枕も省いて結論から書いてしまおう。今年のTGSの感想は、去年の総評に同じである。

　失望しているのではない。そうそう毎年急激な変化は訪れるものではないし、
ハードウェアも成熟し、PS5の下位互換も確実視されている今、方向は変わらねど進化は確実に続いている。そして去年も今年も、TGSの主役は小島秀夫だった。
　5年ぶりの参加になった前回ほどのカルチャーショックは受けなかったが、という意味で、感想は変わりない。
　では何を私はこうも意気込んだタイトルをつけたのか。他でもない、今年も専門学校ブースが面白かったからである。

　幸い都内在住で（今は引っ越したが）イベントや試遊会に通えなくない身である私は、何時間も並んで一本二本のゲームを試遊するより、こういう場でしか見られないものを見に行った方が、得るものが多いのではないだろうかと思っていた。
　学生たちの作品なら、オープンキャンパスなどで見るのもいいが、いくつもの学校が一堂に会するこういう場は、いっぺんにたくさんの作品が見られるし、見応えがあるのだ。

　そんな中で、毎年ゲームメディアを熱くさせる学校がある。神奈川県厚木市にある神奈川工科大学だ。
　今年は入場口近くに設けられた学校エリアにあって、神奈川工大は通路に面した好位置をとっていた。身長57m体重550トンの中村先生にごあいさつをして（一部誇張あり。でもほんとに背が高い）、早速今年の作品を拝見する。

　まず一見しておわかりいただけよう。この「ゲームなのか？！」と疑う気も失せるインターフェイスを。他の学校は当然液晶ディスプレイにキーボードないしパッドという構成が主流だが、ゲームを遊びにきたのにいきなりテボ（というらしい）を差し出された私は何をすればいいというのか？？そりゃ湯を切れということだ。よし切ってやろう！
　よくラーメン屋さんが手際良く、しゃっぱしゃっぱと麺を湯切りする様は見ているが、実際やってみるとなかなか難しい。麺（状のゴム）を数本落としてしまった。結果は凡庸。麺を落としたので芸術点も減点された。うん！今年もこの緩い達成感は変わらない！

　と、ここあることに気づく。テボの中に加速度センサーがあるのはわかるが、PCとつないでいる線がない。もしや無線？と思ったら正解。なんとテボの中にBT接続のできるジャイロセンサーを仕込んであったのだ。意外と凝ったことしてる！なのに芸術展の採点が手動っていうのも面白い！

　一方こちらのゲームも、わかるようなわからんようなデバイスがついている。いきなり釣り竿を差し出された私は何をすればいいというのか？？そりゃ魚を釣れということだ。よし釣ってやろう！しかもなんと2050年の未来の釣りが体験できるそう。早速やってみる。
　と、釣れたのはペットボトルにお菓子の袋……生き物すら釣れない有様。で、釣り終わった後に足元のクーラーボックスを見ると、釣ったものと同じゴミが入っているとううオチ。

　いくらなんでもネタに走りすぎだろ？と思ったが、理由は次の画面で明らかに。

　世界経済フォーラムの発表したところによれば、2014年時点で海洋に流れ出たプラスチック量は、魚の生息量に対し1：5ほどの量であったという。しかしこのままいくと、2050年にはその数は魚を超えるという試算もあるのだ。
　しかも先ほどのクーラーボックスの中身は、実際彼らが海で拾ってきたゴミばかりだというからまた驚く。本作は揶揄でもなんでもない、ほんとうにあるかも知れない2050年の海を垣間見せ、我々に差し迫った問題を否応なく明示して見せたに過ぎないのだ。ううううん、意外と深いぞ神奈川工科大学！

　もちろんキワモノばかりではない。こちらの『バッテリー』は二人プレイ推奨のアクションゲーム。一人がパッドでキャラを操作し、もう一人がスイッチボックスに取り付けられたスイッチ類を操作して、画面の中のギミックを動かし、協力して進んでいくものだ。
　学園祭に来る子供たちがワイワイ遊べるものを、という想いから生まれたこのゲーム。スイッチの色が画面内のオブジェクトといっしょで、どのスイッチで動かせるかが直感的に分かったり、タイミングを測らないと突破できないレベルデザインであったり、行き届いた作り込みにすうっとハマってしまった。これは好作！

　コピペになってしまうが、毎年学生ブースのバラエティの豊かさはすごいと思う。
　営利や流行ではなく、自分が作りたいものを実現するために技術を鍛えていくという、彼らにとって当たり前のような作品の数々が、リッチコンテンツに毒された我が目に少し眩い。
　自分の作品が毀誉褒貶に晒されるという経験が積めるのも、生徒らにとってTGSの大きな利点だと思う。
　ちなみに湯切りと釣りのゲームは、Vジャンプのブース配信にも取り上げられたのでご覧あれ。

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