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イギリス史めっちゃ好き

私はイギリスが好きだ。

まあ、「お前はイギリスについて何を知っているんだ」と問われれば、答えは「なんも知らねぇ」になる。

だが、それでもこう言うことが許されるのならば、私はイギリスの全てが好きなのだろう。
おそらく私はイギリスのことを1%も知らないのだが、この限られた1%未満だけで残りの全ての部分もきっと面白いと思えるくらい、イギリスは面白い。

特にテューダー朝が好きだ。
知るたびに色合いが変わって、何度でも夢中にさせてくれる素敵な王朝である。

テューダー朝は一般に、絶対王政期の王朝として理解されてきた。
みなさん、世界史の授業でそう習ってきたと思う。エリザベス1世なんかが典型的だろう。

しかし、「絶対王政期」としてのテューダー朝理解は、その中に「議会制民主主義へと変わっていく前の統治システムだよね」というニュアンスを含み込んでいるのだ。
ここには、テューダー朝を近代国家への「途中経過」とみなすような、ホイッグ史観ならびに、その後のエルトン的な見方が投影されている。

つまり、後に国民主権へとスライドしていくような君主主権が現れたり、後に没人格的な官僚制国家へとつながっていくような行政機構の改革が行われたりした時期としてテューダー朝が捉えられているのである。

(まあ、これらは今となっては少し古い学説だが……)

しかし、テューダー朝についてさらに深掘りしていくと「絶対王政」とは異なるあり方が見えてくるのだ。
この点については、地方や教区(とそこで救済される貧困層)に関する研究、もう少し時代を下るならば、複合国家論辺りが手を引いてくれるかもしれない。
なお、この辺りは近藤和彦編『イギリス史研究入門』なんかに詳しく書かれている。面白い本だから、迷えるイギリス子羊は読んでくれ。

とかくそういうわけで、私は「エリザベス1世は絶対君主である。○か×か」という問題が出たら答えられなくなってしまった。
少しイギリスのことを知った結果、逆に何も分からなくなってしまったのである。

(ついでに言っておくと「ルイ14世は絶対君主である。○か×か」という問いにも答えられない。ルイ14世のフランスは、社団国家としても捉えられるからね)

そして「やっぱなんも分かんねぇ」と思いながら、テューダー朝に惚れなおすのである。
底が見えなくて魅力的だ。ちょっと知ったと思ったら、やっぱり何も知らなかったことが分かってくる。
もっと知りたい。どれだけ知っても本当のところは分からないのかも知れない、と悟りながら知りたい。

普遍権威と世俗国家の主権。カトリック、プロテスタント、イギリス国教会。中央と地方。権力と権威。実質と理念。──主題は尽きない。

いずれもが絡まり合い、観念と実質の食い込み合うモザイクが、巨大で複雑に魅惑的なテューダー朝の像を呈している……イギリス史は良い。主食にしたいくらいだ。

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