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四谷シモン「人形とパステル画」展 小レビュー 再掲

 Galerie LIBRAIRIE6 の展覧会へ。ひと目みて四谷シモンのものと分かる人形が、会場の壁一枚につき一体設置され、それを連ねる数珠のように粒揃のパステル画が掛けられている。この二年を中心に描かれたという柔らかな筆触の人物画は、一見、この人形たちと顔立が異なることから作風の変化を感じさせるかもしれない。

 だが、その瞳をみよ。星のような瞳をもった人形たちあるいはパステル画の少年少女らと対峙したとき、その焦点は彼等の前方あるいは後方へとどこまでも遠のいていることに気づく。それは観る者をけして見返さない。観る者の投影を反映して表情を変えてしまうこともない。

 四谷は「自己表現」をしない作り手である。それゆえに、その人形にはいっさいの歪みがない。それは人を癒す人形ではない。だからこそ救いなのだ。すぐれた芸術は、しばしば私たちを遠くへ連れて行ってくれる。修道者を天へと導く天使のように。

 四谷の人形もパステル画も、まるで宇宙のようにちっぽけな「私」の瑣末な考え事をどこまでもその瞳の奥へ吸い込み彼方へやってしまう。彼らは私たちに反応しない。ただ小宇宙としての身体によって見透す。だから、彼らを眺めているとどこか恐怖を感じながらも穏やかな空っぽの境地へゆける気がする。


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