書評・ペンと箸
宴席を始める時、手にした杯を互いにあてる乾杯の風習は、掛け声こそ変われど世界中に存在するという。一説では、ぶつけることで杯の中身を混ぜ、互いに毒を盛ったりしていないことを確認する行為が起源だそう。
食事は命に直結する行為であり、それを共にすることは強い信頼の証でもある。家族、同僚、友人、恋人。食事を共にできる間柄は、それだけで一席の話にできよう。
大手外食情報サイト『ぐるなび』で連載されていた、ルポ漫画の単行本である。テーマは人気漫画家を親に持つ子女へのインタビュー。そこに漫画家である父母との思い出の料理を挟んで語らうものだ。
無論それだけでは終わらない。著者は類稀な漫画分析力をもって、大物漫画家のタッチを完璧にコピーし、イタコ漫画家の異名をとる男なのだ。当然描かれる人物は、テーマとなる漫画家のタッチそのもの。本人が描いたと言われても信じてしまうほどだ。
話の内容はもちろん、漫画家ではなく親としての人物像が語られる。
食と親子という本作のテーマが特に色濃く滲み出たのが、ジョージ秋山氏のご子息のエピソードだろう。委細は読んでいただきたいが、父としての覚悟と漫画家としての矜持を、ひとつの『命』に編み上げる様は、鳥肌が立つほど美しい。
だがやはり一番強烈に印象に残ったのは、故・赤塚不二夫氏とご令嬢の話だった。所帯をもつ漫画家なれば、特に心動かされるのではないだろうか。
他にも紹介したい話がわんさと詰まっているのだが、あえてこのくらいにしておこう。
昭和漫画に育った世代であればそのコピー能力も見応えある、渾身のルポ漫画。
誰かと一席共にしたくなる一冊である。
追記
本書で田中圭一という漫画家に興味を持たれ、他書も買ってみようと思われた方は、くれぐれもくれぐれもご用心の上購入されますよう、ご忠告いたします。
いやマジで(^^;
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