モンスーンがふく頃に

著・足皮すすむ (2023年)

〜はじめに〜
2022年7月。
初夏の元気な日差しがその温暖だけを残してようやく姿を消し、繁華街が賑わい出した刻。
私はその日執り行われた、お得意先のオオハラ氏との会談を、今しがたようやく済ませた所だ。
オオハラ氏は超大手印刷会社の管理職をしておられ、それはそれは頭の回転が速い方で、いわゆる「キャリアマン」なのだ。
いい香りのするジェルで髪をバシっと固め、フランス製のネクタイがお気に入り。勝負の日は必ずリトアニアから取り寄せた最高級の豆を使ったコーヒーを飲むそうだ。つまり、地位あっての金持ちなのだ。
またこのオオハラ氏。お得意先といってももう長年の付き合いであり仕事の良きパートナーとも言えるような方で、そんな間柄だからこそ会談は非常に和やかなものとなった。
しかしそんな和やかな会談でも、長時間ともなると疲労も蓄積するもの。私はオオハラ氏を夕飯に誘う事にした。
「オオハラさん、長い会談でお疲れでしょうから、この後一杯いかがですか。せっかくこの時間まで煮詰まる話をしていたのですから、酒でパーっと洗い流しちゃいませんか。」
「おおいいですねぇ足皮さん。そしたらね、私ね、ぜひ足皮さんを連れていきたいところがあるんですよ。誘ってもらった上に行き先まで指定しちゃあ示しが付かないですが、寿司なんてどうです?」
「寿司ですか、いやぁいいですね。美味い寿司と日本酒、最高じゃないですか!ぜひ行きましょう。」
オオハラ氏は適当なタクシーを捕まえ、運転手に店の名前を指定した。
「"ギャミャ寿し"まで頼むよ。」
その名前を聞いて私は息を呑んだ。池袋の少し外れにある寿司屋、ギャミャ寿し。
ここは"日本一の寿司屋"として有名で、政治家や大手企業の社長、はたまた海外から来日した各国のお偉いさんまでもが必ず訪れる値段も味も最高級の寿司屋だと、前に何かの雑誌で読んだ事がある。
文豪としてある程度の地位を確立してきた私ですら、そんな高級な寿司屋には行ったことがない。なんせ格が違いすぎるのだ。
緊張で、果たして味わって食べられるだろうか。酒は美味いだろうか。そんな心配をしているとあっという間にギャミャ寿しに到着した。
やや遠くに爛々と輝く都市の光を尻目に、一枚の切り株板に大きく筆で書かれた「ギャミャ寿し」の看板。年季が入っており漆の下で飴色に輝いている。
入り口の扉をガラリと開くと、そこにはこぢんまりしたカウンター席と、大将ひとり。
「ラッシャイ…」
「2人」
「どうぞ…」
言葉数の少ない大将。しかしそれは自信とプライドから来る、職人の寡黙さであった。
「足皮さん、遠慮せずになんでも食べてくださいね。」
「ええ、ではお言葉に甘えて…でも私こんな高級な所なかなか来ませんし、なんたって日本一の寿司屋ですからね。緊張してしまいますよ。」
大将は私たちの会話に入ることもなく、ただ注文を待っていた。
見かねたオオハラ氏、後ろの壁にある品書きから注文をした。
「それじゃ大将、とりあえず日本酒をさきに頼むよ。それからネタは…そうだな、アナゴをくれ。」
すると大将は一瞬目をギラリとさせてこちらを見てこう言った。
「アナゴだァ?!あんねお客さん。ウチは日本一の寿司屋。その辺の回転寿司なんてのとは話が違うわけよ。んでもってアナゴみてえに脂っこい魚ってのは、普通最初に頼まねえ。脂が口の中にあると他のネタの味もかわっちまうからな。うちは日本一の寿司屋だ。一貫一貫が芸術品とも言えるものなのさ。それをあんたの口の中の事情で崩されちゃあたまったもんじゃないね。」
「なるほどね…。そんじゃ大将、マグロを頼むよ。赤身のね。」
オオハラ氏は脂の少ない赤身を注文した。しかし…
「赤身だァ?!あんたもしかして素人かい?普通最初に赤身は頼まねえ。まず先にいろんな脂で口の中を"整えて"から赤身を食すのが通ってもんだ。そんな事も知らねえ客なんざに、最高品質の赤身は握りたくないね。」
「そんじゃ大将、エンガワを頼むよ。あれは脂っこいが、味付け次第でどこまでも美味しくなる。大将の腕を是非見せてもらいたい!」
「エンガワだァ?!あれを食い物だと思ってんのかいお前さん方。全く素人ってやつは…ケッ!その辺の回転寿司でも食ってろってこった!」
「そんじゃ大将、ハマチ!」
「ハマチだァ?!ほんと馬鹿野郎だなお前さんは!」
「サバ!」
「旬じゃねえよバカドジ!」
「コハダ!」
「材料がねえ!」
「ブリ!」
「そんな魚知らねえ!」
「シャケ!」
「握り方忘れちゃった!」
「エビ!」
「よく聞こえなかった!」
「いくら!」
「いくら…?お勘定かい?17万飛んで3円だ。」
私たちは何も食べていないが、注文したぶんの料金は加算されており、17万飛んで3円を支払って店を出た。
「いやあ、不思議と空腹感がなくなりましたよ。」
「ハハハ、これがあのギャミャ寿しのすごい所さ。寿司屋であるが、寿司を食べさせない、握らない。職人魂と銘打って屁理屈並べて客を帰らせる。けど注文は注文だから料金は取られる。帰る客は食べたいのに食べられないもどかしさから、いつの間にか空腹を忘れている。つまりお腹いっぱいって事だ。柵どりされたネタは全部食品サンプルだし、生簀の魚もラジコンなんだよ。」
「材料費も人件費もかかっていないから、とにかく客から注文を受ければ売り上げはどんどん伸びていく…単価の高い"高級寿司"を選んでいるのもポイントってわけだ。これは面白い商売ですね。」
こうして私とオオハラ氏は駅のホームで抱きしめあって別れ、私は帰りのコンビニに売ってる安い寿司と缶ビールを買って帰った。なんの話だ。
足川すすむ 2023年


