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保険言葉


僕はここ何年かで発信、発言の様子が大きく変化したと感じている。
特に「これは個人の感想なんだけど」「個人的には」という前置きをする人が増えてきている(と僕は思っている)

その前置きをしなければ「一般論みたいに言うな」とか「それはおまえが思ってるだけだろ」とか注意をしてきたり、言われないまでも そう思われるかもしれない。
前置きはそういった事象を回避するための保険なんだろうな。

「多様性」という言葉が浸透してきて、そのような保険言葉が増えてきているように感じる。

誰かを傷つける意図がなく発言したことが誰かを傷つけたとき、その意図がないことを 傷ついた前後 どちらのタイミングで表明していたかで、傷ついた人の受け取り方も変わるだろう。
前 で表明していたほうが配慮があったように見えるし、後 で表明すれば言い訳に見える。

だったら自分が「これで傷つく人なんていないだろ」と思っていても、とりあえず保険言葉を事前に付けていたほうがいいだろう。

と思っていた。
と思っていたのだけど、

「それだとおれはコミュニケーションを楽しめそうにないや!」
と思ってしまった。
保険言葉に飽きてしまったのだ。


僕は小学生のころ、だれかを呼ぶときに「おまえ」という言葉を使っていた。
そのまま過ごしていたら、ある日クラスメイトの女子が泣きながら、「おまえって言われたくない…」と言われた。日常的に「おまえ」を使っていて、そんな反応をされたことがなかったので、最初は意味がわからなかった。

話を聞いてみると『「おまえ」と言う言葉は怒るひとが使う言葉なので、嫌な気分になる』みたいなことだった。そんな思考は僕の中になかったので衝撃を受けた。

それ以降「おまえ」と口にしないように気を付けてはいるが、やはりたまに出てきてしまうことがある。

以前「"おまえ"を親しみの表現としている人とは距離を置く。おまえって呼ばれるのが嫌じゃないひともいるけどそっちのほうが少数だしね。」(意訳)というような意見を見た。
その意見を持ったひとをAさんとする。

このAさんの意見をみたことは僕が 保険言葉 に飽きる(数十個あるうちの)ひとつのキッカケになっている。

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おれが育った環境は「おまえ」を(親、男女、先生に限らず)日常的に使う環境だったから「嫌じゃない人のほうが多い」と感じているし、その中にも親しみの表現と捉えて使っていた人もいると思う。

ただおれは「おまえ」を親しみの表現とは思ってないし、
「きみ」「あなた」「おまえ」で横並びだと考えている。

と思ったけど
「じゃあなんで使い分けるの?」と聞かれたら「きみ」「あなた」は かしこまった感じすぎるし、名前で呼ぶのもなんか恥ずかしいし、「おまえ」が いい距離感だよなぁ。
ってことはおれは 親しみの表現 で使ってるのかも。

そうなると おれはAさんに距離を置かれちゃうのか?
おれの口からたまに出る「おまえ」は許容してくれるかな?

でも許容をしてくれるかわからないし、たまに の一回かどうかなんてAさんからしたらわからないし…
だったら念の為に「おまえ」って言わないセキュリティをより強固にしよう。さらに念の為に「おまえってたまに出ちゃうけど気を付けてるから許して」って事前に言っておこうか…?

ん?でもそこまで配慮して「おまえ」という言葉を極端に使わないようになったら「親しみの表現」として使ってるひとに対して、距離を詰めにくくなるんじゃないか?あれ??

そもそもAさんは「おまえ」と呼んできた人がそれを「親しみの表現」として使っているのかそうでないのかどうやって確認するんだ?

というかAさんが「おまえって呼ばれるのが嫌じゃないひとが少数な環境」にいたのであって「おまえって呼ばれるのが嫌じゃないひとが多数な環境」にいた(と思っている)ひとに対しての配慮は無くないか?そんなこともないか…?わからん。だっておれはAさんじゃないからな。

Aさんはどう考えてるんだろ??
気になるなぁ。
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例えばここで僕は「Aさんと接するときには「おまえ」呼びをしなようにより一層気を付ける」という保険をかけることもできる。
でもそれだと「なんでそう呼ばれるのが嫌なのか」「どのようにしてその考え方に至ったのか」までたどり着けなくなる予感がする。

僕は自分の中にない思考に触れるのが好きなので、保険言葉を使うことでそれに触れる機会が激減するんじゃないかと思うようになった。
それに触れられないコミュニケーションは僕としては楽しくない。

保険言葉を使えば、無意識に傷つける可能性は低くなるし、会話も無難に進んでいくだろう。でもそれは使いすぎれば他人の思考に触れる機会を逃すことになるんじゃないかと思った。

もちろん自分の楽しみのために人を傷つけていいとは思っていない。
だけど結局は自分のために生きているので、未来に出会うかもしれない 傷つくかもしれない そんな二重かもしれない人をよけるために自分を抑え込みすぎるのもよくない。
よくない というか したくない。

だからすぐに保険言葉に逃げない。「とりあえず」で使わない。

「傷つきそうだから」という予想じゃなくて「この人はこういう理由で傷つくから」という理解をしたうえで使っていきたい。

そうじゃないと僕が楽しくないから!!!!

(と、これを書いている今の僕は思っている。)