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イギリス旅行記⑤

さて、今日はパディントン駅まで出てから、列車でコッツウォルズへと向かう。幸いにして天気もいい。
パディントン駅には早めに着いたつもりだったが、コーヒーを買ったりお手洗いに寄ったりしていたら結構ギリギリになってしまった。
自分が乗る列車がどのプラットフォームから出るのかは直前にならないと分からないので(発車時刻が近づくと駅の電光掲示板に表示される)、不測の事態に備えるためにも早めに駅に行くことをおすすめする。具体的には発車時刻の30分前くらいには着いていたいね。

車窓から。湿地帯のようになっているところも多い。『思い出のマーニー』感があるね

列車はぐんぐんとロンドンを離れていく。車窓から見える風景が美しい。
しかし写真を撮ってみると、窓の汚れやら沿線に植えられた謎の枯れ木やらで大して綺麗に見えないのだ。
こういう風景は、自分の目で見るから綺麗に見えるのだろう。脳が勝手に邪魔なものを無視して綺麗な部分だけを見てくれるから、美しく映るのだ。

とにかく一時間半ほど列車に揺られて、モートン・イン・マーシュに到着である。
そこからトランクを引いてホテルに行く。

全体的な色味、テキスタイルなどが統一されている

部屋が広い上に、統一感があってとても洒落ている。
ロンドンの安宿との落差がすごいな。まあ、あっちの宿も見栄えは良かったんだけどね。

シナモンと蜂蜜のポリッジ。カボチャの種も入っている

モートン・イン・マーシュで昼食(コーヒー、シナモンと蜂蜜のポリッジ)を摂り、ホテルに荷物を置いてストウ・オン・ザ・ウォルドに出かける。
ポリッジ、馬の飼料よろしくクッソまずいことを覚悟していたが、全然美味しかった。やっぱり夏目漱石の時代とは違うんだなぁ。

モートン・イン・マーシュからストウ・オン・ザ・ウォルドは、バス801号線で10分から15分ほどの距離にある。近いね。が、いかんせんバスの本数自体がめちゃくちゃ少ないので、しっかりと発車時刻を確認しておくことをおすすめする。
コッツウォルズの移動には、車があると便利なんだろうね。運転のできる人は国際免許にしておいて、どこかでレンタカーを借りるといいのかもしれない。私はペーパードライバーなので、大人しくバスに乗りました。

ストウ・オン・ザ・ウォルド、アンティークショップがめっちゃ多い。ヴンダーカンマーみたいなショップもあれば、どう見ても汚部屋みたいなショップもある。
こういう店で売られている古い家具とか素敵だけど、日本の自宅に持ち込んだら掃き溜めに鶴的な感じで浮くんだろうね。絶対現代の家電とかと調和が取れないもんなぁ。
ショップの棚に中二心をくすぐるかっこいい古い銃があって、思わず衝動買いしそうになったが、値段が日本円にして20万円近かったので思いとどまりました。

モートン・イン・マーシュに帰ってきてから、トールキンゆかりのパブに駆け込む。というのも、モートン・イン・マーシュ行きのバスを待っているうちに、腹痛になってしまったからだ。
なんとか用を足してから、サーモンとケッパーとか、野菜の乗ったピッツァとか、軽そうな料理を注文する。

それから「せっかくイギリスに来たのだし、エールでも飲むか」と注文を試みるが、なかなか上手くいかなかった。
まず、パブにはドリンクメニューがない。「ドリンクメニューは?」と聞いたら「メニューはない。そこの棚にある酒が頼めるよ」と返ってくる。棚にある酒……全くもって酒に詳しくないため、何を頼めばいいのか見当もつかず途方に暮れる。
私の英語力と酒知識ではカクテルなんか到底頼めそうにないため、とりあえず当初の予定通りエールでお茶を濁そうとする。

「エールをお願いします」「どのエール?」「……」
もうダメだ。「どのエール?」と言われても、色んな意味で言葉が出てこない。

「何かおすすめとかありますか?」
"What is your recommendation?"みたいなことを言いたかったのだが、多分店員さんには「ヨッ、レコメン……⤵︎」としか聞こえていなかったことだろう。

「?」
案の定伝わっていない。「翻訳アプリを使おうか」とも思ったが、電波が弱いせいかなかなか開けない。こういうアプリって便利だけど、肝心なときに使えなかったりするんだよな……

