名称未設定.001

こないだみた夢

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 パワーウォーカーに乗るのは久々だった。
 少年たちが『ロボットのコクピット』という言葉から想像するものとはかけ離れた、あの殺風景なインテリアは、少しはましになっているかと期待したが、ハッチを開けて広がっていたのは、相変わらず家電量販店でPCの周辺機器を適当に買い集めただけにしか見えない、まとまりのないコクピットだった。
 俺は小さくため息をつき、180センチの体躯を納めてやや余るコクピットに侵入した。中腰姿勢で操縦する設計も変わらない。
 寮のテレビより小さいメインモニターには、すでに初期画面が表示されている。今の俺には、これを自分の手で立ち上げる権限すらない。
 俺はハッチを閉め、左のレバーのブレーキグリップを握りながら、モニターの右上を三回タッチする。どの機械にも『裏技』というものはある。このコマンドが、この手の機械の設定画面を呼び出す定番のショートカットだった。
 が、そんな期待さえたやすく打ち砕かれた。モニターには黒い画面にオレンジの文字で、俺にその権限がないことが慇懃無礼な文面で表示された。そう、俺はただの犬だ。家主の寝室を覗いて何になる。

 俺を腹に抱えたウォーカーは、幹線道路沿いの雑木林に隠れていた。ややあってノイズの少ないクリアな声が無線で届く。
『その場で待機。指示あるまで……』
 美しい声だった。声だけじゃない。彼女は軍人風情にしておくには勿体無いほどの貴婦人だった。俺がこんなウェットワークに付いているのも、中規模の会社が買えるほどの報酬と、彼女の為であるところが大きかった。
 彼女の声を遮って俺は答える。
「隊長、『やるべき事』はわかってます」
『……頼む』
 通信は切れた。なんて思いつめた声を出すんだ。顔が見えない通信でよかった。もしそんな彼女の顔を見ていたら、俺は居ても立ってもいられなかっただろう。
 隊長、何の心配もいらないよ。俺が軍に入ってから、やるべき事はずっと同じだったじゃないか。きょうもいつもと変わらない。俺にとっての日常だ。
 数十分後、俺はここを通る車両を『誤射』すればいい。それでいいんだろ?


 そこで、目が覚めた。


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 先日見た夢の話なのでオチはありません。ご好評であれば続き書こうかなと思います。

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