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ところてんの功績

電気泳動では、電場をかけた薄板状のゼリーの中で、電荷をもった分子を「よーいドン!」で走らせる。ぷるぷるしたゼリーは目に見えないくらいの細かい網目状構造になっていて、そこを走る物質は小さければ速く、大きければ遅く移動するので、大きさごとにふるい分けることができる。

この解析のために使うぷるぷるゼリーを、大学の授業で作ったことがある。ふるい分けの道具として使い、きちんと分析するのが課題のゴールなので、作製途中で破れたりでもしたら一巻の終わりである。
破れたらオワリ。
そのことがいちばん印象に残っている。

ところが最近、そんなゲルを4.5mm四方の小さなマス目に切り刻むキットが販売されている。

販売しているのは、「株式会社sainome」さん。おひとつ3000円(税抜)で、Amazonでも購入できる。

決して破れてはならなかったはずのゼリーをズタズタにするなんて!
と思ったが、ズタズタにするのは分子を振り分けたあとらしい。

身体がエネルギーを作ったり情報伝達したりするプロセスは、いろいろな酵素に助けられている。だから、酵素がうまくはたらかなくなると病気になったりする。
どの酵素がどんな病気とどのように関係しているのか、まだほとんどわかっていない。それを調べるために、まずは身体の構成要員であるたくさんのタンパク質のうちのどれが、どの酵素と関係性があるのかを探る。

酵素とタンパク質とのマッチングをピカピカと蛍光でお知らせしてくれる分子が、酵素の種類別に数多く開発されている。ゼリーを使ってタンパク質を大きさ別に振り分けてから蛍光で検出すれば、ターゲットの酵素が関与するタンパク質がどれなのかがわかるので、あとは取り出して詳しく調べていけばよい。原理的には。

実際には、大きさの似ているタンパク質が密集している中で、蛍光を発しているタンパク質がどれなのかを判別し取り出すのは難しい。
そこで、もっと感度を上げるために考えられたのが、「ゼリーをズタズタに刻む」という方法である。

ゼリーを小さな区域に切り分けてから蛍光で調べると、検出した部分が染み出しにくく、感度がおよそ1000倍になったという。目的のタンパク質がごく微量にしか存在していなかったとしても、それを発見し正確に取り出せるようになったのだ。
さまざまな酵素について、タンパク質との特有の関係性を明らかにし、身体の中で起こる現象と紐づける。その知見が、身体の不具合を治す薬を創るための材料になる。

画期的な解析手法として、ゼリーズタズタ法の論文は高く評価され、海外メディアでも取り上げられたそうだ。
「日本には、『ところてん』という食べ物があってですね…」
と、少々長い前置き付きで。

さいごまでお読みくださり、ありがとうございます。