その後なんとかかんとか「おすすめは?」と聞くことができたが、返ってきた答えは「僕は飲まないから分からない」であった。ウワーーッッ!!(絶望)
しかしどうにかエールを頼むことに成功したので、まあ良しとしよう……


さらに翌日。やはりイギリスは今日も雨だ。体感だと7割方雨、3割晴れくらいの印象。
今日はバスを乗り継いでバイブリーとボートン・オン・ザ・ウォーターに行く予定である。

ちなみにホテルの朝食も美味しかった。特にシリアルにヨーグルト(ギリシャヨーグルト、ココナッツヨーグルト)をかけたものが良かった。
ホテルの朝食は「ブッフェ+メニューの中から一つ選ぶ」という形式だったのだが、イギリスの飲食店のメニューには「ベジタリアン向け」「ヴィーガン向け」などの記号が一緒に書かれていることが多い。やはりそういう人が多いのだろう。
別にベジタリアンやヴィーガンでなくとも、海外の食事の「肉!パン!チーズゥ!」みたいな感じに飽きてきた人は、この記号つきのメニューから選ぶといいかもしれないね。

モートン・イン・マーシュからバイブリーに行くにはバスの乗り継ぎが必要(801号線→855号線)で時間がかかるから、こちらを先にしよう……と思ったのだが、なぜか「バイブリーに行きたいから、バイブリーへの乗り換えができるところまで乗りたい」という私の説明が通じない。「バイブリー」を連呼しながらあらかじめ作っておいた作文まで見せたのに通じない。なんでや!
結局、バスの運ちゃんが「よう分からんけど、とりあえずボートン・オン・ザ・ウォーターまで行けば?」といった調子だったので、ボートン・オン・ザ・ウォーターに行くことになった。初っ端からうまくいかねーなーー

めちゃくちゃ曇ってんな
信じられるか? これ、ボートン・オン・ザ・ウォーターなんだぜ……

とはいえ、ボートン・オン・ザ・ウォーター自体は楽しかった。
アンティークショップを見たり、不定期開催っぽい?ハンドメイドマーケット的なものを見たりした。
季節と天気が良ければさぞ綺麗なのだろうが、今日も今日とてクッソ曇っていたので、そんな「映え」はどこにもない。ってか寒いな……

イギリスは、ほぼどこにでも犬がいる。店にも普通に入ってくる。驚くべきことに、アンティークショップにさえ犬を連れて入れるのだ。
犬たちは大抵、吠えたりうろついたりすることもなく大人しくしている。その辺のチワワにすら謎の貫禄があった。
それから、リードがなくても勝手に主人についていっている犬をちらほら見かけた。お利口だね。

さて、先ほどは出鼻をくじかれたが、それでも私はバイブリーに行ってみたい。
バイブリー行きの855号線バスに乗るため、とりあえずノースリーチへと向かう。

素敵な看板。背景を見れば分かると思うが、行ってみるとコッツウォルズは存外車が多いし、普通に現代文明が染み渡っている。絵本のような世界は期待しすぎない方がいい

ノースリーチ、なんもねぇ……
いや、「何もない」と言ったら失礼かもしれないが、本当に地元民向けっぽいスーパーと数件のコーヒーショップしかないのだ。
ここでバイブリー行きのバスが来るまでの一時間半を潰さなきゃいけないのか……まあ、コーヒーショップで文章を書いていたら割とすぐだったような気もする。

ようやくバイブリー行きのバスが来て、14:30頃にバイブリーに到着する。
…なんもねぇな。セント・メアリー教会とか、綺麗な散歩道とか、鱒の養殖場とか、スワン・ホテルとかはあるけど、逆にいうとそれくらいしかない。
バイブリーといえば、ウィリアム・モリスが「英国一美しい村」と評したことで有名で、コッツウォルズ周遊ツアーなんかを見ても大抵は行程に入っているから、もっと大きい村かと思っていた。
しかし、実際は一時間もあれば大体は見て回れるのではなかろうか。えぇ、ここからモートン・イン・マーシュまで帰るのに、一時間半〜二時間以上かかるんですけど……マジすか。

とりあえず、モートン・イン・マーシュまでの乗り換えが比較的スムーズな17:48の855号線バスまで時間を潰す。これが最終バスなので、逃してしまったらバスではモートン・イン・マーシュまで帰れない。

天気と時間帯が相まってうら寂しいアーリントン・ロウ。これはこれで雰囲気があるね!

