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20230607日記(ゲーム『LOOP8』を遊んだ。その2/効率のわるいことをしよう)

「嫌悪」感情タイプのラスボス(友情/愛情/嫌悪の3パターンあって、いちばんつよいやつ)をニニくん単騎で倒せたぞやったー! という喜びで勢いがついたので書き始めました。1個前の日記の続きです。

今日書きたいことを要約すると、このゲームは難易度を下げる方法が無数に用意されているし、普通にプレイすると自動的にそれを選んでしまうけれど、意図的に難易度を上げることによって急に面白さが立ち現れてくるゲームなんだなということ。前回もそう書いてるような気はします。

・戦闘が面白い
単調でつまらない、と30時間プレイ時点では書いたけど、60時間くらい遊んだら何を面白がれば良いのかにようやく辿り着けたので嬉しかった。きっと面白いに違いないと思いながら遊んでてゲームがそれに応えてくれると嬉しいよね。ちなみにプレイ時間はゲーム内の表示を参考にしてるけど、スリープ中も積算が進む仕様なので、実際にはもう10時間くらい少ないです。たぶんこの仕様にも理由があるし、そう信じていたらそのうち気づけるんだよな。なんかそういうゲームだと思った。以下、昨日どんなプレイをしていたかについて。

まず、戦闘フィールドの黄泉比良坂には仲間を2人まで連れていくことができるんですが、ボスのHPが仲間の人数で変動するので、1人で行ったほうが戦闘自体は早く終わります。これまで僕は日常パートに面白みを感じて遊んでいたし、昨日はPS4のトロフィーコンプの為の収集作業だけのつもりでやってたので、ボスが発生し次第単騎で突っ込んでさっさと戦闘を終わらせていました。

誤解を生む簡単な説明をすると、『LOOP8』は同じ町で暮らしている12人のAI入りNPCたちが、ペルソナシリーズ式で順番にボスになるゲームで、1ループあたり6回のボス戦以外に戦闘は基本ありません。誰がいつボスになるかはランダムです。一応ザコ敵はいるけど、こちらから話しかけないと戦闘にならないし、戦闘する理由もない(本当はあるけど、今回の話には関係ない)。戦闘で負けると世界は滅亡し、人間関係もステータスも全てリセットされ、「加護」と呼ばれるステータスボーナスのみを引き継いだ状態で8/1に戻ります。ゲームの目的は9月を迎えること。

で、僕は戦闘に魅力を感じていなかったから、いつもだったら倒すのが簡単になるように立ち回って好感度を調整してたんだけど、今回はトロコン目的のプレイだったので、NPCの生存条件だけ初日に整えた後はほとんど誰とも会話せずに、黙々と作業を行い、主人公ニニくんの下宿先である大山家の自室で昼寝からの夜寝を繰り返していました。

結果なんの調整もしていないので気づいたらいちばん強い「嫌悪」型でラスボスが顕現。まあ倒せずに滅亡してループしちゃってもいいんだけど、今まで体験したことのない状況だしせっかくだから戦闘してみたわけです。

すると、マニュアルに書かれていない相性がちゃんとあることがわかった。今までは日常パートで状況を整えてから戦闘パートで最強技連打するだけでやってきたし、それで真エンドまで行けちゃうから特に戦法の見直しは行う必要がなかったのだけど、今回はその戦法では勝てないのはわかっていたので、いろいろ試す余地があったんですよね。

例えば「嫌悪」タイプのラスボスに命中率ダウンのデバフ打たれると攻撃が8割がた外れるようになるんだけど、その状態でもニニくんが「愛情」タイプで攻撃(どういう感情で攻撃するかを毎回選ぶシステムです)をすると通る。他のキャラでも「愛情」だと通るのかもしんない。なんか通るような気がする。イチカの攻撃だけが何故かラスボスに当たってて不思議だなーと思ったループの記憶があるので。

ただ、ラスボスの感情タイプが「嫌悪」以外だとそもそもデバフを打ってこない(うろ覚え)から、ステータス上げて殴るだけで勝てるんですよね。日常パートで好感度調整もステータス上げも簡単に行えるので、普通にプレイしてると、勝ち筋を探す面白味は表面化しない。倒せない時はステータスが足りなかったんだなって思ってしまう。ともあれ、力押し以外の遊び方にたどり着いて、この時点ではホッとはしていた。

