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新九郎、奔る!雑観

 ホントーに知る人ぞ知る快作『ヤマトタケルの冒険』から三十余年。ゆうきまさみが満を持して放つ戦国エンターテイメント。
 兼ねてからやたいやりたいと口にだけはしていたというだけあって、熱意がみっちり画面にあふれている。いや、本当に溢れるような描き込みと文字の数だ。以前私は氏の漫画を『白の多い画面』と表したが、本作はうってかわって画面の情報量が多い。
 歴史物はそうなってしまうものだし、そうでなくてはならない。遠景から近景に至るまで、そこにあるものは今とはまるで違うのだから、いちいち書かねば雰囲気が伝わらないし、一言話すにしても、時代背景や世相政治などを読者に知ってもらわねばならない。欄外のト書きばかりに頼っていては却って読みづらくなり、そうなっては歴史小説の挿絵と大差なくなってしまう。
 と、私は思うのだが実際のところは本職のご指南を参照されたい(ニゲタ)
 本作も、モノローグや劇中劇のような手法に頼らず、世継ぎ争いの幕が開きかけている将軍家の事情を滔滔とキャラが語っている。はていつもの氏ならここでイメージカットなどを使いそうなものなんだけどなーなどと考えていたら、いきなり伊勢盛定がロールスクリーンを引き下ろし、足利家の家系図を出してしまうからさぁ大変!しかもよく見ればちょいちょい横文字まで入っている。歴史物として読むなら突っ込むべきところだろうが、私は心底胸をなでおろした。あー、いつものゆうきまさみだ、と。
 そう、これがゆうき流の歴史物なのだ。ヤマトタケルの冒険からその根本は変わらない。教科書代わりではない。歴史を楽しむための漫画がここにある。それだけなのだ。
 奇しくも氏が資料の一つとした呉座勇一氏の『応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱』がベストセラーとなり、早雲の没後499年目の刻に始まった新連載。時代は真芯に捉えている。振り切ってどこまでもヒットを飛ばしてほしい。

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