見出し画像

私訳「アクロス・ザ・ユニバース」

【ここでは、私自身の体験にもとづいて1970年に発表されたビートルズのアルバム「レット・イット・ビー」のなかの1曲、「アクロス・ザ・ユニバース」を勝手に解釈して意訳しています。この私訳はあくまでも私の考えにすぎませんし、誰かに同意を強制するものでもありません。興味のある方だけ、お読みください。また、これはTMの宣伝ではありません。】


The Beatles: Across The Universe

「アクロス・ザ・ユニバース」の謎で書いたように、ビートルズのこの曲がTM(超越瞑想)の影響下で書かれたとすると、歌詞はどのような解釈になるだろうか。


1 マントラとはなにか

まず、基本的な知識として、TMの瞑想方法を解説しておきたい。自分でも説明できるが、瞑想の体験は人により異なるので、正式な説明を引用してみる。

「TMは1回20分、朝夕の2回、楽に座って目を閉じて行います。快適に座れる場所があれば座り方に決まりはありません。そして、心の中でキーワードを用いて瞑想します。キーワードはインドの伝統でマントラと呼ばれています。あなたのキーワードとその使い方は、トレーニングを受けた教師から直接習います。心のメカニクスを的確に扱うことで、無理なく瞑想することができるので、あとは自然に任せるだけです。」
Transcendental Meditation ホームページより

もっと簡単に言えば、マントラ(真言)を心の中で唱えながら瞑想するのがTMということになる。マントラというのはインドの聖典に使用された聖なる語句で、古くからヨーガで用いられてきた。TMのサイトにも、「ヨーガの中でも「ラージャ・ヨーガ」と呼ばれる瞑想のヨーガ」の伝統から編み出されたものであるとしている。

以前誰かが、「TMは別にマントラでなくても、どんな言葉でもいいのではないか」と言っていたのを覚えているが、たとえば「e-mail」という言葉をどんなに唱えても、何も起こらないと思う。瞑想は意識の純粋な層にアクセスしていくものなので、やはり聖なる語句の力を借りる必要があるだろう。

「アクロス・ザ・ユニバース」の歌詞に出てくるマントラは、「OM(オーム)」だけだ。このマントラは宇宙の根本原理を表す聖なる音とされる重要なマントラだ。だからジョンが「Jai Guru Deva, Om」と歌う時、軽い気持ちで歌っているわけではないことはふまえておく必要がある。


Ravi Shankar produced by George Harrison: Indian Chants

これはジョージがプロデュースしたラビ・シャンカールのチャント集だ。Spotifyでみつけて、すっかり気に入ってよく聴いているものだが、「OM」のマントラがいかに大切に使われているかがよくわかる。


2 TMの経験から解釈してみた(1)

それでは実際に訳しながら解釈してみよう。まず、一番有名な Words are flowing out like endless rain into a paper cup の部分。wordsはマントラのことだろう。繰り返し唱えるので複数形になっているのだ。意訳になるが、紙コップに雨が降り注ぎ続け、やがてコップから溢れていくように、ずっと繰り返されていくマントラが自分のこころから溢れていくような感じを描写していると考えたい。

それは、次のフレーズ「They slither wildly as they slip away across the universe」が、瞑想に入る前の雑念にまみれた日常的な意識がマントラの力によって荒々しくこころの宇宙にすべるように引きずり込まれていく(slither wildly)、TM瞑想法のメソッドの力を感じさせる描写になっていることからもわかる。

最初の語句はジョン自身は奥さんがおしゃべりするのを聞いて浮かんだフレーズだと説明しているようだが、すでにみたように、マハリシに幻滅したジョンが別の説明をしている可能性は否定できない。ここでは、時系列に従ってマハリシとの関係が破たんする前の、創作時点の姿を想像して再現してみたい。

もちろん、歌詞は発表された時点で作者のもとを離れ、受け取る者のそれぞれの解釈に委ねられるのが運命だから、これはあくまでわたしがこう解釈しているということにすぎないので、念のため。また、ぼく自身の体験では、瞑想に入る時はもっとすんなりと、「すーっ」と自然に入っていく感じなので、ジョンとは少し違うというのが素直な感想だ。