第一幕「カシューナッツとゾウ」
ミョーが目を覚ますと、彼の部屋の窓際に、大ザピョと小ザピョが来ていた。
「やあやあ大ザピョと小ザピョじゃないか。」
「ご無沙汰しておりますミョー様。」
「今日はどうした?またスカパーの話でも聞かせてくれるのかい?」
「いえいえ、今日伺いましたのはスカパーの話ではございません。折行って、少し申し上げにくい事なのですが…。」
「なんだね。」
「実は私たち、この度結婚することになりました。」
「めでたいじゃないか、おめでとう。しかし一体何が申し上げにくいというのだ?」
「その、ミョー様の自宅で披露宴を執り行っていただきたいのです。」
「え?!なんだって?!」
「ミョー様の自宅で披露宴を執り行っていただきたいのです。」
ミョーは目を瞑り少し考えてから目を開け、再び瞑り二度寝し、9時間後に起きた頃にはもう夕方になっていた。
「よし、大ザピョと小ザピョ。うちで披露宴を執り行おう。決まりだ。決まるしかない。そう決まる事がもう宇宙の法則から決まっていたのだ。」
「ああなんと感謝したらよいのやら。…それでは当日、お食事とかもろもろお願いしますね。」
「ハハハ任せておけ。」
ミョーが大ザピョ小ザピョを見送ると、彼の部屋の前に何者かが訪れノックした。
「おぼっちゃま、お夕飯の支度ができましたよ。」
「すぐ行く。」
「温かいうちにお召し上がりくださいな。」
「分かってるよ。」
ミョーは広さ30畳・高さ10メートル以上はあるであろう彼の部屋をあとにし、100mほど歩き階段を2分半かけて降り、大宴会場と呼ばれるとんでもない広さの部屋で、その真ん中に置かれた長いテーブルの一つに座った。
家族や血縁者はすでに席についていた。
やがて先程ミョーの部屋の前に訪れた者ら数人が銀皿に食事をのせ運んできた。
次々と並べられる食事。とてもいい匂いがする。
テーブルの奥に座っているのはミョーの父親。彼がミョーに尋ねる。
「ミョーや。昨晩はよく眠れたか?なんでも執事のコチンモリが言うには、フランスから新調した特製のシーツだったそうだぞ。」
「寝心地はまあまあかな。コチンモリ、明日は元のに戻しておいてくれ。」
「かしこまりましておぼっちゃま。」
「こらこら、せっかく取り寄せてくれたんだからそんな言い方しなくたっていいではないか。」
「ハハハいいんですよ、おぼっちゃまのケーツィにロッフンシャできるのなら、いくらでもアーークェしますよ。」
その言葉を聞いて、ミョーの姉上が涙する。
「コチンモリはなんて良い執事なんだ…。オデ、涙が止まらへんで…。」
その涙が床に落ち、カーペットに染み込んだ瞬間、あらゆる方向からモップとバケツを持ったメイドが15人ほどその場に集まり、一心不乱にカーペットの涙汚れを拭き始めた。
「ぜってえ汚すわけにゃいかねえのさ!旦那様のこのカーペット!カーペット!カーペ!カーペ!カーペット!」
メイドは 達は大汗をかきながらカーペットのシミに薬剤をかけたりブラッシングしたり、フーっと息を吹きかけたり手で擦ってみたり、叩いてみたり撫でてみたり、バイオリンの音色を聴かせてみたりそれに合わせてブレイクダンスをかましたりした。
そしてようやく朝食の時間、夜9時になった。
ミョーの父親が口を開く。
「いやはや、今日は色々あって朝食が遅れてしまったが、さっそく食べようではないか。」
そして皆がフォークとナイフを手に持ち、少し上を見上げながら同時にこう言った。
「天におられます神様先祖様、今日も私達にパンを、肉を、野菜を、その他もろもろありがとうございます。縮毛矯正したのに傷みまくってチリ毛、指輪を買った後に激太り、ライブ会場で難聴、タップダンサーにクロックス、除湿機に水やり、スキャットマンなのにコミュ障。」
そして食事の蓋が執事たちによって一斉に挙げられる。
そこには、一辺が10cmほどの真四角の塊があった。
「本日の朝食、ガムでございます。」
「ほほぅガムとな。これだけの大きさともなるとさぞ大変だったろう。」
「ええ、方々のコンビニを回って箱買いして、鍋で温めて柔くして固めました。味もひとつに絞らず、とりあえずいろんな味を混ぜました。」
モッシャ…クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ…モッシャ…クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ…
咀嚼音がひたすら食堂を包み込む。やがて全員食べ終わった。
「いやはやなんて美味しいガムだろう。様々なフレーバーが混ざり合ってもう何が何だか。しかしそれこそが唯一無二の味。さすがはうちで雇っているコックだ。」
「ありがとうございまし。」

