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書評・熱狂する現場の作り方 サイバーコネクトツー流ゲームクリエイター超十則

 アダムとイブがリンゴを食べてから、惚れた腫れたの話の種は後を絶たない。時に草子に時に絵巻に、今も昔も綴られる。
 都々逸はそんな思いを七五調で綴った、代表的文化である。聞きかじりながら一部を披露する。

 諦めましたよ どう諦めた 諦められぬと諦めた

 君は野に咲くあざみの花よ 見ればやさしや寄れば刺す

 思い出すよじゃ惚れよがうすい 思い出さずに忘れずに

 論はないぞえ惚れたが負けよ どんな無理でも言わしゃんせ

 いやはやこれくらいにしておこう。書いてるこっちが照れくさい。
 好意は人を幸せにするとは限らぬらしい。叶わぬ想いに身を裂かれ、周りにたしなめられることもしばしば。それでもなお諦められぬと惚れ続けてしまうのは、惚れてる時間が楽しいからだろうか。
 色恋に限るまい。趣味嗜好もまた同じ「好き」という感情に分類される。相手に感情がない故、惚れられるということこそないが、少年期何かに一途に惚れ続ける人は決して少なくはない。
 だがそのほとんどが、成長とともに離別してしまう。離れられなかった大人は、身内に苦い顔をされることも世の習いらしい。
 この男はどうだろう。少年期を部類の漫画好きとして生き、しかして殻に閉じこもることなどせず、大人になった今も、恐らく同年代ではトップレベルの漫画読書量を誇っている。
 多くの仲間が漫画から離れていった思春期。諦められぬと諦め……否、諦めまいと誓ったらしい。

 本書は、気鋭のゲームメーカー、サイバーコネクトツー(CC2)社長にしてカリスマクリエイター、松山洋が自らを語った本である。
 と書けば多くの方が期待するであろう、ゲームクリエイターのイロハらしきものは書いてはあるが、それだけではない。氏の半生記でもあると同時に、業界の内情をちらりとも見せてもくれる。故にどんな本かと一言で言うのは難しいが、恐らくそれは読んだ人によって変わるのではないだろうか。

 あざみの如く華やかなエンターテイメントの世界に憧れ、いつかその担い手にと憧れるものは少なくない。しかしいざ寄ってみれば、厳しい現実がトゲを刺す。それでも添いたい咲かせたいと思ったものだけが、クリエイターを名乗れる。 氏はその激情を「覚悟」と名付けた。
 限りあるお金と時間を何につぎ込むか。昔は雑誌買ってたけどなー、なんて思い出にするようでは覚悟がうすい。寝ても覚めてもそれを思い、削れるものは削って求める。それが覚悟の入り口なのだ。
 行間から松山洋の叱声が聞こえて来る。

 文中、少年時代に版権ゲームの出来映えに落胆を覚え、業界に勤めその起因を知ったくだりがある。CC2もまた版権ゲームを手がけることになり、同じ壁を見上げることになる。
 だが氏はそこで、業界の習いに准じなかった。惚れたお前だ言い訳無用。どんな無理でも聞いてやる!と言ったかどうかは知らないが、それまでの版権ゲームとは一線も二線も画する傑作を世に送り出す。惚れた男は恐ろしい。
 クリエイターの入門でも人生啓発の指針でもないが、読む人によってはそのいずれにもなり得る、ゲームの鉄人松山洋からのメッセージ。
 どんな人にもどこかに響く一冊だろう。


 追伸・好き勝手申し上げたお詫びに、酒席では眠り上戸だという松山氏に似合いの都々逸を一席。

 お酒飲む人しんから可愛い 飲んでくだまきゃなお可愛い

 これを読んだ関係各位の眉間にシワが寄る様を思い描いて稿を閉じる。
(^^)

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この下はなんも書いてありませんのであしからず。

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