ここまでをまとめると、戦闘が面白くないのは難易度が不適切に低いからで、しかしプレイヤーに自発的に難易度を上げる理由はないからゲーム側が推奨するちょうどいい難易度へ誘導されないことにストレスがある、という話になります。
本当に誘導はないのか? もちろん、実はあったと言う為に僕はこの日記を書いているので、これからその話をします。

戦闘を楽しむ余裕が出てきて(簡単になった場合の言い回しな気がするが、今回は難しくなったことを喜んでいる。不思議)、戦闘パートの戦闘以外の部分も意識できるようになった僕は、日常パートで積み上げた好感度の状況によって、戦闘パートでのボスが毎回全然違う発言をしてることにも気づくことができました。普通に画面に表示される文字を全部読んでたら気づくも何もないんだけど、ボスとの会話はスキップできないので、どうせ毎回一緒だと思い込んで、テンポのわるい間延びした時間に感じながら初回以降は読み飛ばしてしまっていたのが原因。

しかし、高難易度の状況によって、最強技を連打しない、相性を意識して技を選んでいく戦闘を行うと、じっくり考えるからちゃんと文字も読むようになり、戦闘パートで敵味方が使用する技は、それ自体が対話時の発言デッキを兼ねていることを、プレイ60時間目にしてやっと理解したわけです。

ラスボスがだだをこねながらデバフを打ってくる。ニニくんは愛情をこめて鉾で殴る。発言デッキの種類は多分けっこうあるし(嫌悪ゲージをすこし増やしただけで全然違うことを言いながらボスが殴りかかってくることを確認した)、技を打つ順番、つまりセリフを言う順番も毎回違う。ループせずにラスボス直前のセーブデータから何度も滅亡しながらやり直してみたら、同じ状況からスタートしてるはずなのに全く違う対話に毎回なったので、直前状況で行動パターン確定するわけでもなく、毎戦闘ごとにボスの攻撃順、つまり対話パターンは生成されているっぽかった。ループゲーのはずなのにループせずにセーブデータからやり直してないと気づかない仕様なのでこれはけっこう驚いた。

結局最強技しか使わないのになんで何種類も技があるのか、という疑問も解消した。ボスが低難易度戦闘の対話デッキを使用している際、すぐに倒してしまわずにある程度の長さの対話を行う為だった。最弱技を使うタイミングもちゃんとあった。

つまり、『LOOP8』の戦闘は、戦闘じゃなくてインタラクティブ対話パートなのだった。日常パートが、好感度に応じてリニアに発生するイベントと順番に提示される情報しかないことに文句を言っている場合ではなかった。戦闘パートにちゃんと用意されている対話を、僕が全く読んでなかっただけ。

ここまできて、プレイヤーが戦闘の難易度を自発的に上げる理由もやっと発見できた。好感度調整は戦闘の難易度によって切り替わる発言デッキを選択する為の作業で、戦闘パートはロールプレイを生成する為の場なのです。ちなみに戦闘中の対話はフルボイスです。日常パートはパートボイス。

ということでプレイヤーが自発的に難易度を上げる(時間効率を下げる)理由はちゃんとゲーム内にあったのですが、これ一度やってみれば一発でわかるけどその一度に自発的に辿り着けないやつだなと思いました。TRPGやる人とかだと即座に察して楽しく遊べるのかもしんない。僕は察しがめちゃくちゃ悪いほうなので、たまたまラスボスの嫌悪ゲージ上げちゃった&単騎なので取れる選択肢が少なく戯れに色々試してみる余地があった、という状況になって初めて気づいたし、そうじゃなかったらこの周回は諦めて次の周回で好感度調整して難易度下げて、戦闘つまんないなーとずっと思ってたんじゃないかな。

『LOOP8』の戦闘が単調に感じた理由。それは、6体のボス×感情3タイプ×戦闘メンバー6人の組み合わせ(単騎+2人パーティ(5種)+3人パーティ(9種))=270種類の中からシチュエーション選択を行い、インタラクティブ対話機能でロールプレイを行う遊びが提供されているということがどこにも書いてないので、どうやってもクリアできる最低難易度で誰を連れて行っても最強技連打するだけの、体験が変化しない、6種類しかないボス戦闘だとプレイヤー(僕)が思い込んだ結果なのであった。

