変化球の再現性について分析してみた

昨年夏ごろから下書きに埋もれてた分析みたいなものを掘り出したので完成させてみましたが、ちょっととっ散らかってしまいました。ごめんなさい。


○ プロローグ

baseball savantのトップページにDevin Williamsに関する記事が載っていました。筆者はワースポにもときたま登場するアナリストDavid Adler(デービッド・アドラー)。

この記事の内容は「Devinのエアベンダーはホームベースの横幅(17インチ)以上変化する、とてつもない変化球だ」というもの。そのなかで、エアベンダーにヤマを張る打者への対策に関してDevinがこのように語っていました。

"I can shape it differently, just based off what I want to do," Williams said. "I don't want to show guys the same shape over and over again. So if I'm gonna throw it a lot, it's gonna have different shapes to it. Sometimes I want it to go more straight down, sometimes I want the one that's gonna run away from you. It just depends on what I feel like the situation calls for."

「自分がどうしたいかを考えて、形を変えることができるんだ。」ウィリアムスは言う。「同じ形を何度も見せたくない。だから、何度も投げるなら、いろいろな形にする。もっと真っすぐに投げたいときもあれば、逃げるように投げたいときもある。シチュエーションによって使い分けるんだ」。

さすが球界トップクラスのクローザーは違うな(誰目線)と改めて感服しましたが、同時にこうも思いました。


「軌道(変化量)を狙って変える投手がいるなら、常に同じ軌道のボールを投げる人がいてもおかしくない。それもスキルのひとつな気がする。」


投手の求められる技術に"制球力"があります。そしてこれを構成する要素のひとつは""ボールの軌道をコントロールする能力""です。投げるたびに意図せずボールの曲がり幅がぶれるようでは大変です。もしスライダーが想定より横変化せずゾーンに入ってしまったら痛打されるでしょう。

皆さんご存じPithcingNinja。MLBファン歴1年目の自分は、彼がアップするえぐい変化球をみて「MLBのピッチャーはすごいなぁ」とワクワクしたのですが、今思うとああいう特異なボールはいわば外れ値で、あんな曲がる変化球は滅多にお見かけしないんですよね。



ということで、「縦/横の変化量」をもとに再現性の高いボールを投げる投手を探します。ここでは再現性を表す指標をHRP(Hard to Replicate Pitch)とします。

○ HRPの算出

Devinのエアベンダーを例に。

まず、縦横それぞれの平均変化量を算出します。
ここでは赤い点が平均変化量です。

x軸が横(利き腕方向)変化、y軸が縦変化

続いて各投球の変化量の差(赤線の距離)を求め、この平均をHRPとします。

HRPが小さいほどばらつきが小さく、再現性の高い球種となります。反対に、HRPが大きいほどばらつきが大きく、再現性に欠ける球種となります。


○ 集計結果

いずれの球種も2023年レギュラーシーズンで100球以上投げた投手が対象です。

各球種上位20人、下位20人をピックアップしています。

◇ フォーシーム

deGromが4位に位置しています。100mph近いフォーシームをコーナーいっぱいに投げる映像をよく目にしますが、変化量のコントロールという観点からも彼のずば抜けた能力が伺えます。


◇ カーブ(ナックルカーブ・スラーブ)

昨年完全試合を達成したGermanが1位。フォーシームでは下位だったJ.P.Franceが2位に位置しています。


◇ スライダー

昨年MLBデビューしたBachmanが少ないサンプル数(190球)ではあったものの1位。2位にはワールドシリーズで胴上げ投手となったSborzが入りました。ざっと見た感じ、縦スラ気味の投手はHRPが低く、横変化の大きいスイーパー気味の投手はHRPが高くなるとみられます。


◇ シンカー

Chapmanが3位にランクインしています。コントロールがいまいちという印象を持っていたのでとても驚きでした。ただ、変化量の大きいフォーシームをシンカーと判定された可能性があり、詳しく調べる必要がありそうです。


◇ スプリット(フォーク)

スプリット

他球種と比較して全体的にHRPが高めになっています。変化量をコントロールするのが難しい球種といえます。尤も「ボールゾーンに落ちればよい」という意識で投げている可能性も十分考えられます。


◇ その他(カッター、チェンジアップ、スイーパー)

カッター
チェンジアップ
スイーパー

本来であれば各選手の変化量マップで分析を深めるべきですが、今回は一旦おしまい。


○ 投球の再現性と得点価値の関係性

再現性が得点価値にどれだけ影響を与えているか検証します。

直感的には、再現性の高い投手は質の高いボールを投げている印象があるため、再現性が上がるほど得点価値も上がるように思う一方、ばらつきが小さい球種ほど打者は対策しやすいため、得点価値は下がるとも感じました。


2022-2023年を対象に、両シーズンで各球種を100球以上投げた投手について、HRPの変化と得点価値(Run Value)の変化で単回帰分析を行います。

○ 結果

R:相関係数
p:p値
R:相関係数
p:p値

8球種それぞれ検証した結果、ほとんどの球種では得点価値に影響を与えていませんでした。シンカーとチェンジアップのみ弱い相関が確認されました。


ひとりごと

このマシンが再現する投球は、各投手の"平均的な"回転量・回転軸"から生まれた"平均的な"変化量と思われます。そんなマシンで訓練を積んだ打者への対抗策は、平均から乖離したボールを投げることでしょう。ただ、そもそも球種の変化量をコントロールすることは可能なのか…いやいや無意識でもいいから変化量がばらつけばヨシなのか…。


参考文献



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