漫画版『仮面ライダークウガ』五代/一条VS翔一/駿河 心理的葛藤。※大ネタバレ注意

月刊ヒーローズで連載中の漫画版『仮面ライダークウガ』

平成仮面ライダー第一作目であるクウガ、プロデューサーである高寺成紀の牧歌的で人間賛歌的な世界観と当時の世相に合わせたヒーローの再定義を果たしたこのシリーズを『アギト』『555』で知られるプロデューサー白倉伸一郎、特撮界の重鎮である脚本家井上敏樹の両コンビが大胆な再解釈したことで少なからず衝撃を与えている。(?) 

今月発売される第10巻と今月号の連載分からいよいよ後半戦に向けて大きく舵を切る。
五代雄介と一条薫との友情関係はオリジナルからそれほど大きく変わらず、その二人と全く相反する形で新たにアギトである津上翔一、一条のライバル的存在駿河哲也と新たなキャラを配置している。

五代は根っからの明るい性格の冒険家であり、一条や杉山など警察官、グロンギである女性メ・ガリマ・バとも友情関係を築ける青年。
一方、津上翔一は姉である雪奈が無実の罪で投獄されてしまいクウガとは違う存在アギトとして覚醒してしまい不慮の事故による非業の死を遂げる。
雪奈の力を引き継ぐ形で翔一もまたアギトとして覚醒するが、突如として目覚めた異形の力に苦しみ、恋人にも裏切られ失意にくれた彼は最後の希望として五代に依存しようとする。

駿河哲也は一条と同じ部署に所属する刑事ではあるが、元は傭兵であり凶悪犯の放つ銃弾を寄せ付けない異様な幸運の持ち主。
そんな彼は刑事の管轄を超えて翔一の同行を監視して彼のアギトの力に目を付け彼を精神的に自分側に靡くよう策を仕向けて翔一との奇妙な互恵関係を築く。

ここまで読めばお分かりかと思うが、五代/一条の関係性(高寺的な人間賛歌)のネガティブバージョンとして翔一/駿河の関係性を設定してる。

『善/悪』という二項対立は基本的に等価=トレードオフであるというのは白倉/井上コンビがこれまでの『アギト』『555』でも反復して描かれてきた。

ここで少しオリジナルのクウガの話をすると、五代/一条の関係性というのは五代自身が『皆の笑顔を守りたい』をモットーとする博愛主義者、一条はそんな五代に影響され刑事として彼に全力で協力する態勢を作ろうとする。
が五代がクウガとして闘いグロンギを討伐することで彼が必然的に持つ暴力性から知り合いの少女の夏目美伽に恐れ抱かれてしまい、段々と五代と一条を始めとする守るべき人間達との間に壁が出来てしまう。
クウガとして闘う度に擦り切れる五代に対してそんな彼に寄り添えなかった一条が五代に懺悔をして彼を最強のグロンギであるン・ダグバ・ゼバとの闘いに送り出し、五代は辛うじて勝利はするが最後に彼を一条は静かに送り出す所で物語は終わる。
『暴力行為』というのは必然的に他者を排除してしまうというパラドックスを抜け出せないある種のヒーローの不可能性を描いたのがオリジナルのクウガである。
おそらくこの漫画版はそんな五代/一条の関係性にメスを入れようと試みであるだろう。
予め完成された博愛主義者の五代、同じく理想的な職業人である一条に対置する形で駿河哲也を描いている。
一条と駿河は明らかにコインの裏表の関係である。
グロンギによるゲゲルの社会的混乱をいち早く収めるため奔走する一条に対して、駿河は初めからそんなものに関心を示さない。
彼が翔一に目を付け、わざわざ恋人役に監視役として潜ませるのも、どういう風に事態が転ぶのか傍観者の一人として眺めたい快楽主義者である。

そこで今月号で駿河と協力関係にあった新谷ケイと科警研の榎田ひかりが袂を分かち独自の行動を取る。
一条達『未確認生命体対策本部』に対する『未確認対策本部監視委員会』を立ち上げ、五代を連行しクウガのデータをフィードバックしたパワードスーツG3を開発しようとする。
新谷/榎田の二人のやり方は一見非道のようにも見えるが、一条の友人である解剖医の椿秀一はこう告げる

「一条、お前の心配も分かるが俺は今回の件に賛成なんだ。早急なスーツの完成は未確認への有効な対応手段だからな。
ー五代ばかりずっと負担をかけるわけにはいかないだろう?
お前の気持ちは分かる、だがこんなことは言いたくないが、

お前は…五代と深く関わり過ぎたんじゃないのか?」

一条は明らかに五代と情的なやりとりを通して彼をバックアップしようとする。
たが短期間で深い関係性を持とうとすると、それだけ相手への心的な負担が大きいものとなる。
その点新谷ケイは一条以上に思考がシステマティックかつ計画的だ。
五代クウガ一人にグロンギ討伐を任せるのは非効率であり、クウガのデータからG3を完成させ量産組織化してしまった方が五代への負担は軽くなり何より合理的である。
そしてケイはそんな五代/一条の関係性を把握した上で一条を五代に対するカウンセラー的な役職に当てようとする。

現時点でほぼ新谷ケイの大勝利ではないだろうか?

五代/一条的な情から通じた友情関係が明らかに駿河/新谷が持つ計画的な『欲望』に勝ってる。

ここでも『善/悪』の相対化、無効化というテーマが語られる。

五代/一条が思考する『正義』が駿河/新谷の思考とする『欲望』に勝るのか?それとも次第に同化していくのか?今後も見逃せない。




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