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母に渡した「写ルンです」

12月24日。
わたしと旦那さんは式を挙げた。

場所は、大國魂神社。
地元の由緒ある古い神社で、くらやみ祭りや結婚式でお囃子のおかめを踊ってきて馴染み深かった。


その年の神社での結婚式営業日の最終日、そして最終組だった。

いざとなると、とても緊張したわたしだが、隣を見るといつも通りの旦那さんの姿があった。微笑みかけてくれる度に安心した。

ヘアメイクに入ったのは13時頃。
そろそろ親族たちが控え室に集まる前に、母に使い捨てカメラを手渡した。
27枚撮りの写ルンです。

「今日は基本フラッシュで撮れば大丈夫」と付け加える。

15時頃、式がスタートする。
12月の夕方に撮る写真は暗くなるということはわかっていた。



化粧をしてもらい、白無垢姿のわたしが生まれた。いつもと違う雰囲気の自分がなんだかこそばゆい。

お腹の真ん中に自然と力が入る。

そうか、これが結婚か。


なんだか他人事みたいに距離をとる。わたしの悪い癖だ。今まで憧れていたのに、いざとなると扉を閉ざしてしまう癖。
恥ずかしさなのだろうか。それとも、冷静さを失わないようにわざとブレーキをかけているのだろうか。多分、泣き虫のわたしを本当は誰にも見せたくないからかもしれない。泣くとしばらく止まらないし、疲れて眠ってしまいたくなるからだ。まるで子どもみたいだけど、大人になった今もそうなのだから、仕方がない。
だから、感動の演出などは一切なくして、始終楽しい宴会になるような披露宴にした。もともと親族だけの集まりだから、たくさん泣いたっていいのだろうけど、幼い頃から育ってきた従兄弟たちにからかわれるのはわかっていた。絶対に泣きたくない。
ミッションを掲げ、再びお腹の真ん中に力が入った。


旦那さんと合流すると、お互いの新鮮な姿に興味津々で覗き込む。
「七五三みたいだよね」と笑う。



一方、その頃控え室の様子はどうだったのだろう?

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あれ?
これは誰が撮ったんだろう?
母が写ってる。

フラッシュ!
室内ではフラッシュをご活用ください。
そうしないと、こうなる運命なのです。
でも、なんだかそんな写真もいい。



そして、控え室にいる親族たちの前へいよいよお披露目だ。
中央の2つの椅子へ移動する。

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座った途端に、親族たちからのフラッシュの数々。
あぁ、恥ずかしい。
「あ、恥ずかしくて変顔しちゃったかも。もう1枚撮って」と告げる。
とりあえず、全力のピースをする。
旦那さんの笑顔が一段といい。


大國魂神社は一同揃って、真ん中の道から神殿に入る。
通行客から「おめでとう」と歓声を浴びる。
心の奥が浮ついたので、旦那さんの方を見て爪先立ちの気持ちを沈めた。

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神殿に入ると、神聖な空気が身体中の細胞たちの元へ入り込んできた。全身がやっと目を覚ますような感覚だった。

神様、しゃんとします。今日から。



段取りを間違えて、巫女さんに直された箇所もあったが、無事に式が終わった。
外を出ると、いよいよ暗くなってきた。

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撮影タイムがやってきた。
寒さ厳しいはずが、全神経が突如としてストライキを起こしたのか、感覚がない。親族たちから再びフラッシュの嵐にあう。

「縦位置も撮っといて」と、わたし。
「タテイチって何?」と、母。


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次は、披露宴。
会場に移動すると、寒いとか、お腹が苦しい、でもお腹減ったなどの感覚が戻ってきた。神様から離れた途端、怠惰なわたしも復活したのだ。


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挨拶と乾杯の音頭。
賑やかなお食事の時間。

赤ら顔で笑うみんな。


すぐ泣くので感動を呼ぶ演出は控えたけれど、披露宴といったらコレだという定番の行事はやることにした。どれも美味しい食事に繋がるもの、そして記念写真の抑えどころの用意は、職業/写真家としては逃せまい。

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鯛の塩釜を割ってウキウキ中の素のわたしが写っていた。

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「どれくらいなら一口でいける?」と旦那さんと悩むわたし。
パクリと頬張るファーストバイト。
これは、うまい。

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披露宴の終盤はもう子どもたちの時間だった。
あちこちで遊びまわり、興味津々に歩き回る。

母から、「フィルム終わっちゃったよ」と告げられる。
最後の挨拶に向かう締めのシーンは撮れなかった。

宴もたけなわ。

涙なしのお腹いっぱいで幕を閉じた。





現像した写真が後日届いた。

母の写真はどれもとてもよかった。
あの日、あの瞬間に戻れる写真だった。
絶妙な距離感と余白のキリトリセン。
母にしか写せなかった。母だから写せた。
最高、という言葉しかない。遅れて涙がやってきた。温かくて、そしてしょっぱい。



結婚式の朝。
母に写ルンですを1つ渡してみるのはどうだろう?
間違いなくその日専属のプロの写真家に早変わりしてくれるはず。




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