第二幕「ブレスケア」
朝食の和やかな会話がなされているこの石作りの立派な城は、株式会社どっせい建設の従業員が汗水ぶっ放して建設したものだ。
どっせい建設の凄い所は、なんといっても全て手作業というところにある。
建築そのものだけでなく、建材の加工も全て人間の手によって生み出されており、また建材同士の接着もアラビックヤマトと念のみを使っている。
そうした「機械で作った堅苦しさ」のない建築物は、遠くから見ても、内装を見回しても、人の"暖かみ"を感じるのだ。そうした暖かみがあるからこそ冬の寒さも凌げるし、床暖房だツーバイシックス工法だといった小難しい技術はいっさい必要ないのだ。
今回私たちは幸運な事に、どっせい建設創業者の大津なんとか(確か繁なんとか)氏の右膝にお話を伺うことが出来た。
以下はインタビューの内容をまとめたものである。

「この度はお時間を作っていただき、ありがとうございます。私、足皮すすむと申します。」
「よろしくお願いします。大津の右膝でございます。」
「さてさっそくなのですが、御社の次世代工法"ぬくもりたるやさながらマグマ"ですが、大好評のようですね。」
「ええお陰様で。クオリティは保ったまま材料費をいかに抑えられるか思案しました所ふと思いつきましてね。人の手がすべて。人の手で作り上げるからこそ、人…つまりお客様にとって合う建設ができるんです。」
「ぬくマグの建物に私も入ってみたのですが、驚きました。機械では絶対にできない、人らしい工夫が至る所に施されていて…。」
「そう、人は必ずミスをします。例えば壁からクギが出てたり、壁材に書き込んだメモが消されずそのまま残ってたり、休憩中に飲んだジュースの缶が床のコンクリに頭だけ出して埋まってたり…。そういった"機械じゃ絶対ありえないよね"が散りばめられているからこそ、ここに住まわれる方々が"ああ人間が建てた建物にいるんだ"と、常に実感する事ができるのです。」
「…つまり、現場での所謂ミスを許しているという?」
「いえ、許しているわけではないですよ。寛大というか、ミスをミスではなく、一つの建築方法として認めているんです。部下がミスを報告したらまず私がそれを見ます。そして暖かみの査定をし、充分に暖かければそのままにさせる。これがぬくもりたるやさながらマグマ工法のひとつ要因です。」
「ふむふむ、他にも要因がいくつかあるのですか?」
「要因の多くはミスさせる事ですね。建材加工の幅や長さが足りなかったり‥他にも色々。ただ人間はミスをする一方で成長もします。ある程度成長しミスをしなくなると卒業させ、新たなフレッシュ新人もしくは会社のお荷物をチームに迎え入れるのです。新人も、"なるべくおてんばを頼む"と人事に伝えてありましてね。」
「なるほど、ぬくもりナントカは大津さんのマネジメントあっての工法といっても過言ではありませんね。実は、御社が新しい工法の導入を検討していると伺ったのですが、本当ですか?」
「ええ、人の手だけではもう居ても立っても居られなくなりましてね、人の足を使う事にしたのです。」
「足…ですか?」
「ええ。人間は古くから手を使って作業してきました。だから指や手のひらを動かす事には慣れている。しかし足はずっと歩く事でしか使われてこなかった。つまり、作業するには不自由すぎるんです。実際足の指を1本ずつ動かしたり、ペンを握ったり、文字を書いたりってほぼ出来ませんよね。手と比べれば同じ5本指の生えた物質である事には変わりないのに。」
「たしかに。それにくさい。」