でもこのゲーム、日常パートで会話してるだけでどんどん難易度が下がっていくから、相当意識しないと高難易度にならないんだよな……。普通にクリアを目指してリソースを使い切るプレイをしていると、NPCと満遍なく喋ってしまい難易度が下がる。苦戦を楽しみたいという意志と、それがクリア可能に設計されているという信用が揃っていないと遊びの入り口に立てない。なにせループゲーなので、難易度が高くなったら一旦リセットする選択がいつでも選べる罠が仕掛けられているのだ。

・効率のわるいことをしたほうが楽しい
何かしら行動をとるたびにあらゆる難易度が下がっていくゲームなので、適度に楽しい状態を維持する為には自分の行動を制限する必要がある。戦闘の楽しみ方が見えてきたことによって、とりあえずある程度はこのゲームを信用して、効率を落としてみる気持ちが生まれた。だから最初の制約として、ファストトラベルを使わずに移動するところから始めようと思った。

移動スピードには歩行と駆け足の2種類あって、Lスティックを30度くらい傾けるともう走っちゃうので、基本的にPCは走って移動している。ゲーム中で1回も歩いたことがないプレイヤーだって、いくらでもいるんじゃないかな。

朝起きて、家から学校まで歩いてみた。PCとNPCは同一フィールド内にいる時は見かけ上同じスピードで歩いているように見えているが(そうでないとNPCに永遠に話しかけられない)、 実際にはPCのニニくんの足はかなり遅く、その調整はマップ遷移中に行われている。設定上は明言されてるんだけど、ファストトラベル使ってる数十時間はフレーバーでしかなかった(ニニくんは宇宙育ちで重力下に慣れていないから遅い)。

同居人のコノハと同時に家を出たことで、ニニくんの足の遅さはフレーバーから実装へと変化した。フィールド遷移するたびにどんどん距離を開けられて、マップを開いて確認すると、ニニくんが道のりの半分も歩いてないうちにコノハは学校に到着している。というかニニくんは始業時間までに学校に着かない。走ったところで、推奨行動の朝に神社でのおみくじを引く寄り道を加えると、始業時間5分前にギリギリ教室に駆け込むことになってしまう。ノンストップで走り続けないと始業時間に間に合わない。

つまり、プレイヤーの介入を受ける前のループでのニニくんは、授業に毎日遅刻してたんじゃなかろうか。始業時間から授業にでられないと社会的地位のパラメータが上がらないので、他の訓練の効率も下がる悪循環に陥るし、当然ニニくんが自力でループを脱出することはできなかったのではないか。この疑問は、実際歩いてみないと浮かばなかった。

歩くことによって発生した発見はもうひとつある。
それは授業終わりの学校の廊下にあった。せっかく歩いて学校に来たのだから、帰りも歩こうと思って廊下に出た際に目に入ったのは、ずっとそこにあったのに今まで一度も意識したことがない貼り紙だった。

右の壁に「廊下は静かに歩きましょう」の貼り紙 Ⓒ2023 Marvelous Inc.

学校の廊下を走ってはいけない。当たり前だ。しかし僕は発売日から今までプレイしている間、走り続けていた。NPCは誰も廊下を走ってないのにPCが走ることに対する疑問は全くなかった。フィールドは素早く移動できたほうが快適だしインタラクティブでないオブジェクトはフレーバーという認識。それがただの思い込みであることが、歩くという行為によって突然発見されたのだった。

この世界にはゲームシステム上は制約されていない秩序と規範があり、NPCはそれを意識して、守ったり破ったりしている。プレイヤーだけが何も考えずに破り続けていて、AI入りのNPCたちには、あいついつも廊下走ってるなと思われている。その場の空気すらテキストで明示されているゲームなのに、全然空気を読めていなかった。

つまり僕は「13人が織りなす唯一無二の夏」というこのゲームの御題目を全然信用せず、同じ行動原理をもつ人間としてNPCと関わること最初から放棄して、えらくスノッブな態度でいままで遊んでいたことを、この時突き付けられたわけです。

