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小さな美味しい宝石

シャカシャカと手首のスナップを効かせて、お茶を点てる。
最後に気泡をなるべく消して、滑らかな口当たりになるように仕上げた。

「結構なお点前で…」と、少し痺れてきた足元を気にしながら3回に分けて飲み干す。

今日のお菓子はわたしの大好きな練り切りだった。
高校3年間茶道部(裏千家)に所属した1番の理由は「学校で堂々と和菓子を食べれるから」だった。
とっても学生らしい理由だと自負している。てへぺろ(死語)


夏休みは学校でなく、茶室に近しい施設で練習をした。
毎回外部の顧問の先生が持参するたくさんのお茶碗、掛け軸の知識を勉強していたが、今ではすっかり忘れてしまった。

でも、茶室と「宇宙」が繋がっているという話をよく聞いた。

学生のわたしにとっては、難しい精神論をなかなか理解できなかったが、茶道とはの精神であり、「無」であるという話を耳がタコになるまで聞かされた。誰しも茶室の中では平等であり、精神を鎮め、集中する。お茶を点てる一連の流れの中に、ここにいる全員の意識を1点に集め、静かに己と向き合う。向き合ううちに、わたしとわたしじゃない何かが溶け合って、いつしか"わたし"の境界線が曖昧になる。わたしが人間なのか、そうじゃない別の何かなのか。物質と精神とが乖離して…やがて、水の音だけが響いてくる。この音だけが聞こえてきたら、それが無我の境地への入り口だ…


しかし、おっと!なんということでしょう。今日はわたしの大好物の練り切りが目の前に出された。真っ白でプリッとした丸みを帯びたベースに、鮮やかなピンク色の花びらの模様が描かれている。なんて美しいのでしょうか。天辺には黄緑色の葉っぱのようなものがそっと添えられている。いいぞ、ここでグリーンの反対色が映えること!これぞ、芸術作品。これぞ、和菓子の殿様!中はこしあん。滑らかな切れ心地ち、極上の口当たり。あ!あと一口で目の前の芸術作品とのお別れだ!口惜しい、口寂しい。あぁ〜〜!


っていう心の叫びが、常に茶室をこだましている。
シャカシャカと点てるお茶波はいつだって荒れ模様だ。

ここは宇宙なんかじゃない。天国だっ!


こうしてわたしの集中力は目の前の和菓子によって、儚く打ち砕かれる日々であった。







高校時代の文化祭でのお点前の様子🍵

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