名称未設定

書評・ナナのリテラシー

 まず身の上話を一席。
 私がゲーム業界に興味を抱くようになったきっかけは、本書の作者が週刊ファミ通誌で連載していた『あんたっちゃぶる』という漫画だった。
 作者自らの取材や体験を綴るルポスタイルが主体であり、業界のきわどい話が聞けたり、ゲームと縁も所縁もないような内容であったり。とにかく思春期の私に、知らない世界を存分に垣間見せてくれた。
 そして本書を読み終えて思う。これはルポ漫画なのではないか?と。

 許斐七海。校内随一の才媛と謳われる女子高生。
 山田仁五郎。ろくでなしの天才と呼ばれる敏腕コンサルタント。
 七海が職業体験として訪れたのが、仁五郎の会社だった。早速教示を乞いにやって来た出版社の人間に、仁五郎は言い放つ。
「出版社に未来はありません」
 その上で仁五郎は、七海に出版社を救うプランをプレゼンせよと命ずる。そして七海を連れてもう一つの案件に向かう。
 かつて思春期の仁五郎に「知らない世界」を垣間見せた漫画家、鈴木みそ吉救済計画に……。

 いわゆる「職業漫画」に分類できる。
 コンサルタントとは、ある分野についての経験や知識をもち、顧客の相談にのって指導や助言を行う専門家。特に企業の経営管理術などについて指導や助言をする専門家。(Macの辞書より)
 作中仁五郎は明確なデータと鋭い推察を駆使し、ズバズバとクライアントの視界を切り開き、未来を垣間見せる。
 七海は素人ながら仁五郎の言を理解し咀嚼する素養を持っている。いわば読者との橋渡しを担うポジションだ。
 同時に七海は、理想を語る役目でもある。業界の裏話を掻い摘んで聞いた人なら誰もが抱くであろう、こうだったらいいのになという理想を、七海は十代の若さそのままの言葉で語る。
 それを仁五郎が、時に大人の言葉に変え、時にくしゃっと頭を押さえつけながら、世の中と辺りをつける様も、本書の見どころだろう。

 他の職業漫画との明確な差異がある。作者自身を主人公にしたルポ漫画とは違い、作者を巻き込む側を主人公に、作者「らしき」キャラを登場させる体裁。だが作者を知ってから読めばわかるが、その筋道は限りなく現実に近い。セミフィクションとでも形容すべきだろうか。
 委細はネタバレになってしまうので割愛するが、そこに至る経緯と、それをはじめた理由。そしてかなり細かい経過まで、生々しく描写されている。
 それ故読者は、読んでいるうちに仁五郎の話術にまんまと聞き入ってしまうのだ。
 誤解がないよう付記するが、本作はあくまでフィクションである。だが作者があとがきで語るように、読者がそこで混乱すれば、それも作者の狙い通りというわけだ。そして私は、まんまとこれにはまっている。

 社会派というほど角張ることもなく、アナーキストというほど浮世離れもしていない。十代の反骨心がそのまま所帯持ちになったような、鈴木流社会の教科書。好作、である。


**************************

お気に召しましたら投げ銭をお願いします。

以下本文はございません。

ここから先は

18字

¥ 100

サポートお願いします。励みになります!