Pools of sorrow waves of joy are drifting through my opened mind / Possessing and caressing me

マントラの導きによって意識の少し精妙なレベルに到達すると、悲しみや悦びといった感情が現れてくる。それは大きなかたまりのようであったり、波のようであったり、様々だ。それらが漂流するようにこころにまとわりついてくる様子を表現しているのだと思う。それはジョンにとって、きっととても美しい体験だったに違いない。

Jai Guru Deva, Om

前回は無視したが、ここでジョンは「Deva」という言葉を使用している。Devaは神や神のような聖なる人(半神)という意味があるので、「神様に感謝します」と訳してもいいだろう。「Guru Dev」と歌ってしまうと特定の個人を指すことになってしまうので、あえて避けたのかもしれない。ぼくはGuru(導師)という言葉を生かしたいので「導師Devaに感謝します」と訳してみた。


3 TMの経験から解釈してみた(2)

ジョンの瞑想の段階はマントラに導かれ、また一つ、深まっていったようだ。

Images of broken light which dance before me like a million eyes

これはこのコラムの写真に選んだ宇宙のように、瞑想中に様々な色の細かい光がたくさん目の前に現れてくる様子をそのまま直接描写していると思われる。そして、ジョンは、

They call me on and on across the universe

それらの光に呼ばれて、さらにこころの宇宙深くに分け入っていく。

Thoughts meander like a restless wind inside a letter box / They tumble blindly as they make their way / Across the universe

この部分は普通に訳すとおそらく一番わかりにくい表現かもしれない。しかし、瞑想を行ったことがある人なら、それほど解釈は難しくないはずだ。

わたしたちの意識は、絶えずおしゃべりをしている。いつもなんらかの思考がこころを支配していると言ってもいい。瞑想を行おうとするとき、一番の障害になるのがこういった雑念だ。禅の修行者が雑念に支配され、瞑想に集中できないでいる時、指導者が喝をいれて警策(きょうさく)を打つのも、わたしたちがいかに雑念に支配されているかを示している。

TMがマントラを使用するのは、マントラに意識を集中することで雑念に支配されるのを防ぐためでもある。そして瞑想が深まっていくと、意識はやがて思考から離れていく。そこでは思考はこの歌詞のように、あてもなくさまよったり(meander)、やみくもに転がりまわったり(tumble blindly)するだけなのだ。


4 TMの経験から解釈してみた(3)

今度は笑い声が聞こえてきたようだ。

Sounds of laughter shades of life / Are ringing through my open ears / Inciting and inviting me

ここまでの歌詞から、肯定的な内容を歌っているので、ここもポジティブに訳してみた。ちなみに、ぼくは瞑想中に笑い声を聞いたことはない。あるいはたんに、ジョンが瞑想している部屋の外で、誰かが笑っていただけかもしれないけれど、ここで重要なのは、そういった人の笑い声が生きる意欲となってジョンを強く励ましていることだ。

瞑想は、べつになにか神秘的などこかへと人を連れ去るものではない。むしろ、深い瞑想体験によって生のエネルギーを回復し、現実に取り組み、肯定的な人生へと歩みを踏み出すためのものだ。

Limitless undying love which shines around me like a million suns / It calls me on and on / Across the universe

ジョンは無数の太陽が輝くような無限の愛を感じたようだ。ぼく自身はこういう感じを経験したことはないが、あるいは瞑想体験のキリスト教的な表現かもしれない。

こうしてみてくると、Nothing’s gonna change my worldのmy worldはこころの宇宙(universe)を指していると考えるのが自然だと思う。ジョンは自分自身のなかに無限の宇宙が拡がっていることを知って、救われたのだ。

***

「アクロス・ザ・ユニバース」は、ジョンがTM瞑想の体験を直接描いたものだと考えれば、それほど難解な歌詞ではないと思われる。もしもそうではないと仮定すると、なんのためにJai Guru Deva, Omと繰り返しているのかがわからなくなる。

