装甲騎兵ボトムズ ペールゼンファイルズ ~情報省次官ウォッカムの敗北から何を持ち帰るか?~

この間、サロンのあるメンバーさんとのトークでダグラムとかボトムズとかの高橋良輔監督の話が思いの他、盛り上がってしまったのでここ数日、玩具やプラモを引っ張り出して、ボトムズを少し観ていた。

多摩地区の稲城長沼に建てられた1/1等身大スコープドッグは例の騒ぎが長引いてるせいで観に行く機会が作れないのだけど、スコープドッグやAT(アーマードトルーパー)のデザインは大河原邦男氏の最高の仕事の内の一つと思える。

とりあえずロボットアニメとか全く知らない人のためにボトムズについて説明するなら、『装甲騎兵ボトムズ』はサンライズが82年に製作したロボットアニメで、アストラギウス銀河という地球とは違う銀河系でギルガメスとバララントという二つの国家が100年に及び戦争を続けていた、しかしある日突然戦争が終戦してしまい、戦争しか知らない兵士たちは世に放り出されてしまう、主人公キリコ・キュービーもその一人であり長く続いた戦争のせいで人間不信になってしまった、そこでウドの街で闇商人をしていたゴウトとその周りをウロついたバニラやココナと出会い、キリコと同じく兵士であることの運命を背負わされたPS(パーフェクトソルジャー)のフィアナと出会い、少しづつキリコが人間性を回復していき、軍の陰謀と闘ったりアストラギウス銀河創生の謎にも迫っていく。

ボトムズといってもシリーズがかなりあってどれから観ていいか分からない人もいるだろうけどとりあえず鉄板としてはTVシリーズ観てもらうのが一番良いのだが、今回のこの記事で扱いたいのはOVAのペールゼンファイルズである。

ボトムズ 野望のルーツ(OVA)

ボトムズ ペールゼンファイルズ(OVA)

ボトムズ ウド篇(TV)

ボトムズ ザ・ラストレッドショルダー(OVA)

ボトムズ クメン、サンサ、クエント篇(TV)

ボトムズ ビッグバトル(OVA)

ボトムズ エピローグ(TV)

ボトムズ 赫奕たる異端(OVA)

ボトムズ 孤影再び(OVA)

ボトムズ 幻影篇(OVA)

equal ガネシス(小説)?

とりあえず時系列順に書き出しただけでもこのぐらいある💦
今回取り上げるペールゼンファイルズは野望のルーツの直後からTV版の直前、百年戦争末期、レッドショルダーの創設者であるヨラン・ペールゼンは自身の部隊で行っていた非人道的な実験(所属してる兵士をあえて仲間内同士で殺し合いをさせたり、不死身の兵士を作るために薬物療法や洗脳で人工的な兵士を産み出したり)が告発され軍事裁判の渦中にいた、しかし当のペールゼンは錯乱しておりまともな応答を行うことなど出来ず、裁判は決着が付かず泥沼の状況になっている中、情報省次官フェドク・ウォッカムが法廷に乱入しペールゼンが秘密文書「ペールゼンファイルズ」の存在を秘匿していた事と報告し、裁判の休廷とウォッカムによる特別な保護を求めペールゼンを確保する。

時の同じくして主人公キリコ・キュービーは謎の目的で編成されたバーコフ分隊に編入させられ、限りなく生存確率の低い無謀な作戦の尖兵として駆り出される。

キリコはペールゼンがアストラギウス銀河で250億分の1の確率で出現すると言われてる不死身の人間『異能生存体』として彼が発見する。
ペールゼンは所謂エリート官僚であり、軍大学で博士号を取得し首席で卒業、その後二度に渡り国家厚労賞を得るなど若くしてこの世の全ての権力を掌握した男だ。
しかし彼からすればそんな権力などさしたる思い入れもないのだろう…
その後の彼は自身の部隊『レッドショルダー』を創設、不死身の兵士『異能生存体』のみで結成された最強の軍隊を創り上げ自分自身が神的な存在に近づくそれがペールゼンの動機だ。

しかし、その『異能生存体』として発見したキリコは組織や軍隊に反抗的な態度を取る危険分子とペールゼンは見做した。
『異能生存体』の発生確率はこの銀河では250億分の1しかない、そしてようやく適格者として発見したキリコはペールゼンの言う事すら聞かない…
いくら不死身の兵士とはいえ上官の命令を聞かないのであれば軍隊の成立要員としては不適切でしかない…
最強の軍隊の創設などというのは所詮彼の夢物語に過ぎない…

