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視線で文字入力~「アクセシビリティの祭典」所感_その3

2018年5月17日に神戸で開催された「アクセシビリティの祭典」では、ALS:筋萎縮性側索硬化症により身体障害がある三保氏が登壇し、視線入力装置を使って我々の目の前でプレゼンテーションしてくださいました。

ALSは筋萎縮性側索硬化症といい、脳や末梢神経からの命令を筋肉に伝える運動ニューロン(運動神経細胞)が侵される病気だ。難病指定されており、現在、日本に約8,300人前後の患者さんがいると考えられている。

かなり前の話だが、私の前勤務先の取引先でお世話になったかたが働き盛りの40代でALSを発症したこともあり、決して他人事には思えない。

また小山宙哉氏の漫画『宇宙兄弟』でもふたりの登場人物がALSとして取り上げられている。2017年5月、この漫画から治療の研究開発費を集め支援する「せりか基金」が誕生した。

今回の「アクセシビリティの祭典」に登壇された歯科医の三保氏は、2011年の夏にALSを発症されたとのこと。三保氏はコミュニケーションをとるために視線入力装置を使っている。
なお三保氏は、ALSを発症されるまではモトクロスをしたり、学生時代もスポーツに勤しむなど、かなりアクティブに過ごされていた。

視線入力装置とは

突然だが、今フジテレビ系でディーン・フジオカさん主演のドラマ『モンテ・クリスト伯 -華麗なる復讐-』(木曜夜10時~)が放映されているがご覧になったことはあるだろうか。
第4回で伊武雅刀さんが演じる老いた父親が、視線入力装置でメッセージを伝えるシーンが出てきた。

脳梗塞を患い身体には障害があるものの、強い父でもある伊武さん演じる"入間"は視線入力システムで家族にメッセージを伝えていた。

また、私は見逃してしまったのだが、5月22日に放送されたテレビ東京系列「ガイアの夜明け」もう一つの働き方改革で"寝たきり社長"佐藤仙務さんが視線入力装置を使っているシーンがあったとのこと。(再放送はBSジャパンで来週6月1日(金)18時から)

視線入力システムは利用者の瞳孔の動きを赤外線を使って捉えている。

アイトラッキング(視線計測)は、人々が「どこを・どのように・いつ見るか」を教えてくれる技術です。

Tobiiのアイトラッキングは、角膜反射法という測定法に基づいたものです。角膜に近赤外線を照射し、眼球の動きを映像解析することにより、人が「どこを・どのように」見たのかがわかるのです。

-トビ―製品のウェブサイト「アイトラッキングとは」より

2013年の秋から視線入力システムを導入している三保氏は現在、視線入力装置トビーを使っておられる。トビー製品はスウェーデンのもので、アイトラッキング世界シェアNo1。日本語に対応しているのが強みで、日本での視線入力装置は殆どがこのトビー製品だ
日本販社もあるが、三保氏は直接海外のトビーを使用している。

視線入力装置(マイトビー/Mini/Plus)

実際に登壇時に目の前で入力し、我々に話を聞かせてくれた。余談だが入力、そして発話はこれまで考えていたよりスムーズ。視線入力システムの存在は知っていたが、目の前で実際に使っているのを見るのは私自身初めての体験であった。

視線入力システムのお値段

トビー製品の値幅はピンキリで、マイトビーというハイエンド製品は139万円。

またパソコンに取り付けるような視線単体タイプの装置だと19万8000円程。

かなりシステムに詳しい人であれば、開発キットの4Cという製品で組むと3万円程度でいける。三保氏は4Cを使っているそうだ。(注: 福祉機器は性質上、当人の症状にもよるのでどれが一番使いやすいかご本人に合わせるのが一番肝要)

身体的な制限をテクノロジーが補う

139万円となれば車1台買える値段だし、19万8000円程だとパソコンの良いものが買える。ただ値段より以前に、体の動きの制限がある中で周囲とのコミュニケーションをとる手立てとして考えると、必要なツールだろう。

なお冒頭三保氏は歯科医と書いたが、ALS発症により施術はしていないけれどもお仕事はされている。

テクノロジーが身体的制約を補い、更に生きる意欲を後押しする好例ではなかろうか。先のドラマなどのように視線入力システムが認知されること。そして普及し、より安価でかつ使いやすくなること。それで会話を楽しむことができるようになれば、患者さんもその周囲の人にとっても力添えになるだろう。

なお当日の動画とセッションの資料は以下でみることができる。

当日の動画

FRESH! 

セッションの資料

参考
ALS: 筋萎縮性側索硬化症ってどんな病気?
『宇宙兄弟』から始まるALS完治への挑戦「幸せな未来を漫画の中に勝手に描いていいのか」作者と編集者の葛藤から生まれた現実への一手
ローコスト視線入力デバイス『Tobii Eye Tracker 4C』は重度障害者の福音となるか?(DIME 2017.10.06)

(了)

ヘッダー写真 撮影地 ニュージーランド 北島 ©moya


最後までご覧いただきありがとうございます! 現在放送大学でPDFのアクセシビリティを卒業研究中。noteはそのメモを兼ねてます。ヘッダー写真はnzで私が撮影しました。 【ご寄付のお願い】有料noteの売上やサポートはnzクライストチャーチ地震の復興支援に使わせて頂いております。