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劇評・THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦 ディレクターズカット

 思った以上に満足して、この原稿に向かっている。

 ディレクターズカット版という言葉に、どこか蛇足的な意味合いを勝手に感じ取っていたためだろうか。ある意味思った通りの出来栄えに、ようやくこの映画を見たと言えるような気さえしている。
 80年代アニメの終焉と90年代アニメの開闢を、一手に引き受けたアニメがある。ロボットアニメでありながら現代劇、警察モノでありながら庶民的という、今や定番とも言える二種混合に挑戦した傑作アニメ。
 あれから10年……否、二十余年の時を経て、ファンの夢、スタッフの夢が叶う時が来た。

 はじまりは、また一発のミサイルだった。
 レインボーブリッジが突然爆発炎上。それを行ったのは、陸上自衛隊の試作戦闘ヘリだった。
 熱光学迷彩を搭載した見えない戦闘ヘリ『グレイゴースト』が、事件の数日前の演習中に強奪。その犯行グループは、かつて首都を舞台に幻の戦争を仕掛けた男、柘植行人の教え子たちだった。
 彼らの切り札となったグレイゴーストは、演習中は模擬弾しか積んでいなかったにもかかわらず、こんなコトを起こせた。それは犯行が単独のものではなく、背後に大規模な兵站組織があるということに他ならない。
 公安の高畑は、次の状況が始まる前に彼らを押さえるべく、解体寸前の盲腸集団となった特車二課に接触する。
 首都が再び、敵のいない戦争の災禍に晒されようとしていた……。

 昨年4月からスタートした、パトレイバー念願の実写シリーズ。今年5月に公開された、長編劇場版をもってひとまずのピリオドが打たれた。が、公開直後押井監督の口から、10月にディレクターズカット版が公開されるという、異例のアナウンスがされたのである。
 一般的に映画の再編集版などは、公開数年後にリリースされる場合が多い。だが今回は公開中に発表され、しかも半年と経たないうちに始まるというのだから、ファンは度肝を抜かれたやら苦笑いしたやら、とにかく騒然となった。
 しかし私は当時、どちらかといえば(時期の早い遅いは別として)そりゃやるだろうなぁと感じたのを覚えている。前作の感想でも書いたが、明らかに物足りない印象を拭えなかったからだ。
 どこが足りなかったかを具体的に書くと、ネタバレになってしまうので避けるが、いわゆる人物の背景や気色を描く場面などが、ごっそり足りない気がしてならなかった。
 その気分を私は「20分足りないなあ」と表した。
 その直後、監督自ら27分追加したものを公開するといわれたのだから、膝を打った私の気持ちは察していただけよう。

 そして今回、公開されたディレクターズカット版を見て改めて思う。ああ、やっとこの映画が見られた、と。
 なぜこのバージョンを最初からやらなかったのか。それは制作サイドの阿鼻きょ……もとい、議論と判断の末のことであり、享受者は座して受けるしかないことである。
 監督が舞台挨拶で言った「追加映像じゃなくて、これが本来あったもの」という言葉が示す通り、人物の背景や気色もしっかりと整っている。
 結果論になってしまうが、寸足らずに感じた前作を見たことも、今回の満足感に繋がったと思えば、そう悪いことばかりではないとも思えるが、どうだろう?

 ロボットアニメを実写化するという夢を、映画界は数多く叶えてきた。近年ではそのスケールでハリウッドの実力を見せつけた『パシフィックリム』が記憶に新しいが、ロボットモノとして手を抜かず、実社会との高低差を感じさせない演出は、さすがの押井守だろう。
 MANGAの幸う国日本だから生まれた、無二のロボットドラマがここにある。

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