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最初の出会いは、名古屋の映画館シネマテーク。

 愛知県漂流との最初の出会いは、名古屋の映画館シネマテーク。

 映画が始まるまでの待ち時間に見つけた雑誌。漫画雑誌ガロや、フランス語か何語かわからない外国の雑誌と並んで、愛知県漂流創刊準備号はそこにあった。

  まだ発売もされていない雑誌のサンプルが棚に並んでいたのだ。

 シネマテークというのは、小さな映画館で、興行ランキングには出てこないし、テレビでCMはしてないけれど、ラジオで聞いたあの映画は、一体どこでやっているんだろうと思うと、名古屋では、ここでしかやっていないというような映画を上映している、いわゆる単館系やミニシアターと呼ばれるジャンルの映画館だ。

 同じ雑居ビルに、中国の食料品店や、ビデオデッキをたくさん並べてDVDをコピーするお仕事をしている人がいて、近くにはブスっ子クラブという風俗店あったりするごちゃごちゃした街に、おまけ目当てで映画を観に来る子どもはいない。ムズカシイ顔しながら観る映画だってあることを、大学生に教えてくれる場所だ。

 当時、ぼくも大学生だった。いなかから出てきて、名古屋の都会にビビってる学生に、ひとりで映画館に行く勇気なんかなくて、同じ下宿の友達に誘われて連れて行ってもらったのだ。

 彼も、同じ大学の同じ下宿で、同じ地方の出身だっだけれど、服装はおしゃれで、いつも文庫本を持ち歩く、かっこいい男だった。

 一枚のシャツなのに、右が緑で左が黄色というセパレートカラーの洋服を着こなせる友達はなかなかいない。たとえ、ぼくが彼と同じ服を着たとしても、初心者マークにしか見えなかっただろう。


 大人になってから、彼は、ぼくの結婚式で友人代表のあいさつをしてくれた。スピーチの中で、大学時代の思い出を語る際、彼は「愛知県漂流」という単語を口にすることをためらい、ぼくに許可を得る視線を送った。

「愛知県漂流」という言葉を親族の前で口にしてはいけないのではないか。社会に対して恥ずべきことではないか。

 この辺の感覚が正常なので、ぼくは今でも彼のことを信用している。


つづく

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