという私の意に反して、トースターはゆっくり、ゆっくり、タイマーを進める。

ぼー

永遠に長く感じる時間だった。わたしがただ存在すると、時間ってこんなに長く感じるのかな。

なんか、安心した。

その瞬間が愛おしかった。片面しか焼けていないパンが、ありえないほどゆっくり動くトースターのタイマーが、トースターの中のオレンジに染まったあたたかい空気が、愛おしかった。

…チン!

ああ、やっときた。

トースターからパンを取り出す。

冷蔵庫からピーナッツバターを取り出す。蓋を開け、スプーンですくおうとする。あちゃ、冷やしてたから硬い。すくうというより、削らないと取れない。

削ってパンに乗せる。カリッふわっなパンを潰さないように、ピーナッツバターを広げる。んんん、うまく広げられない。固体のピーナッツバターはやわらかく広がってくれず、パンの上をコロコロと転がる。

カリッカリッ、スプーンでパンの表面を無意味に撫でる音。

なかなか、広がらない。私の思い通りにいかない。焦らされる。


なんか、安心した。

そのゆっくりさが、愛おしかった。




ちなみにピーナッツバタートーストはとても美味しかったです。今度はバナナでも乗せてみようかな。


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