「そう、そこなんですよ足川さん!足を使って建築すると、その不自由さのためにより多くのミスが生まれる上に、人間の"くさみ"も加わる。そうして出来上がったものは、ぬくもりたるやさながらマグマ工法よりも人間らしい、言ってしまえば建物というよりもう人間そのものになる。」
「たしかに。しかしひとつ懸念点があります。建築期間です。手であれば1分でできる事を、足を使っては5分10分かかるような気がしてしまって。」
「そこなんですよ。"納期が守れない"事もミスとして、人らしさなのです。納期を大きく遅れて納品された家、そこにようやく足を踏み入れた御施主様はまずそこで人の温かみを感じるスタートを切れる。そして足を踏みいれれば壁にはメモ書きや飛び出たクギ、そして散乱するゴミの数々。それらを掃除しながら『まったくもうあの人達ったら人間らしいんだから』と少し笑顔がこぼれるんです。そして真冬、隙間風吹き荒れる室内で毛布にくるまりながら、あらゆる施工の甘さに笑顔がこぼれる。そして夏は害虫のすみかになってしまい、そこで少し嫌な気持ちになるもののやっぱり笑顔がこぼれる。」
「いやはや恐れ入りました。」
「私は今後の建築業界を背負っていきたいんです。建築は人を笑顔にする。そして子会社のナミョリウスとゲティペティをもっと大きな組織にし、そしてもう一つ大きな夢があるんです。」
「もう一つの夢…ですか。」
「そう。もうこの際なので語らせてください。弊社の"安くて住み良くて、にんげんだ"をテーマに世界シェア率を100%にし、そして…」
「そして…?」
「世界中を覆う、とてつもなく大きな大きな1軒の家を建てたいんです。わかりますか?地球を覆う家です。そこには世界中の人が1人残らず住んでおり、一人一人に部屋も割り当てられている。世界中の80億人全員が1軒の家に住んでいる状態です。そもそも1家族に1つの家である必要はないんですから。そんなの誰も決めてないんです。そして地球はたくさんの木と人で溢れている。建材には困りません。共に住まう者が常に家にいて、仕事も全員ホームワーク。屋内にはスポーツジムやスーパー、アミューズメント施設だってありますよ。映画館にショッピングモール、そしてそれらを繋ぐバス電車、それらが走る道路…全てが1つの建物の中にあるんです。"夜中の一人歩きは危ない"いえいえとんでもない、何時何分にどこを歩こうとそこはその方の家なのですから。"掃除が大変"いえいえとんでもない、あくまで80億人でルームシェアしているのですから、全員が掃除する必要はないのです。当番を決めてもいいし、エリアごとに分けてルンバとか使ってもいいでしょうし。材料は揃ってるのになぜ今までやる人がいなかったのか不思議で仕方ありませんよ。こんな簡単な事をするだけで、世界平和だって訪れるじゃありませんか!」
「本当に素晴らしい夢ですね。私ももれなくその80億人のひとりになれるわけですね。」
「ええ、足皮さん。もしこの夢が叶ったあかつきにはあなたを世帯主にしようと思っています。」
「え?!なぜですか!」
「こんなに語っていて楽しいインタビューは初めてでした。会社の連中は私の夢を聞いて鼻で笑いやがる。けど足皮さん、あなたは違った。私の話を、真剣に聞いてくだすった。あなたこそ私の信頼できる男だ。」
「そこまで言われると、ちょっと浮かれちゃいますね。さ、お時間も迫ってきましたのでインタビューはこれにて終了です。本日はありがとうございました。」
「いやあまだ語り足りないが、続きは80億人が住む"自宅"で酒でも飲みながらしましょうや。」
「ええ、そうですね。」
こうしてインタビューを終えた私は、今回の事を記録するため原稿用紙を買いに文房具屋に寄った。

