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企業・組織が試される「オンライン化」

オンライン化で効率悪化?

この冬の第6波も心配されるものの、コロナ禍の落ち着きを受けて、オンライン授業や在宅勤務を縮小する動きも目立つようになってきました。これまで日経COMEMOに書いてきたように、オンラインでのコミュニケーションは社会のあり方を変革する力があり、ポストコロナの時代も引き続き推進されるべきだと考えていますが、以下の調査にもあるように「効率が悪化する」という評価も根強いようです。

記事は以下のように締めくくられています。

働く場所や時間を社員が選べる取り組みが広がると、会社からの業務指示や期待する役割が十分には行き届かなくなる可能性もある。職務内容を明示して成果で評価する「ジョブ型」制度など、目標を明確にし自律的な働き方を促す組織づくりが課題となる。

2年にわたる「オンライン化」を通じて私自身も痛感したのは、SlackやZoomなどのオンラインツールをただ単に導入(しようと)してもうまくいかず、むしろ猛烈な反発をもって迎えられることさえある、ということです。以下はその典型的なものと言えます。

・対面でコミュニケーションを取りながら業務を進めなければ、思い違いが生じたり、「サボる」人が出てくる。
・同じ場所にいなければ、手が空いている人が次に何をしたら良いかわからず能率が落ちる。
・オンラインツールでのテキストコミュニケーションではニュアンスが伝わらず、業務時間外や忙しいタイミングに通知が来て対応を迫られると「働き方改革」にも逆行するのではないか?

個人と組織の「自律」が求められる

上に挙げたような「反発」は一見もっともに見えますが、上記記事にもあるように「自律的な働き方」が定着していれば全く問題にならないものでもあります。1つ1つ見ていきましょう。

・対面でコミュニケーションを取りながら業務を進めなければ、思い違いが生じたり、「サボる」人が出てくる。

→思い違いが生じるのは、組織内で「目的」が共有されていないため。逆に言えば目的が達成できるのであればオンラインか対面かといったコミュニケーションの手段は問題にならないはず。もちろん「いつまでに何が達成されていなければならないか」が明確であればサボりようもなくなる。

・同じ場所にいなければ、手が空いている人が次に何をしたら良いかわからず能率が落ちる。

→業務の見える化と平準化の仕組みが整っていれば、そもそも待ち状態が生じない。日本におけるいわゆる「ホワイトカラー」の生産性の低さは長年問題となっており、「ものづくり」の現場で実践されている生産性向上手法に学ぶべきであり、オンライン化を悪者にするのは本末転倒。

・オンラインツールでのテキストコミュニケーションではニュアンスが伝わらず、業務時間外や忙しいタイミングに通知が来て対応を迫られると「働き方改革」にも逆行するのではないか?

→上記記事でも指摘されているように、時間や場所に縛られない自律的な働き方こそが「働き方改革」の本質であり、育児や介護など様々な事情を抱えて働く人や、時差のあるグローバルな環境で働く人など多様な働き手が、時間や場所の制約を超えて協働できるのがオンラインの強み。Slackにも標準で深夜には通知がOFFになる仕組みがあるが、オンラインならではのルールを定め組織文化としての定着を図るべき。

このようにオンライン化への反発を見ていくと、結局のところ日本経済が長期にわたって低迷してきた1つの原因である「高度成長期の働き方」をずるずると引きずってきてしまったことが背景にあることが浮き彫りになってきます。

いまこそ「パーパス・マネジメント」を

もちろん社会人になったばかりの人や、専門的なトレーニング・経験を積まなければ「自律性」が身につかないというケースもありますから、全てをオンラインにできるというわけではありませんが、いずれにしてもオンラインの利点を活かせる自律的な組織への第一歩は、目的を明確にし組織の隅々までそれが行き渡り、客観的な基準で目的達成度に応じた評価が行われる環境を整えることと言えます。これは「ビジョン」や「ミッションステートメント」を定め公式サイトに載せればOKというものではなく、OKRなどのツールを用いながら定期的に、働く個人と組織の目的の整合性を確認する地道な作業の積み重ねによって培われる組織文化であると理解すべきで、一朝一夕に実現するものではありません。

近年「パーパス・マネジメント」という言葉に注目が集まっていますが、コロナ禍やオンライン化といった直近の情勢だけでなく、少子高齢化、輸出産業の衰退を受けいよいよ先の見通しが立てにくくなった日本において、いかに企業や組織活動を維持・成長させていくかを突き詰めて考えていくと、自ずとこの経営手法に至るということです。(筆者は以下の書籍の編集協力をおこなっています)

コロナ禍が落ち着き、「やれやれ、これでこれまでのように仕事ができる」と感じたとしたら、むしろそれは組織としての自律性に欠けており、その先行きは怪しいものなのだという点は指摘しておきたいと思います。

※この記事は日経媒体で配信するニュースをキュレーションするCOMEMOキーオピニオンリーダー(KOL)契約のもと寄稿しており日経各誌の記事も紹介します。詳しくはこちらをご参照ください。

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