14世紀当時の姿を残しているというアーリントン・ロウの家並みを見て回り、晴れていたら木漏れ日が美しいであろう、木陰の散歩道を歩く。まあ雨なんですけどね。
脇を小川が流れているが、これも鼠色の空から降り注ぐ雨を受けて、黒々と濁っている。多少水量も増しているのか、流れの比較的急なところでは白波が立つ。
なんでよりにもよって今日が雨なんだよ、さむっ……まあイギリスだししゃあないか……コッツウォルズに行くときは、美しく晴れた五月から初夏くらいがいいと思います。とはいえツアーを前もって予約した場合、当日の天気については賭けになってしまうが。
それから、コッツウォルズで作られたジンを買った。バイブリー唯一の土産物屋で買ったのだが、若干割高なので、できれば他のところで買った方がいいと思う。まあ、ここを逃したらもう買えるかどうか分からないから……

そうこうしているうちに最終バスの時間である。
バス停の目印が何もないが(本当に何もないのだ。停留所どころかちょっとした目印さえ!)、まあこの辺りだろう……と思ったところに立って、バスを待つ。雨が降っているから、傘をさして待った。

そうしたら、最終バスを逃した。
傘をさしていて視界が悪かった上に、「今度はボートン・オン・ザ・ウォーターで謎に降ろされたときのようにはならないぞ!」と、あれこれバスの運転手に聞くことを考えていて、バスが全く思いもよらないところを走っていることに気づくのが遅れた。気づいたときには手遅れだった。

「!? あれ、855じゃん!」「うわああああああ待ってええええええ!!!!」
気づくや否やその場から走り出し、グリコランナーみたいなポーズで傘を振り回して叫びながら必死に追いかけたが、バスは止まらなかった。気づいてくれなかったのだろうか。それとも、気づいた上で無視したのだろうか。
分からないが、とかく私はバスを逃した。ただただ、叫びすぎて喉が枯れただけであった。

途方に暮れ、とりあえず室内で策を練ろうとスワン・ホテルへ向かう。
そこのロビーにたまたまいた一家がとても親切で、血相を変えて駆け込んできた私に「何があったの?」と聞いてくれた。
思えば、このときほど英語を話せ、聞き取れたことはなかったように感じる。ネイティブスピーカー同士のやり取りでさえ、何を話しているのか分かったくらいだ。

「どうしたの?」
「モートン・イン・マーシュに行くための最終バスを逃したんです!!!」
「あらら……(私のスマホを見て)ちょっと地図を見ていい? …これはちょっと遠いわね。本当に逃したのは最終バスなの?」
「はい!!!」
「ひょっとして、何時にバスが発車するか知らなかった?」
「いえ、知っていて、バスを待っていたんですが、バスの方が私に気づかず行ってしまいました」
「あらららら。じゃあタクシーで帰るしかないわね。ちょっと高くつくでしょうけど……」

そうして、一家は私の代わりにタクシー業者に電話して、タクシーを手配してくれた。あの人たち、めちゃくちゃ親切だったなぁ。本当にありがとうございます。
とはいえ、やはりタクシー代は高くついた。65£だ。バスで帰ることができていたら4£で済んでいたはずなので、これは少々痛い出費である。

しかし、これでなんとかモートン・イン・マーシュまで帰ってくることができた。
あと、タクシーの運ちゃんには別れ際に“cheers!”と言われた。調べてみると、イギリスのスラングで「ありがとう」「じゃあね」みたいな意味らしい。こんな些細な一言にもイギリスを感じるね。

とにかく本日もトールキンゆかりのパブに入り、ジン・トニックを頼む。
今夜の災難に乾杯!

かんぱーい!!(ヤケクソ)

なお危機を脱した瞬間、私の英語力はすぐに元のレベルまで低下した。さっきまであんなに聞き取れて喋れていたのに、もう周囲の人が何を言っているのか分からない。
やっぱ語学って必要に迫られなきゃダメなんだね。必要に迫られる──それも、必要に迫られ続ける・・・ことが大切なのだろう。
そりゃあ、目的なく漫然と勉強していても語学力は伸びないわけだよ。しらんけど。

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