第三幕「べとべと」
「ラッシャイ…」
小さな声でそう囁いたのは、この築100年はあろう建物を文房具屋として営んでいる店主・迫ゲロ介氏だ。
"ヂモヂ文房具店"こここそが、愛と勇気と青春と排泄と燻製と悶絶と魍魎と脱税と右肘の物語が詰まった店である。
昭和27年、初夏。頭狂都古代羅市。そのどっかしらにお住まいの迫モムみち氏は、自宅で生育していたパルプの木から紙を作り出す技術を、なんらかの方法で編み出した。それを用いてビジネスをしようと思い立ち、古代羅市内にある商店街にヂモヂ文房具店を開業した。
『たとえ地(ヂ)道な経営になろうとモ、充(ヂ-ゅう)分な量の文房具をお客様に』をモットーに、そこから文字を切り抜いてヂモヂ文房具店と名付けた。
当時の古代羅市には文房具店がなかった為ヂモヂの経営は非常に安定していた。
モムみち氏は妻との間に第一子を授かり、ゲロ介と名付けた。
『たとえハゲようとも、路(ロ)肩に無断駐車なんてしない子に育ってほしい』との思いで名付けたそうだ。
ゲロ介はすくすく育ち、やがて中学を卒業した。ゲロ介にとってはかねてからの夢だった、父親の店を継ぐというタイミングが来たのだ。
しかし、なかなかどうして、夢に描いていた文房具店経営とはあまりにもかけ離れており、若干16歳のゲロ介には厳しい現実だった。
それて歯を食いしばり、膝小僧を叩きつけ、肋骨を折り、眼球を入れ替え、様々な困難に耐えついに店主となった。
しかし父モムみちの死後、それまで積み重なってきた我慢が限界を超え、経営方針を悪い方向へと変えてしまった。
「よし、もうオレを縛るものはない。このヂモヂ文房具店を悪党の本拠地にしてやる。」
そう言い放ちゲロ介は、インターネッツで悪党募集の広告を出した。

!!!悪党大募集!!!
そこのあなた!弊社であなたの陰謀を叶えてみませんか?それともみますか?
仕事内容: 悪事
勤務地: ヂモヂ文房具店(征服の為の出張あり)
時間: 0:00〜23:59のうち実働8時間
給与: 歩合制(刈り取ってきた耳の数で賞与あり)
必要資格: 刑務所帰り・悪い事がとにかくだいすき
待遇: 給食あり・拷問部屋完備
応募はヂモヂ文房具店店主迫まで!

