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一目惚れのあの子に会いに

 動物園へは人生で3回行く、と言われています。

1回目は子供の頃の遠足で、
2回目は自分の子供と一緒に
3回目は孫と一緒に

 なぜ動物園に行くのか、どこに惹かれるのか?とよく聞かれるようになりました。なので、改めてわたしの気持ちを書いてみようと思います。


上野動物園で出会った

 独立して、1年目の頃。
お仕事でちょうど上野駅を降り、合間に時間があったのでふらりと上野動物園を訪れました。パンフレット片手に、たくさんの木々に囲まれた道を進み、小鳥がさえずる気持ちの良い春の午後。
 久々の動物園はとても静かでした。パンダがいる今では考えられないですが、当時の平日はとても空いていて、ちょっと寂しかった記憶があります。

 ゾウのエリアを進み、マレーグマ、ヒグマを見て … 午後のせいか、みんな隅の方にいたり、ぐっすりお尻を向けて寝ていました。「やっぱり顔が見えないな」「動物園の動物はみんな寝てばかりだなぁ〜」と、少し退屈にぼんやりとそんな感想を抱いていました。
 顔が見えないし寝ている … そして、檻に入れられてしまっている。動物園のイメージはわたしにとってネガティブな印象しかありませんでした。かわいそうだとか、ストレスなのかなとか、野生で暮らしている方がもっとずっと自由で幸せだろうという苦い気持ちの方がこの頃は大きかったのです。


 そして、さらにお隣に進んでいくとホッキョクグマのエリアに到着。
ふと見上げると、何やらホッキョクグマが直立していました。

 なんか2本足で立ってるんですけど!か、かわいいじゃないか… !

 さっきまでは動物園を憂いていたのに、この出会いが全てを変えてしまいました。わかりやすくわたしの瞳の中にハートマークが飛び出てきたのです。動物への興味が湧き出て、周囲に情報がないか探し始めました。
 看板はどこ?この子は誰だろう?柵の周囲をつたっていくと、看板発見。

種類 : ホッキョクグマ ( シロクマ )
性別 : オス
名前 : ユキオ
生まれた場所 : ドイツのミュンスター動物園

ふむふむ、名をユキオくんというのか〜ドイツで生まれて日本に来たのね。さらに情報を読んでいくと…

誕生日 : 1987年12月8日

え!12月8日!?一緒ですやん!!

 別に関西生まれじゃないのに、うっかり関西弁が飛び出てしまうくらい誕生日が一緒というだけで、もうこのホッキョクグマとマブダチくらいに思うわたしはなんて単純なんでしょうか。

 こうして一目惚れしたこの日から、ウキウキと動物園通いがスタートするのです。


興味関心が湧いたことで

 最初は単純に「ユキオくんがかわいいから」というとてもシンプルな理由で動物園に通っていました。でも動物園に来ても、動物が隅にいて見えないことや、寝てばかりの動物たちへの興味が急に変わったわけではありませんでした。
 しかし、何度か通ううちに動物がいつごはんを食べるのか、いつ活発に動き出すのか、いつ寝る時間なのか…少しずつ動物ごとのデータ情報が蓄積されていきました。そのうち、それぞれの個体のキャラクターなどが理解できるようになり、ますます愛おしい存在が増えていったのです。

 動物たちそれぞれへの興味関心が湧いたことで、1つまた1つと動物園へ抱いていたネガティブな感情が消えていきました。それは何も難しいことをしたのではなく、「正しく相手 / 物事を理解する」ということをしたからだと思うのです。「動物園が誕生した理由」「動物園の本当の役割」など少しずつ調べたり、自然と園内で目についた活動報告などの看板や配布物から知るようになりました。
 わたしは今まで動物園のことを知ろうともせずに、心の中で批判していたのだと気付いたのです。きっと動物園に限らず、わたしはパッと見た表面だけで物事を何気なく判断してしまっていたのだと振り返ると、それはとても恥ずかしいことだと気付きました。
 

大学の授業で

 わたしは立教大学の学生時代、確か1年生の頃に「レイチェル・カーソン」について学ぶ授業がありました。彼女は生物学者で「沈黙の春」という史上初の環境問題を提議した本の著者でもあります。彼女の書籍の1つに、「センス・オブ・ワンダー」という本があります。わたしの人生の指針として、それ以来とても大切な本の1つになりました。要約すると子ども達へ自然の神秘や、不思議さに触れることの大切さを書いたものです。わたしはしばらくこの本のことを忘れていたのですが、上野動物園へ通ってしばらくして、本棚の中にあるのを思い出しました。

 そういえば、子どもの頃にこんなことをいつも考えていました。

 なんのために生まれてきたのだろう。
 なんでお月様はいつも後を追いかけてくるのだろう。
 海はどこからやってきたのかな。
 アリはなんでいつも行列を作るのだろう…

  気付けば毎日忙しく時間に追われ、とても強い刺激に囲まれた生活をしています。仕事上それは仕方がないことですし、望んでいることでもあります。ただ社会のルールに沿っていくと、時にそれが苦痛に感じることもありました。
 でも動物園に行けば、心身ともに自由で、心の中で見て触れて感じることができ、大きく深呼吸をして何ものにも捕われることのない時間を過ごすことができます。ここに来ればとてもシンプルで、1番大切なことを思い出すことができる…わたしがわたしでいられる居場所。
 それは言葉にできず、目に見えなくて、とても温かいもの…わたしたちが生きてやがて死んでいくこと、この世界の美しさや喜び、説明できない不思議な出来事や大自然の神秘の力。

 わたしはずっと動物園に通う理由として一番しっくりくる言葉を、ずっと探していたのだと思います。ただただかわいい推しメンに会いに行くという直球ストレートな理由ももちろんありますが、いくつもの理由のレイヤーを通しても、一番の根幹はここに尽きるのです。

センス・オブ・ワンダー

 わたしはそれを動物園へ何度も何度もこの感性を取り戻しに通い続けているのだと思います。人によって、そうした場所は様々だと思いますが、たまたまわたしにとって、それが動物園だったのです。

 だから、わたしは今日も動物園へ行くのです。


♢♢♢

 写真はまだ改修工事前の上野動物園のホッキョクグマのユキオくんです。彼は残念ながら、2014年11月25日に亡くなりました。今日は七夕。別れてしばらく経ちますが、ついつい雨空の夜空を見上げて思い出してしまいました。

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