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写真家はペテン師 !?

 
 今日は朝からずっとタレントさんのレタッチ作業の日だった。PCの前でにらめっこ。作業を黙々としていた時に、ふと昔のことを思い出した。

♢♢♢

 わたしは駆け出しの頃に「芸能人の方にお会いできるお仕事したい」と思っていた。単純にミーハーだからだった。願いが叶って早いタイミングからタレントさん、女優さん、役者さん、著名な文化人の方などたくさんの方にお会いする機会に出会えた。

 撮影前日はドキドキして寝付けなかったり、スタジオの見取り図やラフに何度も目を通してイメトレを行う。

 当日早めに現場入りし、担当と綿密な打ち合わせ、ロケハン、撮影順の段取りの確認、撮影準備を行う。

 いよいよお会いして本番スタート。

「は、はじめまして。撮影担当する〇〇です。よろしくお願いいたします。」どもりながらも、なんとか挨拶できた。目がチカチカして、喉が乾くし、だんだん話た瞬間から記憶もなくなっていくようなふわふわした感覚の中で撮影をしていた。初めてのタレントさん撮影の現場は今でもリアルに思い出す。

 撮影中は現場を仕切り、撮影シーンが変われば、場面転換の指示出しをする。現場監督として限られた時間の中で、必ず結果を出さなければならない。「芸能人に会えた!」という喜びは一旦封印して、現場を回していく。的確に、丁寧に。


 そして、とうとう初めてのタレントさん撮影が終わった。夢のような時間だった…汗だくで、一番最初にまずは思いっきり水を飲んだ。2杯くらいおかわりした。プハー!って息をして、やっとちゃんと遠くでヘアメイクを直しているタレントさんの後ろ姿を見て、(やったー!〇〇さんに会えた!)と小さくガッツポーズをした。クライアントさんも褒めてくれたし、もう今日1日最高な日だ。

 夢見心地で帰宅して、撮影した写真を振り返る。
 どの写真もわたしにとって大事な大事な宝物だ。
 撮影をすると、その人のことがもっと知りたくなったり、もっと好きになってしまう。恋多き写真家かもしれない…


♢♢♢


 そんな中、とある飲み会に参加した。
様々な異業種交流会のような場は営業の場でもあり、いい仲間との出会いの場でもあり、駆け出しの頃は頻繁によく行っていた。
 
いろんな人と名刺交換をしていた中で、最近は交わさない会話だけど、カメラ業界がデジタルに移行してしばしの間は、こんなやりとりをすることが多かった。

「初めまして、フォトグラファーの〇〇です。」
「あ、写真やってるんですね。始めてどれくらいですか?」
「まだ1年目で…毎日勉強の日々です!」
「へぇ!どんな写真撮るんですか?」
「人物が多いですね、最近タレントさんなど芸能の方を撮ることが増えました。」
「え!タレントさん?なんか話に聞くと、すごいデータ加工?っていうんですか?いじるんですよね?」
「え?いじる?」
「顔を変えるというか…」
「キレイに整える作業を行っています」
「あぁやっぱり!」


わたしは、何だかモヤモヤしていた。
でもその時、うまくその人に伝えられなかった。

「いじる」

確かにそうかもしれない。でも、本質は違うと思っている。


 芸能人にとっては、その方のことを大切に思っているたくさんのファンの人がその写真を見た時に、やっぱり「素敵な人だなぁ」って紙面の前でうっとりして欲しいと思う。大事な宝物の1つになってもらえたら嬉しい。その方の背後には何十万、何百万もの人々が心待ちにしているんだと思うと、もっとステキになるようにと全力を尽くしたいと思う。

 また芸能の方だけでなく、記憶に残っているエピソードがある。
 過去にアトピーを気にされている方がちょうど撮影の当日に調子が悪く、肌に現れてしまった時があった。撮影中、鏡を見てとても気にしていた様子が忘れられなかった。
 その撮影の後に、事前にキレイな肌の調子に自然に見えるように作業をして納品した。せっかく全国紙に掲載されるし、その人にとっては大事な思い出としてずっと残るものになるかもしれない。すると、担当編集の方から後日お礼があった。取材先の方が紙面を見て安心して喜んでいたとこっそり教えてくれた。
 これは、人だけではなく様々な撮影する対象全てに言えると思っている。空間の狭さを悩んでいるお店の見せ方を違う魅せ方で提案したり、モノの魅力に沿った価値を上げる手伝いをする。都合よく受け手に届けるために嘘をつくのではないし、その人やモノそのものを変えたいのではない。
 悩みを解決したり、魅力を引き出す身近な魔法使いでありたいと、わたしは思う。

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