そして数日すると募集要項を見た悪党達から応募があり、ゲロ介は面接を執り行う事にした。
そして面接の結果、ゲロ介は3人の悪党を雇った。

1人目、アブラよしお。
自称日本一の悪党ことアブラよしお。名前の由来は、幼き頃にメダカの飼育をしていた際に偶然網目模様が浮かび上がってきた際に、それを指でつまみ掬い上げた際、いつもより重たく(恐らく汚れのせい)感じた際に、清掃前だった事に気付いた際に気付いた際に思いついたという。よくわからぬが、超ブサイクだがなんか憎めないので採用された。得意技は特にない。

2人目、MISO-SHIRU
アメリカからやってきた悪党MISO-SHIRU。日本を英語圏の国に変える事により、英語が苦手な日本人を苦しめてやるというグローバルさがうけ採用された。得意技は特にない。あやとりでなんでも作れる。

3人目、レッチョムまさこ。
紅一点のレッチョムまさこ。表の世界では上院議員をやっているが、いつか日本を手に入れ、日本中の人々を1人残らず引っ叩きたいという発言が面接時に好印象を与え採用された。得意技は特にない。

「よし、お前達がこのヂモヂ文房具店出身の悪党三人衆だ。いいか、我々のミッションはただ一つ。世界を征服する事さ…ククク…ハハハ…ハーッハッハッハ!」
「「「イェッサー」」」

こうしてアブラ、ミソシル、レッチョムとそのボスゲロ介は世界征服のために悪い事を色々執り行う事にした…。

第四幕「60歳まみれ」
田所まさべえが目を覚ますと、身体中に痛みが走った。口の中が血の味がする。それに身動きも取れない。なにやら足に枷が嵌められているようだ。それに後ろ手に組んだその手首にも枷が付けられているようで、いっさいの自由が効かない。
一体全体何がきたのか分からない。しかし目は次第に暗さに慣れてきて、だんだんと周りの状況が見えてきた。
暗くカビ臭い…そしてタイル壁と湯船。そこは、バスルームのようだ。バスルームと呼ぶにも程遠い、古めかしい廃屋の、元々バスルームだった部屋とでも言おうか。とかくまさべえはそんな空間に、何故か身体中に痛みを伴いそして手足に枷が付けられた状態で居た。
「だ、誰か!誰かいないか!それともいるのか!オレをどうするつもりだ!どうもしないでくれ!怖い!痛いのは嫌だ!確かにMっ気はあるけど、血や内臓といった、人体の内部の物質は苦手なんだ!注射の時ですらギュッと目を瞑るんだぜキミ!かけっこの際、全速力よりも転んで膝を擦り剥かないようにという方に気を使うもんだから、運動会ではあまり活躍できなかったんだ!けど中学に上がってから友人に勧められて陸上部に入部して、それからは自分に合った走り方を見つける事が出来たんだ。そうすると自然と全速力で走っても転ばなくなってよ…勉強は得意じゃねえが、陸上部に全力を尽くした中高時代だったよ。今でも走るのは大好きさ。朝早く起きて、早朝の空気を胸いっぱいに吸い込みながら走るのは最高だぜ!なので助けてくれたのむぅぅ!!!」
叫んでみたが、返答はない。やがて暗さにもほとんど慣れてきて、周りがよく見えるようになってきた。
よく見ると湯船に誰かいる。いや、浸かっている。
そいつはザバァっと立ち上がると、急いでそのバスルームのドアをあけて電気をつけた。
「いやぁ悪い悪いつい風呂が気持ちよくて寝ちまってた。まさべえ、お前大丈夫か?」
そう、ここはまさべえの友人ホーの家の風呂。風呂好きのホーが入浴中に夜酒を浴びるように飲んだまさべえが酔っ払って入ってきて、足を滑らせ気絶したが、風呂の気持ちよさに眠っちまったホーはそれにすら気付かなかったようだ。
「トホホ、まさかこのオレが酔っ払って風呂場に突撃して気絶するとは。」
「ったくまさべえお前ったら!」
「お前ももう19時間は風呂に入っている計算になる。早めに出ないと指がシワシワになるぞ。シワの溝が爪を貫通して、溝の形の穴になるぞ。想像したらクソ気持ち悪いから早く風呂から出なされ。」
「ゴボボ…」
ホーはその場で溺れ息絶えた。
あまりの悲しみにまさべえは泣き叫んだ。まさべえの涙はやがて排水溝に入り下水道を通り川へと流れ出て、オムライスを食べた。おわり。


あとがき
ネタ切れ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?