それと同時に感じるのは、キリスト教文化圏で育ったジョンのような多感な青年の感覚と、ぼくのような日本という、仏教の伝統があるところで育った者の瞑想体験は、少し違うということだ。誤解を恐れずに言えば、「アクロス・ザ・ユニバース」に描かれたジョンの瞑想体験は、まだ初心者のものだろう。しかも、あまりヨーガや仏教などの東洋的な世界観に馴染みのない、キリスト教に強く影響を受けているイギリス人の若者の体験だと思う。

もしもビートルズとマハリシの関係がもっと長く続き、ジョンの瞑想体験もずっと深まっていったとしたら、ジョンがいったいどんな歌を作ったか、聴いてみたかった。

ぼくにはインドのリシケシュで本当は何が起こったのかはわからないけれど、「アクロス・ザ・ユニバース」と「Sexy Sadie」を聴き比べてみれば、答えは自ずから明らかだとも思える。そして、ビートルズだけでなく、この時代の多くの若者たちがインドの精神世界に救いを求めて、あるいは世界を救おうとして旅立ったこと、その影響は今もまだ深く潜航して続いていることを、今の若い皆さんに知ってほしいと思う。

たとえば、日本中あちこちにヨーガ教室があることとか、菜食主義は昔からあったものの、昨今話題のヴィーガニズムのような考え方が拡がってきたことなども、さかのぼればこのあたりが始まりなのだ。


5 私訳「アクロス・ザ・ユニバース」

Across The Universe
by The Beatles

Words are flowing out like endless rain into a paper cup
They slither wildly as they slip away across the universe
Pools of sorrow waves of joy are drifting through my opened mind
Possessing and caressing me

*Jai Guru Deva, Om
 Nothing’s gonna change my world
 Nothing’s gonna change my world
 Nothing’s gonna change my world
 Nothing’s gonna change my world

Images of broken light which dance before me like a million eyes
They call me on and on across the universe
Thoughts meander like a restless wind inside a letter box
They tumble blindly as they make their way
Across the universe

*repeat

Sounds of laughter shades of life
Are ringing through my open ears
Inciting and inviting me
Limitless undying love which shines around me like a million suns
It calls me on and on
Across the universe

*repeat

**Jai Guru Deva
**repeat several times


私訳「アクロス・ザ・ユニバース」

繰り返されるマントラは
降り続く雨が やがて紙コップから流れ出すように
わたしから溢れだし
荒々しくこころの宇宙のなかにすべり込んでいく

おおきな悲しみや悦びの感情が
わたしの開かれたこころのなかを漂いながら
波のようにまとわりつき、快く撫でていく

導師Devaに感謝いたします オーム
わたしの開かれたこころを変えるものは何もない
わたしの開かれたこころを変えるものは何もなかった
傷つき、抵抗していた自分は本当の自分ではなかった
わたしの開かれたこころを変えるものは何もなかったのだ

粉々に砕けた光のかけらが
無数の目のように私のまえで踊る
そのヴィジョンがわたしをこころの宇宙へと誘う

思考は郵便箱の中の落ち着かない風のように
あてもなくさまよう
それはこころの宇宙のなかを
やみくもに転がりまわるだけ

導師Devaに感謝いたします オーム
わたしの開かれたこころを変えるものは何もない
すべてはあるがまま、変わることはない
開かれたこころは完全で、変わる必要もない
わたしはこのこころの宇宙に満たされて存在している

生活を彩る笑い声が
はっきりと目覚めたわたしの耳に聞こえてくる
それはわたしをはげまし 魅了する

限りのない永遠の愛が
無数の太陽のようにわたしの周りで輝いている
それがわたしをこころの宇宙へと誘い続けるのだ

導師Devaに感謝いたします オーム
わたしの開かれたこころを変えるものは何もない
このわたしの世界は永遠に変わらない
すべては愛に満たされ、世界は無限に拡がっている
もうなにものもわたしを傷つけることはない

導師Devaに感謝
(繰り返し)

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

Om・Mani・Padme・Hum !
1

大橋ミノル

1961年東京生まれ。主に出版・編集関係に従事。現在は非営利機関にて学術誌の編集を請け負っている。 最近、この仕事は「言の葉」の世界の植木職人みたいだなと思います。 著書:『A型のこころ』 https://twitter.com/minoru_oohashi
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。