これはシナリオに対する向き合い方についてもそうだと言える。メインシナリオで提示されている情報の範囲から、キャラクターの関係を読み取るためには、日本神話上の神々の少なくとも名前と血縁関係くらいは一旦把握してサクッと紙にでも書いてみる必要があるのだけど、僕はまだその作業をしていない。どこのご家庭の本棚にもある古事記を再読するくらいのことはさっさとやっとくべきなのに、なんとなく雰囲気でお話を読んでしまっており、全く精読ができていない。

『LOOP8』は、初回プレイから全要素が解放された状態で遊べるゲームで、長く遊んでも提示される情報は別に増えたりしない。しかし、自分の行動をほんの少し見直しただけで、見える風景が劇的に変化する。見えているものすら見ていない自分に何度も気づかされる。その最初の一歩は、自宅から学校まで、歩いてみるだけで味わえる。スーパープレイは必要なくて、僕みたいなゲーム音痴の人間にもできる。

このゲームは面白さにたどり着く為の誘導が足りなさすぎる。JRPGに求められるいろんな要素が足りてないという評価も可能ではある。フィールド上に調べられるポイントが少なすぎる、と一見思えてしまうし、NPCに視覚的なエモートはほとんどない。基本はテキストベースである。しかし、壁に貼られた注意書きを読むこともせず、廊下を歩くという最低限の規範を、守るにせよ破るにせよ意識することさえまったくしていなかったプレイヤーとしての僕が言うのはちょっとはばかられる。ちゃんとテキスト飛ばさずに全部読んだ? とあらゆるタイミングでこちらを覗き込んでくる、そういう意地悪なゲームだ。ここまで来たら、既読スキップ機能がないことにも完全に納得している。プレイヤーはテキストを読み飛ばすので、既読という状態は存在しないからだ。

少なくとも、真エンディングを見たからと言ってこのゲームを遊び終わったとは僕は言えない。世界の謎どころの話ではなくて、たとえば僕は、毎日会ってるクラスメイト達の家がどのあたりにあるかを知らない。マップ上に存在しなくても、「見る」コマンドで帰宅行動をとってることを確認して尾行を行い、マップから消える瞬間を観察するだけでおそらくわかるのに、家がマップ上にオブジェクトとして明示されていないというだけで、考えることをやめてしまっている。ニニくんの住んでる大山家と同じように、NPCにも家があると決まっているのに。

話を少し戻すと、プレイヤーは走ってはいけないのかという答えは公式WEB小説にあらかじめ存在する。さらっと読めるかなーと思ったら普通に文庫1冊分くらいある。多分プレイ前に読んだほうがいいけど、プレイ後じゃないと何が書いてあるのかわからないかもしれない。

歩いていては救えない、滅びに向かう世界を救う。その為に、秩序も規範も無視してゲームシステムの許す限りPCを走らせ続ける。プレイヤーはNPCから見ると非人間的な怪物として存在する。プレイヤーが行動するたび難易度が下がっていくのは、その為にこの世界に介入しているんだから当然だ。普通にそう書いてある。人間ではないAIに、人間ではない行動をとっていると思われているのがゲームプレイヤーという人種である、という整理はけっこう面白く、思えばガンパレもそういう話だったんだなと思う。何にも考えないで遊んでたけど。

そのように製作されているのであればゲームのシナリオ内に含む形でプレイヤーをマインドセットしてくれるほうが間口が広いのでは? と思うけど、自分で公式サイトまで小説を読みにくる程度の行動もできないなら壁の貼り紙にも気づかないよね、と再び意地悪を言われているような気もする。日本神話の知識がないと、ニニくんとコノハの関係も、そもそもこの世界を閉鎖空間にしているのはイザナギだということもわからない作品だし、自分で調べる気のない人間の体験が損なわれるようになっているのは、商業作品として本当にそれでいいのか? と疑問には思う。

ともあれ、僕はまだ、ニニくんが住む大山家の、玄関に飾られている花を活けているのが誰なのかだって知らない。
その答えもきっとゲームの中にある。そう信用して次のループに飛び込むことに、特に迷いはない。そのくらいの愛嬌はあるゲームだ。

続き

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