そしてレッドショルダーで彼の行っていた非合法な実験はスパイにより告発され、レッドショルダーは解体し本作の冒頭で軍事裁判で裁かれようとしていた。

しかしウォッカムはペールゼンを自身の情報省直轄の収容所に送り込み、保護とは名ばかりの拷問を行っていた。
ウォッカムは「ペールゼンファイルズ」に何かを隠してるの察知してペールゼンに繰り返し尋問を行う。
文書の解読とペールゼンの尋問を行う内にウォッカムはこう考えた、『異能生存体』とは想定より多く存在しているのではないかと?

たまたま偶然が重なったのか、それとも味方を犠牲にしたのか?
どんな理由であれ無謀な状況から奇跡的に生還を果たす兵士はキリコと同じく『異能生存体』なのではないかと?
ペールゼンファイルズにはキリコ以外の4人の兵士、ノル・バーコフ、ガリー・ゴダン、ゲレンボラッシュ・ドロカ・ザキ、ダレ・コチャックがリストに挙げられていた。
ウォッカムはその5人を「バーコフ分隊」として編成し、生存確率の低い作戦に投入し実験を行い、仮に不死身の部隊が誕生した折にペールゼンの研究成果を奪い取り軍官僚として出世する、それが彼の目的だ。

しかしキリコ達バーコフ分隊は峡谷の基地襲撃、部隊の一人であるゴダンを逆恨みする団体からの暗殺、雪原地帯の寒気団と様々な状況から生き延びて見せる。

それでウォッカムは異能生存体の存在を確信し、最終的な仕上げとしてクエントの古代文明で出来た超巨大要塞モナドの攻略を開始する。

モナドはバララント軍が所有する超巨大要塞、攻略にはギルガメス軍1億2千万の兵士が投入される一大作戦、バーコフ分隊の5人を前面に押し出せればこの無謀な作戦は成功するだろうと…

しかし、キリコ以外の4人は単なる『異能生存体』に近しいだけの、近似値的な存在だった…
モナドのバララント軍の大襲撃で4人は死んでしまい、作戦は失敗し1億2千万の人命を失う不毛な作戦で終わった…
ウォッカムは未だかつてないギルガメス軍の多大な損害を負わせた戦犯として裁かれようとする所を命からがら逃げだし、収容所の戻っていた。

しかし収容所ではペールゼンは完全に正気を取り戻し軍服を纏いウォッカムの前に対峙していた。
実は収容所の医療スタッフであるメンケンはペールゼンの息のかかったスパイであり、ウォッカムの行動を密かにペールゼンに報告していた。

実はウォッカムはペールゼンを収容所に入れてしまったその時点で既に彼に敗北していたのだ…

ではなんでウォッカムは敗北してしまったのか?

それは「ペールゼンファイルズ」をウォッカム自身が誤読した事だ。

ペールゼンはウォッカムとの尋問のおりに何度か彼に忠告していた、「アレは単なる日記であり備忘録だと…」「日記なんてものは往々にして書き手の願望が含まれてしまうと…」

単なる備忘録でしかないというのはペールゼンとしては本当の事だったのだ(w

ウォッカムの失敗に思うのは、どんなに教養があってリテラシーの高い人間であっても往々にしてテキストを『誤読』してしまうという事だ…

しかし過去に4度に渡る実験の成功はウォッカムに「もしや…」と思わせてしまう状況証拠としては十分だったのだろう…💦

結局のところ、本物の神様ではない人間というのは例えどんな強大な権力を持ち合わせていたとしてもそれは戦争という状況の一部に過ぎない…

ウォッカムは毒蛇であったが、より強い毒蛇であるペールゼンに噛みつこうとして逆に噛み殺された…

ペールゼンファイズとはウォッカムの敗北の物語だった…

最後の最後で主人公のキリコの話をするなら、この作品に於いてもっとも権力に対する関心が薄い人間が立場として一番神様に近い人間であるというのは何とも皮肉である…

TVシリーズやその後のOVAの話もいずれやりたい所だがそれはまた次の機会にまわしたい…





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